さんぽセンター Webひろば

独立行政法人 労働者健康安全機構(JOHAS)

中小企業の産業保健

株式会社 浅野製版所

健康経営は会社を継続していくため
だから社員の健康は徹底して守る

東京都中央区築地に本社のある株式会社浅野製版所は、1937年創業、80年を超える歴史を持つ。印刷工程のなかでも重要な鍵を握る製版だが、同社では、特に高い技術を求められるブランド品などの広告製版を大手広告代理店から受注する他、販促ツールの企画、デザイン、印刷までをワンストップでサポートしている。また、同社は健康経営への先進的な取組でも知られ、健康優良企業(金)認定、健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定など、数多くの受賞や認定を受けている。

しかし、そんな同社にも残業時間が多く、社員が不満を抱え、離職率が高くなっていた時期がある。それを乗り越え、多方面から働き方改革と健康経営に取り組んだ結果、労働時間短縮と社員の意識改革に成功した。そこで、ここに至るためにどのような視点で改革を行い、健康経営に取り組んだのか、健康経営推進の中心的な存在であり、産業カウンセラーでもある経営企画部の新佐絵吏(しんさえり)課長にお話を伺った。

一度は挫折した働き方改革

新佐課長が入社した2012年当時の同社は、「健康」からは程遠い状態だったという。「デジタル化にともない業績が悪化するなかでも仕事量は減らず、過重労働が慢性化していました。夜中でもクライアントから連絡があれば対応しなければならず、しかもミスをしたら大事故。個人にかかる負担が大きく、プレッシャーで夜も眠れないという社員もいました」(新佐課長)。

そこで、新佐課長は勤務形態を徹底して見直し、年間休日の増加や有給休暇の取得促進、残業時間の徹底管理といった改革を進め、2015年には中央区ワーク・ライフ・バランス推進企業の認定を受ける。しかし、制作部門の主力社員が「この働き方では仕事のクオリティも自分の能力も落ちてしまう」という理由で退職すると、その下で働いていた社員も退職し、今までより少ない人員で同量の仕事をこなさなければならない事態となった。ここで新佐課長は思い切った方向転換を図る。「『働きやすい会社』というものを社員に押しつけている、ということに気づきました。本当に働きやすい会社とはどのようなものなのかを全員に聞いてみようと考えたのです」。

2014年から実施していた全社員面談だが、2016年には事前にアンケートを取った上で行うことにした。仕事だけでなくプライベートにも踏み込み、子育てや家庭のことまでも徹底してヒアリングした。この面談の結果、社員が希望する働き方が見えてくれば、それに沿った方向性を目指して組織体制や制度を再整備すればよいはずだったが、面談後に回答をまとめてみたところ、回答は見事にバラバラだったという。

「現場でもっとバリバリ働きたいのに管理職をやらされて不満を持っている職人がいるかと思うと、いわれたことだけをやりたい人もいる。この実態を見た時に、労働人口がますます減少する将来を考えて、今のうちにどんな人でも働ける組織にしておかないと会社がもたない、と感じました」と新佐課長。そこから導き出されたのは「社員がこの会社に残りたいと思ってくれる状況にする」という目標だった。具体的には全作業工程を見直して不要な作業をなくし、管理職を「管理専門職」と「技術専門職」という2つの職務に分解して、本人の希望や能力に応じて選択できるようにするなど、多彩なキャリアパスを用意した。

こうして働き方改革が動き出し、会社の本気度が社員に伝わり始めたところで健康経営への取組を本格化させたのが2017年である。

メッセージを明確にして健康経営を推進

中小企業が健康経営を導入するときの大きなハードルは、「健康」と「経営」の関わりがわかりにくい点だと新佐課長は指摘する。「社員を健康にすることは会社がやることなのか」という疑問。「健康はプライベートな問題」という意識。そういったハードルを超えるために同社が示したメッセージは、「健康経営は会社を継続していくため。だからあなた達は健康でいなければならないし、私たちも健康に働いていけるための組織を徹底的につくっていくので協力してください」というものだった。

「このメッセージはさまざまな施策を通して社員に届いたと思いますし、これからも変わりません」と新佐課長。この大前提のもと、少ない人数でも協力しあって効率よく健康的に働ける組織への改善や、定期的な面談、サンクスカード※1による円滑なコミュニケーションの促進、定期的な社内フィットネス※2などによる健康支援など、具体的な施策を次々と実行に移す。「健康経営優良法人の認定項目はよく考えられていて、当社の課題のすべてが網羅されていました」と新佐課長。その結果、月平均残業時間は18時間まで抑えられ、社員満足度も向上した。

さらに現在、こうした取組はコロナ禍でも真価を発揮している。「普通は『仕事が止まったら売上をどうしよう』となると思うのですが、当社では『とにかく社員の命と健康を守れ!』ということを浅野社長から強くいわれました。いままでの取組はほとんどボトムアップで行ってきて、それがいい結果につながったと思っていたのですが、この時はトップダウンで指示が出た。だからこそものすごくインパクトがありましたし、本気度が伝わったと思います」と新佐課長。

こうして2月から緊急コロナ対策がスタート。勤務形態については3月の初めには感染症に関するBCP(事業継続計画)を制作、4月の初めにはテレワークをスタートして7割が在宅に切り替わるという素早さで体制を整えてきた。出勤も可能となった6月には、制作部を本社と第2ビルの2拠点に半数ずつ配置しなおし、お互いに極力交流しないようにすることで、万一どちらかで感染者が出てもビルを一つ封鎖することで食い止めようという思い切った対策も実施している。

働き方改革と健康経営への取組という基礎があったからこそ、新型コロナ禍という未聞の災害にも混乱なく対応できた同社。社員の評価も高く、チャットツールを活用して行ったアンケートには「大変な状況のなか、会社がものすごい速さで対応してくれた」などの声が寄せられている。

今後については、「年代とライフステージに合わせて、働く場所を変えられる仕組み」を構築したいという新佐課長。同社の先進的な取組はこれからも健康経営の新しい在り方を示し続けていくに違いない。

  • ※1サンクスカード:「助けてくれてありがとう」の気持ちをカードに込めて、さり気なく渡すことでコミュニケーションを促進している。
  • ※2社内フィットネス:週1回15分のストレッチを行っていた。現在はリモートで実施している。

会社概要 株式会社浅野製版所

事業内容: 画像処理、デザイン、プランニング、DTP、印刷関連事業 
設立:1937年 従業員:42名(2020年10月現在)

所在地:東京都中央区