2002年 第3号

日本職業・災害医学会会誌  第50巻 第3号

Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology
Vol.50 No.3 May 2002




巻頭言
学会の社会的貢献

教育講演
職場におけるメンタルヘルス─計画づくりと進め方

パネルディスカッション
勤労者リハビリテーションの現状と課題―21世紀初頭における展望
脳血管障害例における勤労者リハビリテーションの現状と課題
頭部外傷のリハビリテーション
勤労者リハビリテーションの現状と課題「脊髄損傷」

原  著
当科緊急手術の検討
細小血管症を合併した2型糖尿病における血清エンドセリン濃度の増加について
建築関連作業従事者の夏期の自覚症状と暑熱対策
ニュートラルポジションでの気管挿管
─頸椎手術におけるトラキライトTMの有用性─
橈骨遠位端骨折の疫学的調査─都心部における検討─
じん肺患者に併発する続発性気管支炎の治療と経過に関する検討
管理3(ロ)じん肺症例の離職後長期観察成績
眼窩壁骨折に対する副鼻腔経由の整復術
ベッド環境が寝返り動作およびその介助動作に与える影響

症  例
液化石油ガスによる両手指凍傷の1例
肩関節直立脱臼の1例
陰茎のヒト咬創の1例



巻頭言
学会の社会的貢献

佐藤 重明
鹿島労災病院

 本学会の会則第3条には職業・災害医学の研究および教育をうたい,医学・医療の発展に寄与することを目的とする,とされている.当然のことではあるが,私は,さらに本学会の特色を生かした研究・教育を通じた社会的貢献も大切な役割であると考えている.
 研究については,半世紀にもおよぶ本学会の歴史の中で先人たちのすぐれた着眼点からの研究業績は膨大なものであり,ひもとけば唯々感嘆,敬服あるのみである.この数年は臨床研究が主流であるが,現在,確立されている多くの職業病が,すぐれた臨床医の慧眼によって発掘されていることからみても,実践的な臨床研究が大切なことは間違いない.が,さらにその病因の解析や予防の対策には多くの基礎的研究が積み重ねられ,職業病として体系化されたことも事実である.臨床各分野・各科より多くの臨床研究が発表される本学会と,どちらかといえば基礎的または疫学的研究が多い産業衛生学会との連携の重要さがいわれる所似である.思い切って数年に一度は合同学会を開催し,それぞれの特色や研究内容を知り,刺激し合いながら研究のレベルを高めることは,その時々の社会の要請に迅速に対応する重要な手段ではないだろうか.
 教育については,毎年の学会会長が工夫をこらし教育講演,シンポジウム,パネルディスカッションとその時代に即応した企画がなされ,会員の産業医学マインドの教育・育成に功績をあげられている.災害に関しては,行政の努力によって激減した労働災害から視野を一般広域災害に広げての数々の企画は社会の要請に応えたものであり,大きな実績を挙げている.
 さて,第49回職業災害医学会(会長 鎌田武信大阪労災病院院長)には多くのコメディカルの参加があった.それぞれのテーマにもとづく発表や討論はおどろくほど熱気に溢れており,大成功であった.勤労者の心身の不調にいち早く気づくのは,日常的に勤労者と接する産業看護婦である.勤労者の作業態様や生活の背景を知り,一人一人に気軽に声をかけ,検診結果について語り,指導する.職場にある救急箱の内容をチェックし,常備薬の減り具合から勤労者の健康度の大きな流れを把握する.学会としてはこのような産業看護婦の専門性を高めるための教育にも力を入れ,将来,学会としての認定制度なども試みてよいのではないかと思う.
 平成12年3月,厚生労働省は21世紀の労働衛生研究戦略協議会(舘 正知会長)で検討を重ねた結果,今世紀初頭10年間に重点的に実施すべき研究課題とその優先順位を公表した.戦略を実行するのも実効を挙げるのも人である.負の遺産をひき継ぎながら,新しい世紀に突入した日本の社会を活性化させるためにも,人口の半数以上しめる勤労者が健康で快適に安心して働ける社会をつくりあげるための研究をさらに進めるとともに,勤労者医療にたずさわる医師・産業医・産業看護婦などのコメディカルの教育と研修をおしすすめ,社会に貢献することは本学会の大切な役割であろう.
UP

教育講演
職場におけるメンタルヘルス─計画づくりと進め方

川上 憲人
岡山大学大学院医歯学総合研究科衛生学・予防医学講座

(平成14年1月31日受付)

労働省(現厚生労働省)「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」に従って,事業場におけるメンタルヘルスを計画し実施するための方法を明らかにするために,指針の基本的考え方,職場におけるメンタルヘルスの意義,留意点について検討した.その上で,その進め方を「取り組み姿勢の表明」,「組織づくり」,「目標の設定」,「計画の立案」,「実施と評価」の5つのステップとして整理した.またこれまでの職場のメンタルヘルスの方法論を指針に対応させて分類し,「メンタルヘルス相談体制の確立」,「職場環境等の改善」,「教育・研修と情報提供」,「健康診断・健康増進の機会の活用」の4つの実施事項を提案した.それぞれについて開発されている現場で簡便に使えるツールを紹介した.こうした職場のメンタルヘルスの枠組みの明確化とツール類の準備によって,事業場で職場のメンタルヘルスに取り組むことができる環境が整備できたと考える.
(日職災医誌,50:154─158,2002)
─キーワード─
心の健康づくり,職業性ストレス,相談対応
UP

パネルディスカッション5
勤労者リハビリテーションの現状と課題─21世紀初頭における展望

徳弘 昭博1),住田 幹男2)
1)吉備高原医療リハビリテーションセンター
2)関西労災病院


 労働年齢で発症した障害に対するリハビリテーション(リハ)は勤労者医療の重要な構成要素である.当然高齢者とは異なるアプローチが要求される.今回のディスカッションの目的は,勤労年齢での頭部外傷・脳血管障害・脊髄損傷の代表的障害のリハをどう進めてゆけばよいかの指針を明らかにすることにあるが,残念ながらここ数年ではこれらの障害に対する革新的なリハ技術は出現しそうにはない.また医療情勢もリハ医療の帰結が得られるまでに長期間を必要とするこれらの障害には逆風である.こうした状況でリハ医療として可能なことは何かが問われているのである.この中では勤労者の高年齢化・就労形態の変化というような労働情勢への対応策も同時に議論されなければならない.
 脳血管障害では,急性期に重点がおかれる.大多数は早期にリハ・ゴールの在宅生活が可能となり障害もほぼ固定する.逆に頭部外傷では障害の固定にはかなりの期間を要する.特に身体的には麻痺のない高次脳機能障害,つまり心理社会的障害をもつ若年者に対して医療として関わる困難性が指摘される.どちらの場合も勤労者として復帰する可能性のあるものに対するアプローチの継続が困難なことが最大の問題点である.
 脊髄損傷では疫学的に多数を占める頚髄損傷の場合,生活の場所の設定に長期間を必要とする.近年のITの発達は有利に作用し,ゴールを在宅就労に置いて社会復帰までの期間で環境整備をすることはリハアプローチで可能である.
 これらから,総括すると,勤労者のリハにおいて良好なoutcomeを得るためにはそれぞれの年齢層に応じた対応,対象者の選択とゴールの設定,どこまで医療で関わるのかの見極め,次段階への道付け・連携などの機能をより重視する必要があるといえるだろう.
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脳血管障害例における勤労者リハビリテーションの現状と課題

豊田 章宏1)2),島   健2),平松和嗣久1)2)
労働福祉事業団中国労災病院
1)勤労者リハビリテーションセンター
2)勤労者脳循環器センター


(平成14年1月31日受付)

 近年,虚血性脳血管障害に対する超急性期血栓溶解術などの治療の進歩にともない,心筋梗塞のheart attackに対して脳卒中はbrain attackと称され,救急対応疾患として再認識されている.しかし残念ながら多くの脳卒中症例においては,適切な急性期治療を受けたにもかかわらず何かしらの障害が残存する.
 脳卒中後の障害は職場復帰に大きく影響するが,その復職率の実態は3割にも満たない.さらに勤労者世代においては家族の生計に与える影響も大きく,収入面や子供の世話などの問題から配偶者が介護者になりえない場合も多い.また,最近では病院での在院日数も制限されており,特に若年層においては利用できる福祉サービスが少ないため療養環境においても様々な問題を抱えている.近年の少子高齢化社会においてはとかく高齢者医療の方が注目されているが,実は勤労者年齢における復職や社会保障の問題は非常に大きいものがある.
(日職災医誌,50:160─164,2002)
─キーワード─
脳卒中,リハビリテーション,勤労者,職業復帰
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頭部外傷のリハビリテーション

渡辺  修
東京都立保健科学大学

(平成14年1月10日受付)

頭部外傷者の問題は,身体的問題だけでなく高次脳機能障害(認知・行動・情緒の障害など)である場合が多い.本研究では,頭部外傷者の臨床像および問題点,リハビリテーションについて概説し当院のデータを示す.【頭部外傷の特徴】受傷原因は,交通事故が多く,ついで転倒,転落が多い.この損傷によって特徴的な前頭葉および側頭葉損傷の症状がみられる.患者は若年男性に多く,高齢者の場合は転倒事故が増え,可塑性という点では若年者に劣るので機能的な予後が良好とも言えない.最終的に社会参加を阻害する要因は心理社会的障害であることが多い.【当院の頭部外傷リハプログラム】入院の主目的は,(1)包括的リハ(2)介護指導(3)再評価に大別できる.包括的リハでは,医学的問題,身体障害および高次脳機能障害に対し,医師および理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床心理士,体育指導員などが治療,訓練を行う.あわせてソーシャルワーカーおよび職業指導員が社会資源の活用や就労支援のために介入し,職業リハ,地域リハ,あるいは更生施設の利用を検討する.必要に応じて外来通院にて,ライフスタイルに沿った目的志向型の包括的なアプローチを継続する.【当院の頭部外傷者300人の調査】重度247人(82.3%),中等度48人(16%),軽度5人(1.7%)であった.当院入院時にすでにADLが自立している例(BI 80以上)では,120人(93.0%)が家庭復帰したが,しかし退院時に職場復帰(配置転換含む)または復学が果たせたのは,46人(35.7%)のみであった.こうした群は,特に頭部外傷の問題点を浮き彫りにしている.また入院時BIが20以下であった群においても,自宅での生活が47例(79.7%)で可能となった.頭部外傷者の社会参加,復職に向けては,長期的な行政と地域,企業の理解・協力体制が必要である.
(日職災医誌,50:165─170,2002)
─キーワード─
頭部外傷,リハビリテーション
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勤労者リハビリテーションの現状と課題「脊髄損傷」

古澤 一成
吉備高原医療リハビリテーションセンター

(平成14年1月31日受付)

 我が国における脊髄損傷者の60~75%は頸髄損傷者が占めるが1)2),その多くは職業復帰が困難で,特に完全四肢麻痺者における職業復帰は1.9%と厳しい状況にある3).脊髄損傷者の年齢分布は20歳のピークと59歳のピークの2峰性を示し我が国の特徴とされる1).各年齢層における職業復帰の割合は31歳~35歳が最高で,以後は低下し中高齢者の職業復帰も大変厳しい状況にある3).脊髄損傷における勤労者のリハビリテーション(以下リハ)医療の課題は,四肢麻痺者と中高齢者の職業復帰にある.前者における1つの対策として,情報処理機器や通信ネットワークを利用した在宅での就労を模索する方法がある.本稿では当センターにおける取り組み(頸髄損傷者の在宅就労支援システム)を紹介した.コンピュータ操作の評価・訓練,ハードウェアの供給を医学的な判断に基づいて行い,情報処理機器や通信ネットワークを活用するための環境を整えること,それらのデータをもって職業リハへのスムーズな移行をはかることを主な内容とする.中高齢者の問題に対しては,彼らが一旦離職すると職業リハ・再就職は極めて困難な状況にあることから,できるだけ離職せず原職復帰あるいは配置転換,職種変換を目指すのが賢明である.
 各医療機関における入院期間の短縮化も脊髄損傷者が職業復帰を目指す際には大きな問題となる.一般病院では,直接,職業リハへの移行や職業復帰は困難であるため,その際はリハ施設を活用するのが妥当である.ただし,初回のリハ医療に携わる現場でも職業復帰のための方向付けはしておく必要がある.
(日職災医誌,50:171─175,2002)
─キーワード─
脊髄損傷,職業リハビリテーション,職業復帰
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原  著
当科緊急手術の検討

高田 典彦,今村 栄作,斎藤 知之
横浜労災病院歯科口腔外科

(平成13年12月14日受付)

1997年4月から2000年3月までの4年間に緊急手術を行った17例の顔面外傷患者について検討を行った.年齢別では30歳までが最も多く12例で,全体の7%を占めていた.原因は交通事故が最も多く41%を占めていた.疾病内訳は,裂傷7例41%,骨折や他科治療を要したものは,10例59%であった.推定出血量は平均180ccであり,輸血が必要であったものが3例18%であった.処置は,止血縫合が,16例94%で,気道確保を必要としたものが3例18%であった.緊急手術が必要なのは,従来からの?気道閉塞を伴う高度の損傷,?異物,?大量出血,?髄液漏をともなう頭蓋底損傷,?眼球及び視神経損傷,?涙道損傷,?耳下腺及び耳下腺管損傷,8顔面神経損傷,?鼻,耳などの突出物の切断に加えて?安静が得られず,局所麻酔下での処置が困難なものが挙げられた.顔面外傷の増加とともに,今後緊急手術の機会も増加すると思われた.
(日職災医誌,50:176─181,2002)
─キーワード─
顔面外傷,緊急手術,必要条件
UP

細小血管症を合併した2型糖尿病における
血清エンドセリン濃度の増加について


藤原 豊
美唄労災病院内科

(平成14年3月15日受付)

強力な血管収縮作用を有するエンドセリン(ET-1)は、血中において血管内損傷の新しい指標として注目される.年齢、性のマッチした119名の糖尿病患者と75名の健常者を対象に、血清ET-1をエンザイムイムノアッセイ(EIA)で測定し、糖尿病網膜症と腎症との関連を検討した.血清ET-1は糖尿病腎症や網膜症の存在下で有意に上昇していた.血清ET-1は尿中微量アルブミンや糖尿病網膜症の重症度と有意の相関がみられた.さらに、血清ET-1は血管内皮損傷の指標であるvon Willebrand factor antigenと有意の正相関がみられた.以上の結果より、糖尿病腎症あるいは網膜症の進展において、エンドセリンの血管内皮損傷の指標としての病態生理学的意義が示唆された.
(日職災医誌,50:182─187,2002)
─キーワード─
エンドセリン、2型糖尿病、細小血管症
UP

建築関連作業従事者の夏期の自覚症状と暑熱対策

黒川 淳一, 井奈波良一**,井上 眞人**
岩田 弘敏***,松岡 敏男
岐阜大学医学部スポーツ医・科学講座,岐阜大学医学部衛生学講座**,岐阜産業保健推進センター***

(平成14年2月7日受付)

 夏期の建築関連作業現場における作業の快適化を図るための研究の一環として,A病院建築現場における作業環境測定と,同建築作業従事者を対象に,夏期の自覚症状と暑熱対策の実施状況などについて,無記名自記式アンケート調査を行った.回答を得られたのは男性作業員115名であり,対象者の平均年齢は37.3±13.2歳(最年少17歳,最高齢67歳)であった.
 建築現場における作業環境の測定を行ったところ,日なたでの気温は最高40℃を越える猛暑に見舞われることが度々あり,湿度は40%を切ることはなかった.紫外線量も高値で推移した.WBGT値は日なたで平均30.6℃を示し,この値はRMR2~4における高温の許容基準を上回る結果であった.また,日なたのWBGT値は半日陰でのWBGT値測定結果よりも日中有意に高値であり,日陰を作ったネットの冷却作用および紫外線カットへの有効性を示唆した.
 調査した自覚症状については年齢による有意差はみられなかった.熱中症対策として,頻繁に水分補給を行ったり,こまめに着替える事,タオルなどで顔,首を直射日光から避けるなどの取り組みが高率になされているにも関わらず,熱中症に伴う自覚症状を中心に高率に訴えを認めた.既存の熱中症対策方法のみならず,紫外線カットも視野に入れた新たな取り組みを指導する必要性が考えられた.
 喫煙年数が長い者は夏期にも関わらず四肢末梢の自覚症状の訴えを見た.健康管理の観点から日頃の禁煙指導の重要性が確認された.
 40歳以上の対象者群において39歳以下と比べて1日平均日なたでの作業時間が有意に長かった.また,通勤時間が長い事や,熱中症の既往ありと作業中の自覚症状出現と有意な関連を見た.これらにあてはまる者に対して,作業時間の短縮,回避等の対策を行う必要があると考えられた.
(日職災医誌,50:188─195,2002)
─キーワード─
建築作業,WBGT指数,自覚症状
UP

ニュートラルポジションでの気管挿管
─頸椎手術におけるトラキライトTMの有用性─


井上 義崇1),芝 啓一郎2),植田 尊善2),重松 昭生3)
総合せき損センター麻酔科1),同 整形外科2),産業医科大学麻酔科学教室3)

(平成14年4月5日受付)

目的:喉頭鏡による気管挿管は頭頸部に非生理的な体位を強要し,特に頸椎に病変がある症例では危険を伴うことが危惧される.そこでファイバースコープの利用をはじめとして,いくつかの喉頭展開を行わない挿管手技が提唱されてきたが,近年ニュートラルポジションを保持したまま挿管可能で簡便な器具としてライト付きスタイレット(トラキライトTM)が紹介された.この器具を脊椎外科手術全身麻酔導入時の気管挿管に使用し,頸椎に病変を有する患者への有用性を検討した.
対象・方法:総合せき損センターで行われた脊椎外科手術において,トラキライトTMを用いて気管挿管を施行した754例を対象とし,遡及的に試行回数,成功率,手技に起因する合併症を調査した.
結果:754例において,1回目の試行で690例(91.5%),2回目の試行で51例(6.8%),3回目の試行で3例(0.4%)が気管挿管に成功し,挿管できなかったのは10例(1.3%)であった.挿管手技に起因する重大な合併症は認めなかった.
結論:トラキライトTMを用いての気管挿管は,確実性,迅速性,簡便性,安全性,経済性,いずれの面からも有用であることが確認された.頸椎部に病変を持つ症例では,ニュートラルポジションで施行できる利点があるトラキライトTMが気管挿管の第一選択器具として適当である.
(日職災医誌,50:196─199,2002)
─キーワード─
トラキライト,気管挿管,頸髄保護
UP

橈骨遠位端骨折の疫学的調査─都心部における検討─


平  和眞,戸部 正博,若江幸三良
小林 俊行,重光 俊男,水谷 一裕
東邦大学医学部第二整形外科教室

(平成14年3月7日受付)

 橈骨遠位端骨折は整形外科医が日常診療の中で遭遇する機会の多い骨折であるが,従来の橈骨遠位端骨折の疫学的調査は地方都市での報告が多く,都心部での報告は少ない.
 今回われわれは,1996年8月から2001年8月までの5年間に当科で加療し,初診後1カ月以上経過観察しえた男性66例,66骨折,女性74例,74骨折,計140例,140骨折に対して,年齢分布,当院の受診患者の約80%を占める東京都目黒区,世田谷区,渋谷区を対象地域として,年代別,性別による人口構成とそれに基づいた症例数,受傷原因,季節別症例数,骨折型,治療法について調査を行った.
 年齢は3歳から88歳,平均41.5歳であった.年齢分布では10歳代が36骨折と最も多く,次いで60歳代が21骨折であった.対象地域の年代別人口構成では20歳~60歳台が,最も多いのに対し,人口10万人あたりの症例数では,さほど人口の多くない10歳代の症例数が最も多く,女性では50~80歳台の症例数が多くなり,より高齢になるにつれて症例数の増加をみた.受傷原因では,転倒が91骨折と最も多く,そのうち歩行中の転倒が61骨折,次いでスポーツ中の転倒が30骨折であった.季節別では,12~2月の冬季の受傷が41骨折と最も多かった.骨折型は,関節外Colles骨折84骨折,関節内Colles骨折41骨折であった.治療法は保存的療法が105骨折,手術療法は35骨折であった.治療法はConneyらの不安定型橈骨遠位端骨折を改変した佐々木らの治療指針に基づいて行い,安定型骨折に対しては保存療法を原則としたが,高齢者では手術自体を拒否する症例も散見された.
 今回の調査では10歳代の若年層男性に,次いで60歳代の中高齢者女性に橈骨遠位端骨折の発症が多かった.若年層ではスポーツなど活動性の高さが,中高齢者層では活動性の高さと骨粗鬆症が橈骨遠位端骨折の発症に関係するものと考えられた.
(日職災医誌,50:200─203,2002)
─キーワード─
橈骨遠位端骨折,疫学的調査,都心部
UP

じん肺患者に併発する続発性気管支炎の治療と経過に関する検討

岸本 卓巳
岡山労災病院勤労者呼吸器病センター

(平成14年2月6日受付)

岡山労災病院内科において,じん肺症の合併症である続発性気管支炎で加療中の42例(男性41例,女性1例)を対象として,2カ月毎に1年間,起床後1時間に喀出した痰の量と性状について検討した.同時に末梢血白血球数,血清CRP,血沈の検査を行った.喀痰は起炎菌の定量培養を行った.対象症例の年齢は45から81歳で中央値が66歳であった.職業歴では19例が耐火煉瓦工,14例が石材加工,3例が石綿関連作業,溶接工,炭鉱夫,はつり工が各2例であった.粉塵曝露期間を示す職業歴は14から56年で,中央値は41年と長期間であった.じん肺エックス線写真分類ではPR1が6例,2が14例,3が10例で4が12例であった.喫煙歴では11例の非喫煙者があったが,中等度喫煙者が7例で,重喫煙者が24例あった.治療として,気管支拡張剤,鎮咳剤,抗炎症剤,抗生物質等を使用したが,42例中41例では改正じん肺法で制定された続発性気管支炎の基準を満たす1年間に少なくとも3カ月間,3ml以上の粘膿性喀痰を認めた.そのうち12例では病原性細菌を1×107/ml以上検出し,細菌感染を示唆する炎症所見を認めたが,その他の30例では細菌感染を示唆する所見は得られなかった.すなわち,大半の症例では細菌感染ではなく,粉塵自体の気管支に対する作用により,続発性気管支炎が起こっているものと思われた.以上の結果より,続発性気管支炎は治療により,容易には軽快しないことを示唆しているものと思われた.
(日職災医誌,50:204─208,2002)
─キーワード─
じん肺症,粘膿性痰,続発性気管支炎
UP

管理3(ロ)じん肺症例の離職後長期観察成績

木村 清延,酒井 一郎,中野 郁夫,加地  浩
岩見沢労災病院内科

(平成14年2月14日受付)

粉じん職場離職後のじん肺例の進展の有無とその頻度や程度を明らかにする目的で,離職時管理2に相当した患者群と,管理3(イ)であった患者群を10年から13年間経過観察した成績を,過去2年に亘り本誌に報告した.今回は同様の方法で,粉じん職場離職時に管理3(ロ)であった例の,長期観察を行い以下の成績を得た.(1)胸部XP所見の進展例は76例中63例(83%)であった.(2)管理区分の進展のみられなかった例は31例(41%)で,残りの45例(59%)は管理区分4に進展した.(3)合併症発症例は13例で,その内訳は,続発性気胸7例,続発性気管支炎が4例,肺結核と結核性胸膜炎が各1例であった.(4)観察開始時と最終観察時の呼吸機能を比較すると,管理区分の進展した群では最終観察時の%肺活量および1秒率は有意に低下した.これに比して,管理区分に進展のみられなかった群では,%肺活量および1秒率のいずれも,有意の変化はみられなかった.離職時に管理3(ロ)のじん肺例を10~13年間の観察した結果,59%に管理4への進展の見られた今回の成績から,これらの症例に対する定期的経過観察の重要性が改めて示唆された.
(日職災医誌,50:209─212,2002)
─キーワード─
じん肺,長期観察成績
UP

眼窩壁骨折に対する副鼻腔経由の整復術

角南 滋子,丹野 美穂,林崎 勝武
千葉労災病院耳鼻咽喉科

(平成14年2月18日受付)

 眼窩壁骨折に対する副鼻腔経由の整復術について,当施設で経験した症例を報告するとともに,診断や治療の要点について述べた.
 (症例)1991年から2000年までに39例の眼窩壁骨折に対して,副鼻腔(上顎洞または篩骨洞)経由の整復術を行った.内訳は上顎(眼窩底)骨折24例,篩骨(眼窩内側壁)骨折5例,両者の合併10例であった.このうち眼窩縁に骨折がなく,眼窩壁にのみ骨折を認め,眼窩内容の脱出を伴う吹き抜け骨折は,上顎骨(眼窩底)6例,篩骨(眼窩内側壁)7例であった.
 (診断と治療)主および随伴症状には,眼球運動障害と複視,眼球突出または眼球陥凹,顔面の知覚障害,開口障害,顔面の変形などが見られた.画像診断の中ではX線CTがことに有用で,冠状断と軸位断の二方向を撮影することでより精密な評価を行うことができる.眼科的検査では,一般的な眼科的検査のほかに,眼球運動障害の検査としてHess co-ordimeterや,Traction testが推奨される.
 整復術は2通りのアプローチを行った.すなわち上顎骨(眼窩底)の骨折に対しては,上顎洞根本手術と同様,上歯槽部の粘膜切開後,上顎洞前壁を開窓して,上顎洞内からの操作で整復を行った.篩骨(眼窩内側壁)骨折の整復は,眼窩内側縁に添った皮膚切開と,鼻内から篩骨蜂巣を開放する2方向からのアプローチを併用した.
(日職災医誌,50:213─218,2002)
─キーワード─
眼窩壁骨折,外科的治療
UP

ベッド環境が寝返り動作およびその介助動作に与える影響

前島  洋,宮腰由紀子,松成 裕子,藤井 宝恵
森山 英樹,田中 幸子,吉村  理
広島大学医学部保健学科

(平成14年1月15日受付)

ベッド環境が介護動作に与える影響について検討するため,寝返り介助時の介護者の内側広筋,大胸筋,上腕二頭筋,腰部脊柱起立筋の表面筋電図を測定した.ベッド環境として,ベッドの高さ,介助時の床素材,ベッド柵の種類について検討した.ベッド高が低位では内側広筋活動は活発なのに対して,腰部脊柱起立筋活動は要介護者への接触とともに抑制された.その要因としてflexion-relaxation phenomenonの影響が考えられ,腰痛への影響が示唆された.ベッドからの転落時における外傷防止用の衝撃緩衝材上での介助では下肢のみならず,全身的な筋活動の上昇が認められ,介助動作の効率の低下が示唆された.従来のベッド柵に変わる転落防止用サイドサポート装着時においては,肘屈曲を用いた介助量の増加が認められた.一方,要介護者の寝返り動作時の筋電図測定において,サイドサポートは従来の柵装着時に比べて,腰背部脊柱起立筋活動が軽減されていた.以上の結果から,適切なベッド高の調節,足底条件,接触点までのリーチ距離の確保が寝返り介助動作効率を改善し,腰痛,介護疲労の軽減に重要であることが示唆された.
(日職災医誌,50:219─226,2002)
─キーワード─
ベッド環境,寝返り,筋電図
UP

症  例
液化石油ガスによる両手指凍傷の1例

中永士師明
秋田大学医学部救急医学

(平成13年12月13日受付)

液化石油ガス(LPG)による凍傷はまれである.今回,LPGによる両手凍傷をきたした1例を経験した.患者は28歳に男性でLPGボンベの運搬中にキャップがはずれて両手指の凍傷を負った.軍手をしていたこと,直ちに湯で患部を温めたことにより凍傷は表在性のII度以上には進展せず,後遺症なく治癒した.LPG凍傷の予防には作業時の保護衣の着用,初期治療には急速融解が重要であると思われた.
(日職災医誌,50:227─229,2002)
─キーワード─
凍傷,液化石油ガス,プロパン
UP

肩関節直立脱臼の1例

鈴木 和也,萱岡 道泰,楠瀬 浩一
宮崎  弘,伊地知正光
東京労災病院整形外科

(平成14年1月30日受付)

比較的稀な肩関節直立脱臼を経験した.63歳の女性で,自宅内で清掃中,右肩関節外転位で前方に転倒し受傷した.来院時肩関節外転外旋位を自分で保持し,自他動運動は不可能であった.単純X線像で肩関節直立脱臼および上腕骨大結節骨損傷を認めた.関節内局所麻酔下に愛護的にzero position方向に牽引し,骨頭を頭側に押すことで容易に整復が可能であった.整復後は3週間のDesault包帯固定とした.MRIにて棘上筋腱断裂がみられたが,特に処置は行わなかった.11カ月後,可動域制限はほとんど認めなかった.外傷性肩関節脱臼のうち,直立脱臼は約0.5%とされる.受傷機転は肩関節が過外転方向に強制されることによるものと考えられる.合併損傷は,上腕骨大・小結節骨折,肩甲骨関節窩・肩峰・鳥口突起の骨折,腋窩神経・動静脈の損傷,腱板損傷などが挙げられる.上腕骨大結節骨折の発生機序は,大結節に付着する腱板によって脱臼時に牽引される場合,大結節と肩甲骨関節窩との衝突による場合,その両方によっておこる場合が考えられる.本症例では,来院時の単純X線像から大結節と肩甲骨関節窩との衝突によるものと考えた.また本邦での報告例では高齢者が比較的多く,受傷以前に肩腱板損傷があった症例もみられる.整復は比較的容易である場合が多い.後療法は前方脱臼に準じて,合併症を有しない症例においては,整復後2~3週間のDesault包帯固定が推奨される.本症例では上腕骨大結節骨損傷,腱板損傷の合併症はあったものの,同様の後療法で経過は良好であった.
(日職災医誌,50:230─234,2002)
─キーワード─
肩関節,直立脱臼,腱板損傷
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陰茎のヒト咬創の1例

柴田 裕達, 中野香代子**,毛利 麻里
肝付 康子**,内沼 栄樹**
横浜市立市民病院形成外科,**北里大学医学部形成外科

(平成14年2月6日受付)

非常にまれなヒトによる陰茎咬創の症例を経験した.症例は36歳の既婚男性で,ホテル内で某女性と口淫の最中に陰茎を故意に女性に咬まれ受傷した.陰茎包皮小帯部に約5mm長の創と,周囲に歯型を認めた.創からの出血と,周囲の包皮の腫脹を伴っていた.尿道損傷は認めなかった.尿道カテーテルを留置し,創は開放のまま軟膏処置を行った.また抗生剤を点滴投与した.その後,感染兆候はなく創は閉鎖した.2カ月経過して,包皮小帯部に小硬結を認めるのみで,排尿や勃起時の障害はない.陰茎咬創のなかでヒトによるものは,犬などの動物によるものと比べて非常にまれであり報告例も少ない.合併症として,感染や陰茎折症を併発することもあり,慎重な治療を要する.
(日職災医誌,50:235─237,2002)
─キーワード─
陰茎,ヒト咬創
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