2002年 第1号

日本職業・災害医学会会誌  第50巻 第1号

Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology
Vol.50 No.1 January 2002




巻頭言
これからの勤労者医療―とくに「職業病」の予防について―

原 著
勤労者医療における脳・心の発症に関する臨床的研究
剖検例からみた自動車運転手の重症度評価
高回転式アテレクトミー施行時に見られる血液細胞の変化について
大腿骨頚部骨折の退院時の歩行能力に影響する因子の検討
初めてリハビリテーション教育を受ける福祉専門学校生のリハビリテーションに対する考え方の変化
慢性期脊髄損傷者の予後の実態
VDT作業者の自覚症状と職業性ストレス

症 例
意識障害を主訴に搬送された頭部外傷の2例―外傷と内因性くも膜下出血の比較―
横紋筋融解症を合併したポリオ後症候群
皮膚筋炎,膠原病肺を合併した珪肺症の1例
消火器爆発による顔面外傷の1例
酸とアルカリによる眼薬傷の2症例
二輪車乗車におけるハーフ形ヘルメットの危険性について



巻頭言
これからの勤労者医療
─とくに「職業病」の予防について─


大森 弘之
労働福祉事業団 岡山労災病院 院長

 勤労者医療とは,いう迄もなく働く人々の疾病の予防,治療,そしてリハビリテーションというすべての段階に携るのはもちろん,健康の増進に迄力を注ぐ,一貫した保健活動である.
 今日,勤労者医療を推進する上で,多くの重要課題があるが,その一つとして挙げるべきは,勤労者の「職業病」を予防し,労働生活における健康を保持することであると考える.
 従来,勤労者の疾病に対しては,労働災害はもちろん,様々な病態に対する治療,加えてリハビリテーションの面では多くの努力が重ねられてきた.また,疾病の早期発見という目的のために,勤労者に対する健康診断の実施も極めて積極的に行われてきた.しかし,こと予防に対する取り組みに関しての現状は決して十分なものとは云えない.向後,「職業病」の予防こそ勤労者の健康保持の原点であることをあらためて強く認識して学会活動を展開すべきであると考える.
 「職業病」の予防を考えるとき,その基礎となるものは職場環境因子の人体に対する影響の医学的評価である.
 環境因子の分析で先ず対象となるのは,有害物質であるが,従来から問題となっている化学的,物理的,生物的因子に加えて,産業活動の急激な変容によってもたらされた問題が注目されている.すなわち,ハイテク産業の発展による粉塵の超微粒子化,高純度化である.これにより本来の物質自体のもつ物理化学的性状に本質的変化(活性化)がもたらされることになり,本来の物質特性にない複雑な臨床病態,経過,予後をもつ健康障害が発現する.
 最近では,ダイオキシンを始めとする,いわゆる環境ホルモンに対して,社会的にも関心が高まっている.これら物質は分解されにくいため,長期間にわたって環境中に残留し,今後人類に及ぼす影響が憂慮されている.これら物質にばく露される可能性のある職場での濃度測定と健康への影響に対する予防対策が急がれている.
 以上のような有害物質の測定によって得られたデータは,あくまで臨床医学の視点で分析し,惹起される可能性のある疾患との関連において評価し,対策の支援を行うべきである.
 次に職場におけるメンタルヘルスについてである.この問題が提起されて久しいが,約60%の勤労者が就業上何らかの不平,不満,不安をもっている現状があり,今後共この分野での取り組みは益々重要となって来る.厚生・労働省は,勤労者の心の健康づくりの指針を示したが,労働者自身によるセルフケア,管理監督者,健康管理者によるケアのほかに,事業場外の機関及び専門家の活用という項目を挙げている.ここに臨床医が大いにかかわり,ストレスによる心の障害の予防に対して専門的助言と指導を行うべきであると考える.
 そのほか,急速に増加する女子勤労者の健康管理についてであるが,今迄は,とかく女性を対象とした施設の充実という面に重点が置かれていたきらいがある.これからは女性特有のライフサイクルに対する考慮,母性保健という視点でのとらえ方が必要であろう.
 以上の如く,予防医学的側面で勤労者医療を考えるとき,われわれが取り組むべき対象は極めて広範囲であるといえる.それら対象の一つ一つに取り組むとき,最も肝要なことは,職場環境の分析,評価こそが適確な予防につながるという認識であろう.「職業病」の予防に力点を置いた今後のわれわれの活動が,勤労者のQOLの向上に資することを切に祈念するものである.
UP

原 著
勤労者医療における脳・心の発症に関する臨床的研究

三原 千恵,島   健,平松和嗣久,石野 真輔
辻上 周治,辻上 智史,石之神小織,山本 修三
榎野  新,林  載鳳
中国労災病院勤労者脳・循環器センター

高橋 正明
浜松労災病院勤労者脳循環器病センター

脇田  昇
神戸労災病院勤労者心臓センター

永田 正毅
関西労災病院循環器科

(平成13年10月2日受付)

目的:近年,突然死の死亡原因として,脳・心疾患が注目を浴びている.両者に共通した動脈硬化という危険因子につき比較検討を行った.
対象と方法:当施設の脳神経外科にて入院治療を行った脳血管疾患症例(脳疾患群)240例と,4つの労災病院の循環器科,心臓血管外科にて経皮的冠状動脈拡張術(PTA),stenting,冠状動脈バイパス術(CABG)を行った冠動脈疾患症例(心疾患群)422例に対して,危険因子についてその有無と重症度を調べ,スコアリングを行って検討した.また,内頚動脈内膜切除術(CEA)症例の虚血性心疾患合併,冠動脈治療症例の頚動脈病変についても調べた.
結果:1)脳疾患群:生活習慣病の合併は,高血圧65%,糖尿病28%,高脂血症19%であり,2者を合併したものが18%,3者の合併が10%であった.心疾患の既往歴は22%であった.肥満は48%,喫煙歴は42%,飲酒歴は46%にみられた.脳卒中の家族歴は20%であった.2)心疾患群:高血圧は49%,糖尿病は34%,高脂血症は28%にみられ,2者の合併が24%,3者の合併が8%であった.脳梗塞の既往歴は15%であった.肥満は65%,喫煙歴は43%,飲酒歴は25%にみられた.心疾患の家族歴は19%であった.3)当施設での脳ドック,人間ドックでは,生活習慣病の合併は21%であり,今回の脳疾患群・心疾患群の方がより高率に合併していた.危険因子のスコアリングができた253例のうち,半数以上がリスク~ハイリスクグループであった.4)CEA154例のうち22%に虚血性心疾患がみられ,冠動脈治療例51例のうち31%に頚動脈の狭窄・閉塞がみられた.
総括:脳・心疾患に共通した危険因子である,生活習慣病の合併は両者ともほぼ同様の比率であった.また互いの疾患の合併率は20%台であり,危険因子として重要な位置を占めていた.したがって脳・心疾患の予防には,生活習慣病の予防,治療とともに,脳疾患および心疾患の発見,治療が重要である.
(日職災医誌,50:2─7,2002)
─キーワード─
脳・心疾患,危険因子,生活習慣病
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剖検例からみた自動車運転手の重症度評価

一杉 正仁,高津 光洋
東京慈恵会医科大学法医学講座

(平成13年6月14日受付)

自動車乗員の交通事故死剖検例を対象に,主要損傷および重症度を分析した.昭和61年から平成12年までに東京慈恵会医科大学法医学講座で行われた交通事故死法医剖検例のなかから,シートベルト非着用で,エアバック未装着の普通乗用車運転手が前突事故で死亡した例を対象とした.対象は37例,平均年齢は53.9±19.2歳であり,全例の81.1%は事故後1日以内に死亡していた.ISSの平均は48.9±25.3であるが,全例の43.2%でISSが75と最高値であった.各部位のAISは,胸部(4.0±2.0)と腹部(2.9±1.7)で高い傾向にあった.また,AISが3以上の重症損傷を有する部位も胸部(70.3%)と腹部(64.9%)に多く,特に胸部および腹部の両部位に重症損傷を有する例が約半数であった.主要損傷では,肋骨骨折が最も多く(67.6%),以下肝損傷(45.9%),肺損傷(40.5%),心損傷14例(37.8%)と続いた.これは,ハンドルがある程度の大きさを有することから,胸部と同時に上腹部にも大きな外力が加わることを示唆している.肋骨骨折と重症度の関係では,骨折本数が増えるにしたがって,重症度は高くなり,特に8本以上の肋骨骨折があると,ほぼ救命不可能な損傷を有することがわかった.本報告は,剖検例に基づいた正確な外傷分析であり,今後の安全対策に役立つものと思われる.
(日職災医誌,50:8─11,2002)
─キーワード─
交通事故,剖検,重症度,運転手
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高回転式アテレクトミー施行時に見られる血液細胞の変化について

小谷 順一,南都 伸介,大原 知樹,両角 隆一
渡部 徹也,藤田 雅史,西尾 まゆ,永田 正毅
関西労災病院循環器科

(平成13年6月26日受付)

高度の石灰化を有する冠状動脈病変に対する治療器具としてロータブレーター(PTCRA)は開発されたが,先端のburrを超高速回転させることにより病変を削るといった原理のためか,独特の術中の合併症が報告されるようになった.我々は,高度の溶血が惹起されていると考え,回転スピードが血液細胞に影響を与える影響と臨床における至適スピードについて,検討を行った.
対象と方法:待機的PTCRA症例23例において,術直前に体外のガイデリングカテーテル内にてburrを回転させ,一過性のshear forceを形成した.採血は回転前(対照)・180,000回転,140,000回転・回転後,の順に行った.結果:回転前と回転後では結果に有意な差を認めなかったが,細胞粉砕による溶血の亢進がみられた.GOT,LDH,K,Free Hgbの各項目は回転数に依存して高値となった.また,burrの大きさ,すなわちカテーテル内腔との比が大きい程その程度は著明となった.
結果:PTCRAによって,血液細胞破砕による高度の溶血が見られる.その程度は140,000回転を境に著明となった.血液溶血によって血管攣縮などの二次的な病態が惹起されるため,PTCRA施行の際には,至適回転数およびburrサイズの慎重な選択が必要である.
(日職災医誌,50:12─16,2002)
─キーワード─
ロータブレーター,赤血球溶血,slow flow,no-reflow
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大腿骨頚部骨折の退院時の歩行能力に影響する因子の検討
在院日数と早期リハビリテーションの関係を含めて

平松和嗣久,豊田 章宏
中国労災病院リハビリテーションセンター

(平成13年7月2日受付)

大腿骨頚部骨折症例について退院時の歩行能力に影響を与えた因子について検討すると共に,早期リハビリテーションの在院日数に与える影響について検討した.対象は当院で過去3年間に入院加療を行った大腿骨頚部骨折症例191例で受傷前の歩行能力,退院時の歩行能力,年齢,痴呆の有無,片麻痺の有無,入院からリハ開始までの期間及び在院日数について調査した.その結果,痴呆の存在が退院時の歩行能力に最も影響を与える因子であった.また退院時に杖歩行以上の独歩可能であった症例について,入院から3日以内の早期リハの施行の有無により2群に分けて検討した結果,早期リハ施行群で平均在院日数が約7日短縮されていた.
(日職災医誌,50:17─19,2002)
─キーワード─
大腿骨頚部骨折,歩行能力,早期リハビリテーション
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初めてリハビリテーション教育を受ける福祉専門学校生の
リハビリテーションに対する考え方の変化


峯松  亮1),吉村  理2)
1)老人保健施設「平和の里」
2)広島大学医学部保健学科


(平成13年8月17日受付)

介護福祉士を目指す福祉専門学校新入生が初めてリハビリテーション(リハ)教育を受けることにより,リハ関連職として,リハに対する考え方の変化をアンケート調査にて検討することを目的とした.「リハビリテーション概論」の講義を週1回,1コマ90分で15回行い,第1回目と第15回目の講義時に学生の意識調査をアンケートにて行った.アンケートの有効回答率は97.4%,その平均年齢は18.2歳であった.リハという言葉を聞いたことのあるものは94.7%に達したが,リハ現場を見たことのあるものは65.8%であった.リハイメージに対しては機能維持,自立訓練,社会復帰といった外見的なものが多く,講義後は奧が深い,社会事業という意見が見られた.講義前はリハの知識,技術の必要性を感じているものは8割以上であったが,それらを学ぶ必要性を感じているものは7割程度であった.しかし,リハ知識,技術を学びたいとしているものは9割以上を占めた.講義後は,全員がリハ知識は必要と感じ,ほとんどのものがリハ知識を学ぶ価値があると感じていた.これに対し,リハ技術を必要と感じるものは9割程度で,学ぶ価値があるとしたものは8割強であった.そのもっともたる理由は,リハ専門職がいるとする意見であった.講義を通して,ほとんどの学生がリハ知識,技術を学ぶ価値があると実感し,リハ知識,技術を学ぶ必要性を感じたものが多かったが,技術に関しては,リハ専門職の存在のため必要性を感じないとしたものが若干認められた.講義前後で,リハに対する理解度の自己評価は約15%の有意な上昇が認められ,リハ教育の意義は高く,その必要性が感じられた.今回,学生の必要比重は知識の方が大きかったが,これは初回のリハ教育であり,必要な知識を欲する時期(知識を吸収する段階)であるためと考えられた.
(日職災医誌,50:20─24,2002)
─キーワード─
福祉専門学校生,リハビリテーション教育,アンケート調査
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慢性期脊髄損傷者の予後の実態

佐久間祐子1),長谷川友紀1),高柳満喜子1)
井原 一成1),中村 太郎2),矢野 英雄3)
1)東邦大学医学部公衆衛生学教室
2)医療法人恵愛会大分中村病院
3)国立身体障害者リハビリテーションセンター学院


(平成13年8月29日受付)

目的:慢性期脊髄損傷者を対象として自記式質問票調査を行い,その予後について,特に自覚症状と自覚的な悪化に焦点を当て実態を明らかにする.
方法:慢性期脊髄損傷者1,621名に自記式質問調査票を郵送し,736名の有効回答を得た.調査内容は,受傷後の経過,生活状況,ADL(activities of daily living:日常生活動作),自覚症状に関連する項目である.各項目から慢性期脊髄損傷者の実態を把握すると共に,自覚的な症状の悪化あるいはそれに基づく障害の進行を二次的障害として,二次的障害の累積有病率,二次的障害有訴者の特徴と,その関連要因を検討した.
結果:1.対象者は,男性が86.5%,現年齢中央値は44歳,受傷後経過年数中央値は17年であった.受傷時年齢中央値は23歳,受傷時症状が重症,完全麻痺,損傷高位が胸髄以上の者がそれぞれ約80%を占めた.運動習慣,筋肉の酷使があると回答した者がそれぞれ約半数であった.ADLは約80%が自立していると答えた.筋肉痛,疲労感など自覚症状17項目のうち10項目が50%以上の者に認められた.
 2.二次的障害の有病率は50.7%であった.累積有病率は,受傷後経過年数と共にほぼ一定の割合で増加していた.
 3.二次的障害がある群はない群に比較して,受傷後経過年数が長期の者,筋肉を酷使している者,疲労感,筋力低下などの自覚症状がある者が多く認められた.さらに,二次的障害の関連要因をオッズ比を用いて検討したところ,受傷後経過年数と筋肉の過用に有意な関連があり,この関連は性・年齢調整後,及び多重ロジスティック回帰分析を用いたときも変わらなかった.
結論:1.脊髄損傷者では二次的障害が発生し,受傷後経過年数と共にほぼ一定の割合で増加する.2.二次的障害は受傷後経過年数と筋肉の過用が関連し,通常の加齢では説明し得ない慢性期脊髄損傷者の健康問題であることが示唆された.
(日職災医誌,50:25─35,2002)
─キーワード─
脊髄損傷,二次的障害,質問票調査
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VDT作業者の自覚症状と職業性ストレス

牧野 茂徳,山本 健也**,高田  勗**,櫻井 治彦**
岐阜大学医学部看護学科(前中央労働災害防止協会・労働衛生調査分析センター)
**中央労働災害防止協会・労働衛生調査分析センター

(平成13年10月31日受付)

 1998年11月から12月にかけて中央労働災害防止協会・労働衛生調査分析センターでVDT健康診断を受診し,調査票のすべての項目に回答のあった男性180人を対象に,JCQを用いて自覚症状と職業性ストレスとの関連について検討した.
 対象者の平均年齢,標準偏差は33.9±9.2歳であった.年齢分布をみると,25~29歳が最も多く,次に30~34歳そして35~39歳の順であった.1日のVDT作業時間は8時間以上が最も多く32.8%,次に6時間以上8時間未満が31.7%であった.作業時間を6時間未満と6時間以上に分けると6時間未満は35.6%,6時間以上は64.4%であった.自覚症状の訴え率は「眼が疲れる」24.4%,「肩がこる・痛い」16.1%,「くびがこる・痛い」13.9%,「ものがぼやける・かすむ」13.3%の順であった.
 自覚症状と職業性ストレスとの関連をみると,「眼がよくかわく」,「疲れを次の日にもちこす」は仕事のコントロールの低い群で有意に高率であった.「疲れを次の日にもちこす」,「頸がこる・痛い」は仕事のストレインの高い群で有意に高率であった.次に,VDT作業時間を6時間未満と6時間以上に分け,同様に関連をみると,6時間未満では,自覚症状と職業性ストレスとの関連は認められなかった.6時間以上では,「眼がよくかわく」は仕事のコントロールの低い群で有意に高率であった.「疲れを次の日にもちこす」,「頸がこる・痛い」は仕事のストレインの高い群で有意に高率であった.
(日職災医誌,50:36─40,2002)
─キーワード─
VDT作業,自覚症状,職業性ストレス
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症 例
意識障害を主訴に搬送された頭部外傷の2例
─外傷と内因性くも膜下出血の比較─


米川  力,中永士師明
秋田大学医学部付属病院救急部・集中治療部

(平成13年6月27日受付)


外傷性くも膜下出血症例と脳血管障害によるくも膜下出血発症による外傷症例を経験した.症例1は69歳,男性で屋根から転落し,受傷した.来院時には外傷機転に関する情報が不明であったため,内因性くも膜下出血を否定できず選択的脳血管造影を行ったが,明らかな破裂性脳動脈瘤はみられず,本人の記憶からも外傷性くも膜下出血を診断した.経過は良好であった.症例2は55歳,男性で,乗用車にて通勤中途上,道路左側の電柱に激突した.外傷が軽微な割に意識レベルが悪いこと,頭部CT検査にて外傷に伴う病変が認められないことより内因性疾患先行を疑い選択的脳血管造影を行ったところ,右中大脳動脈分岐部に破裂性脳動脈瘤を認めた.同日,破裂性脳動脈瘤クリッピング手術が行われ,合併症なく経過した.救急外来において頭部外傷症例の診断・治療に当たっては内因性疾患の先行があり得ることを常に想定する必要があり,的確な病歴聴取と全身所見を照らし合わせた総合評価が診断の一助になりうると考えられた.
(日職災医誌,50:41─44,2002)
─キーワード─
頭部外傷,くも膜下出血,脳動脈瘤
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横紋筋融解症を合併したポリオ後症候群

後藤 正樹,井手  睦,蜂須賀研二
産業医科大学リハビリテーション医学講座

(平成13年7月18日受付)

79歳女性のポリオ後症候群患者で,転倒により横紋筋融解症を生じた症例を報告する.自宅のトイレで転倒後に意識消失し約3時間後に腹臥位の状態で発見されたが,左下肢に著明な腫脹と筋力低下を生じ,血中総CK活性の上昇とミオグロビン尿を認めたため横紋筋融解症と診断した.左長下肢装具を作製し歩行訓練を行ったが,左下肢の筋力に明らかな改善は認めず歩行の再獲得には至らなかった.本症例では比較的短い時間の軽微な圧迫で横紋筋融解を発症したことが特徴であり,ポリオ後症候群の存在が横紋筋融解症の発症誘因となり,さらに機能的予後を不良にした可能性がある.
(日職災医誌,50:45─47,2002)
─キーワード─
ポリオ後症候群,横紋筋融解症
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皮膚筋炎,膠原病肺を合併した珪肺症の1例

岸本 卓巳,岡田 俊明,岡原 正幸,小崎 晋司
岡山労災病院内科

(平成13年7月18日受付)

症例は56歳男性.職業歴はモルタル作業を30年間行っていた.以前より珪肺症(PR2型)と診断されていたが,咳嗽,労作時呼吸困難が増強するとともに四肢の筋力低下,筋肉痛を認めたため岡山労災病院内科に紹介入院となった.筋生検,皮膚生検を施行し皮膚筋炎と診断した.一方,胸部レントゲン,CT上珪肺結節の他に間質性陰影を認めたため,確定診断目的で胸腔鏡下肺生検を施行した.組織学的には間質へのリンパ球浸潤,肺胞壁の線維性肥厚等を認め,膠原病肺(NSIP:Nonspecific Interstitial Pneumonia)と診断した.治療としてプレドニゾロンとシクロスポリンを併用したところ呼吸器症状,筋症状の改善を認めた.珪肺症に自己免疫疾患が合併することは以前より報告されているが,皮膚筋炎を合併した症例報告は少ない.本病態の要因として珪肺症の関与が示唆された.
(日職災医誌,50:48─51,2002)
─キーワード─
珪肺症,皮膚筋炎,膠原病肺,人アジュバント病
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消火器爆発による顔面外傷の1例

菅又  章,茂原  健
東京医科大学八王子医療センター形成外科

(平成13年8月15日受付)

廃棄された消火器の爆発により,飛び上がった消火器本体が顔面にあたり,高度の顔面軟部組織損傷と顔面骨多発骨折を受傷した症例を治療する経験を得た.原因となった消火器は23年前に製造されたもので,加圧式消火器であった.このタイプの消火器は液化炭酸ガスのボンベが内臓されており,レバーを握ることにより炭酸ガスが消火器内部に充満し粉末消火剤を噴出する.この際,消火器本体に腐食があると,その部分で消火器の破裂がおきやすいとされている.今回の事故も廃棄された消火器に衝撃を加えたことが爆発の原因と思われた.消火器の爆発の機序を十分に認識することにより,事故は未然に防止できると考えられた.
(日職災医誌,50:52─55,2002)
─キーワード─
顔面外傷,顔面骨骨折,消火器
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酸とアルカリによる眼薬傷の2症例

黒田麻維子,貴嶋 孝至,高野  馨,関   保
綾木 雅彦,稲富  誠,小出 良平
昭和大学医学部眼科

(平成13年10月31日受付)

 酸による眼薬傷で眼球内容除去まで至った予後不良症例と,アルカリによる眼薬傷だが視力予後良好だった2症例を報告する.
 症例1は19歳男性で,土木作業中,左顔面にセメントミルクをかぶり受傷し,同日当院受診となった.初診時,角膜中央の上皮欠損と球結膜の浮腫と充血が認められた.pHを確認しつつ生食4,000mlの持続洗眼と前房洗浄を施行した.その後は点眼治療を続け,経過良好となった.
 症例2は77歳男性で,硝酸の含まれた酸性の液体が右眼に飛入し受傷した.その10分後に近医にて持続洗眼を施行し,当院受診となった.初診時視力は手動弁,角膜混濁強く眼瞼結膜にもびらんを認めた.その後角膜上皮再生がみられたが,水晶体混濁及び眼圧上昇をきたし,受傷後2カ月には白内障及び緑内障手術を施行した.受傷後6カ月には角膜穿孔を生じ保存角膜移植術施行,翌年には強角膜片移植術を施行したが,移植角膜の融解が起こり,眼球内容除去術を施行するに至った.
 弱酸による外傷は弱アルカリ外傷に比べれば軽症に終わりやすいとはいえ,強酸による傷害は重症である.今回の硝酸18%含の液体は強酸であったため,起こりうる合併症を併発し予後不良であった.2症例とも労働災害であるが,改めて現場の災害対策についても啓蒙していく必要があると思われた.
(日職災医誌,50:56─59,2002)
─キーワード─
眼化学外傷,硝酸,セメントミルク
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二輪車乗車におけるハーフ形ヘルメットの危険性について

平川 昭彦,田中 孝也,新谷  裕
岩瀬 正顕,中谷 壽男
関西医科大学高度救命救急センター

(平成13年11月12日受付)

 二輪車保護防具として使用されているハーフ形ヘルメットにより特異な損傷を惹起した2例を経験した.
症例1:15歳,男性.バイクの後部座席に乗って走行中,車と接触し前額部を受傷.脳挫傷,外傷性クモ膜下出血,頭蓋底骨折,左眼窩骨折,前頭洞骨折および左眼球の頭蓋内への陥没を認めた.受傷機転は,衝突物がハーフ形ヘルメットのつばの先端部分を直撃し,つばの基部が額部に強い衝撃を加えた結果であった.
症例2:17歳,女性.バイクで走行中,自己転倒し受傷.軸椎関節突起骨折および脊柱管内硬膜外血腫を認めた.受傷機転は,あごひもで頸部が強く過伸展された結果であった.ヘルメットのうち,特にハーフ形ヘルメットは脱落し易く,ヘルメット自体が危機的損傷を発生することがあるため,より衝突安全性を有するヘルメットの使用を義務づけるべきであると思われた.
(日職災医誌,50:60─63,2002)
─キーワード─
ハーフ形ヘルメット,二輪車
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