2002年 第5号

日本職業・災害医学会会誌  第50巻 第5号

Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology
Vol.50 No.5 September 2002



巻頭言

文明と医療―その方向性の模索

教育講演

航空機内救急患者の対応
パネルディスカッション
急性中毒における高度救命救急センターの役割
日本中毒情報センターと情報ネットワーク
産業中毒センターの情報提供と分析活動
指定講演
変形性股関節症に対する骨切り術
スポーツ傷害に対する治療の進め方
原  著
カード型CD-Rを利用した医療情報ネットワークシステムの検討
眼窩先端症候群を呈した眼窩内側壁骨折
「職場血圧測定監視システム」の開発と評価
胸骨骨折高度転位例の治療経験
避難時の医療の現状と問題点―2000年有珠山噴火―
産業中毒領域における労災病院専門センターとしての産業中毒センターと
産業保健推進センターおよび地域産業保健センターとの連携活動について
症例報告
限局性悪性胸膜中皮腫の1例
骨盤骨折を合併した多発外傷患者の集中治療


巻頭言
文明と医療―その方向性の模索

岩田  久
名古屋大学名誉教授,名古屋共立病院,リウマチ・人工関節センター長

(平成14年5月2日受付)

 昨年9月11日世界同時テロ事件を経験し,にわかに世界の文明とその衝突を考えざるを得なくなった.ご存知読売新聞誌上で1月3日から14回にわたり世界の知識人といわれる14名の方々の「文明を問う」という命題のもとにインタビュー形式でその意見が聞かれた.それを再度ふりかえって見るときそれはハンチントン博士の言われた文明の衝突などという生易しいものではなく自国の存命にかかわる大きな大きな出来事と各国々の人は受け止めている.しかし一方毎日の食事も満足に得られない人にとって何が文明の衝突がとも思われる.こうした中で日本も決して安閑としてはいられないのである.
 世界各国の見る日本の現状は自国崩壊した国のそのつぎにランクされているとも聞く.しかし毎日の日本国民の生活を見るとき,そこには決してせっぱつまった緊張感など皆無である.たくさんの外国への旅行客,高級ブランド志向,毎日の飽食などまったく国民にそんな意識のかけらも見いだせない.
 かって米国がそうであったように日本国民も現在ある生活水準を決して落とそうとはしていない状態が私に錯覚を起こさせているのだろうか.ちょっと物を買い控えようとしていることは事実で,これがまた一斉にその方向に向かっていることが需要の停滞を招いているのではないかと考えられる.
 文明あるいはグローバリゼーションとは言うものの,その根底には自国の利益優先の考えが見え隠れするのもやもう得ないのか.
 わが国は,この構造不況をどう乗り越えていくのか.先ず構造改革の方向性が打ち出された.医療の現場でも診療報酬の改良など着手された.物言えぬ,あるいは言う方法を持たない国民に先ずその矛先が向けられていることが腹立たしい.それを決定する人たちの利権は今なお保たれているやに見受けられる.これは私のひがみであろうか.
 35年以上の長きにわたり国立大学に身を置いていたものとして教育,診療,研究をバランスを取りながらその遂行に努力してきた.なかんずく研究に関しては世界を相手に努力してきた.しかし現在それは崩れかけようとしている.大学付属病院もいかに利潤を上げるかにその努力が向けられ最重要課題となっている.大学院重点化が認められた大学においてすらこのありさまである.限られた数の大学医学部で大学院重点化が許可された.その施設で研究,あるいは研究者の指導,養成がなおざりにされて良いはずが無い.
 日本の医学研究の将来はどうなるのか.誰がそれを担うのか.独立行政法人化,その方向は何なのか.企業との共同研究をおしすすめるよう指導されているが協同研究をとるとき大学側に,それに対するノウハウがどれほど備えていけるか疑問である.頭脳があってはじめて成立する話である.
 本誌は日本職業・災害医学会の機関誌でありその読者の多くは労災病院勤務の医療従事者,大学関係者また厚生労働省に関係する人たちではないかと考えている.労働災害の究明,救急医療を目的に設立された労災病院も,企業の近代化とあいまって当然のことながら災害に関連した患者は減少してきた.一方その設立された場所はこれまた当然のことながら炭鉱であったり多くの重工業地帯であったりした.勢いその地域には一般住民は少ない.特に夜間その地に居を構えている人が少ない地域である.こうした地域で労災病院に通院あるいは入院する患者で労働災害に伴う人たちは一割にも満たないと聞く.その結果現在は労災病院といえども一般病院と同じ形態をとらざるおえない状況になっている.
 それではだめと国立病院,国立療養所などが変身してきたと同じようなことが各地の労災病院も病院ごとに特殊性を持つよう検討されてきている.この場合あれもこれもとねらうのではなく総合病院化を止めスペッシャライズされた方向性が求められよう.
 医師あるいはコ・メディカルも含めてスペシャリストとゼネラリストということを病院は考えていかなければ今後の広い視野の上に立つ医療は不可能と考えられる.スペシャリストを目標にした病院いわば病院の形態変化が求められよう.高齢社会に対応できる病院の方向性も重要となってくる.大きく変革が行われていくなかで限られた人のみで成り立っていく病院は通用しなくなる.先端医療,病診連携など考えスペシャリストでありながらゼネラリストとしての感性を持っていることが重要である.現在はスペシャリストといえどもゼネラリストとしての能力が求められている.昨今医療費の個人負担が医療費の三割になり,患者の層の変化も生じてくる可能性がある.こうした中で先端医療をどう取り入れていくかも病院の将来の命運にかかわることと思う.
 私の専門は整形外科であるから外科医療について最後に触れておきたいと思う.かって「外科医はメスで勝負するとか」,「切って切ってきりまくる」などといわれた時代があった.私の大嫌いな言葉であり,表現である.最近はできるだけ侵襲の少ないレスインベイシブな方向性が打ち出され,関節鏡視下の手術であるとかロボット手術とか遺伝子治療,再生医療等の方向性が求められている.ナノマシンといわれる材料の進歩もそれを用いての遺伝子治療など細胞レベルでの治療がそのターゲットであるように思われる.当然のことながら外科医にとってもベイシック・サイエンスについての理解が要求される.低侵襲性の治療を推し進めていくと究極的には外科医は必要なくなってしまうのであるが(奇形とか外傷などは決してなくならないので外科医は必要である)外科医療を残す形での将来展望を外科医としては忘れてはならないと考えている.
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教育講演
航空機内救急患者の対応

鍵谷 俊文
全日本空輸大阪空港支店健康管理センター

(平成14年5月17日受付)

航空機を利用した旅行者が増加するとともに,機内での急病人の発生も増加傾向にある.また,在宅医療中の方の旅行や海外からの帰省医療など医療搬送の頻度も増加しており,航空機内での医療装備に関心が寄せられている.1993年度から2000年度までの8年間に全日本空輸航空機内では,国内線1,451例,国際線603例,計2,054例の機内救急患者の発生があった.救急患者の発生に伴い機内で行われたドクターコールは1,221件,援助の申し出は1,087件で,申し出率89.0%,うち医師の援助申し出率62.7%であった.医師により使用された機内搭載医薬品では,鎮痙剤,補液,抗ヒスタミン剤などが多く使用された.民間旅客航空機内には,急病人の発生に備えて,薬品,医療資材が搭載されており,ドラクーズキットとして医療関係者が使用できるようになっている.わが国では,(財)航空医学研究センター内に「航空機搭載する救急用医療品に関する委員会」が設置され,その内容の改善が図られている.最近では,半自動式除細動器の搭載も開始されている.さらに,全日空国際線においては衛星電話などにより地上から医療アドバイスをする24時間医療支援体制が運用開始され,遠隔医療のひとつとして発展が期待されている.米国では,ボランティアや善意の医療援助者の免責を保証するいわゆる「良きサマリア人法」が州法として制定されている.さらに1998年には,航空機内医療援助法が制定され,故意または重大な過失がある場合を除き,善意の医療援助者や航空会社の免責が保証されるようになった.一方,わが国では医療関係者が航空機内で救急患者に救援活動をする際の法律的な裏づけや制度的な支援は未だほとんどなされておらず,今後の整備が必要と考えられる.
(日職災医誌,50:325―330,2002)
─キーワード─
航空機内救急患者,機内搭載医薬品,ドクターズキット,自動式除細動器,遠隔医療
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パネルディスカッション
急性中毒における高度救命救急センターの役割

中谷 壽男1),新谷  裕1),原  克子2)
小宮山 豊2),高橋 伯夫2)
関西医科大学高度救命救急センター救急医学科1),臨床検査医学講座2)

(平成14年1月10日受付)

毒物混入事件が多発して以来,救命救急センター,高度救命救急センターに中毒毒物分析機器が配備されたが,分析体制は追いついていないのが現状である.しかし,救命救急センター,高度救命救急センターの分析担当者は,学会などの支援を得て,分析の技術向上や体制づくりのための努力を行っている.また厚生労働省でも予算をつけて,これらの講習会を定期的に開催できるように準備中である.しかしなお,分析に関わる経費,技術,人的資源,機器更新,標準物質の入手などといった多くの未解決の問題点をかかえており,これらを解決するには,国の施策として,分析をも合わせて行いうる中毒センターが設置されるのが望ましいと考える.
(日職災医誌,50:331―334,2002)
─キーワード─
分析機器,中毒センター
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日本中毒情報センターと情報ネットワーク

遠藤 容子1),黒木由美子1),吉岡 敏治1)2)
(財)日本中毒情報センター1),大阪府立病院2)

(平成14年1月31日受付)

日本中毒情報センターで整備している中毒情報データベースは,作用,症状,治療法等15項目の見出しからなり,現在までに,商品名,一般名,別名などを含めた化学製品や物質の名称数にして約40,000件の情報をデータベースとして整備し,10万種類に達する化学製品の情報を収集している.また,松本サリン事件以降,化学兵器についても情報整備を開始し,昨年,九州・沖縄サミットにおける医療対策の為に神経剤,びらん剤,催涙剤,窒息剤等6系列20種類の情報を完備した.情報提供は,薬剤師による電話応答が主体であるが,その他に2種類のデータベース(一般市民対応用と医療行政・医療機関向け)の提供と自動FAX(賛助会員に限定)やホームページによる提供もおこなっている.また,和歌山毒物混入カレー事件の発生を契機として,中毒事件発生時に対応を強化すべく,中毒症状や異常検査結果などから中毒起因物質を推定する「中毒起因物質診断システム」と,中毒に関連する分野の専門家から必要に応じてアドバイスを受けることができる「中毒起因物質別毒劇物専門家データベース」を開発した.今後の課題として,情報提供件数の倍増,情報収集と提供の自動化推進,解毒剤配送システムや分析ネットワーク等の整備,中毒医療の生涯教育,危機管理への関与があり,これらの実行には関連機関との情報の共有と,機能面で連携する必要がある.
(日職災医誌,50:335―339,2002)
─キーワード─
日本中毒情報センター,中毒情報データベース,危機管理,化学災害
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産業中毒センターの情報提供と分析活動

森田 陽子,坂井  公,大菅 俊明
東京労災病院産業中毒センター

(平成14年6月1日受付)

産業中毒センター(以下センター)は,産業化学物質による中毒の治療,分析,情報提供を一環して行っている.本報では4年間の活動について情報提供と分析活動を中心に述べる.センターは産業中毒データベースを作成し,ホームページ上で公開している.このデータベースには13,000以上のデータがあり,その中心は全国の労災病院が半世紀にわたり報告してきたものである.センターへの問い合わせ機関は,作業者とその家族,医療機関,企業の産業保健スタッフ,公的機関,海外の機関などに大別され,これまで391件の問い合わせがあった.これらに対応して,ガス・有機溶剤・重金属など原因物質の分析を行っているが,その数は年に900件を超している.センターでは生体試料中の70項目以上の化学物質およびその代謝物について測定可能であり,外部精度管理プログラムに参加して優秀な成績を得ている.新規化学物質も含めて分析法の開発とそのマニュアル化に努めるほか,国内外からの研修生を受け入れも行っている.
(日職災医誌,50:340―344,2002)
─キーワード─
産業中毒,情報,分析
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指定講演
変形性股関節症に対する骨切り術

大澤  傑
大阪労災病院リハビリテーション科

(平成14年1月31日受付)

変形性股関節症(変股症)に対するPauwelsの理論に基づく骨切り術は関節にかかる合力を下げることで軟骨を再生させ,長期間の部分荷重により再生した軟骨を強靱にし,適合性を改善させることで,再生した軟骨が長期間に亘り温存されることを,期待する術式である.そこで術後の不適合の完全な除去を目指した骨切り術に筋解離術の合併,および臼蓋縁切除術など臼蓋側の処置を要する場合がある.進行期以降の変股症に対する我々の骨切り術の成績からBombelliの言う萎縮型は,成績不良で関節症の再発率が高く関節温存手術の適応はなく,また術後に完全な不適合を除くことができなければ,成績不良であることも明らかになったことから,変形骨頭など術後に不適合の残存が予測される症例にも適応はない.萎縮型でなく術後に不適合が完全に除くことができれば,10年以上の良好な成績が見込める.すなわち比較的低侵襲の手術で人工関節に比肩する成績が得られると考えられる.ただし屈曲能の十分な改善は望めないため,術前の良好な屈曲能(60以上)が必要条件となる.また術後1年間に亘る部分荷重期間のため長期間の家族の支援,社会の理解が求められる.
(日職災医誌,50:345―353,2002)
─キーワード─
股関節,変形性関節症,骨切り術
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スポーツ傷害に対する治療の進め方

堀部  秀二
大阪労災病院スポーツ整形外科

(平成14年1月30日受付)

(日職災医誌,50:354─356,2002)
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原  著
カード型CD-Rを利用した医療情報ネットワークシステムの検討

野村  誠,星   歩,嵩  龍一
大橋  誠,山田 義夫,阿部  裕
労働福祉事業団大阪労災病院内科

(平成14年1月18日受付)

 カード型CD-Rを利用した医療情報ネットワークシステムの検討
 患者の治療・管理をどこにおいても確実にするシステムを構築するためには,円滑な患者医療情報の交換を可能にする医療情報ネットワークシステムを構築する事が不可欠である.この医療情報システムを構築するために,医療情報記録カードシステムに関して検討を行った.
 方法並びに材料
 カード型記録媒体,2)カード読みとり記録機,3)コンピューター,4)カラーイメージスキャナー,5)印刷機から構成される.このシステムにおいて,医療情報,画像データ(Xray,CT,MR,RI)が記録可能である.
 結果ならびに考察
 記録カードシステムは,記録容量が大きく,高速にて読み出し,書き込みが可能であり患者の医療情報記録に有用である事が明らかとなった.しかしながら,画像情報処理などに関しては今後も検討が必要であると思われた.本システムを活用する事により,医療情報ネットワークを構築する事が可能となった.
(日職災医誌,50:357―360,2002)
─キーワード─
カード型CD-Rシステム,医療情報記録媒体,医療情報ネットワーク
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眼窩先端症候群を呈した眼窩内側壁骨折

菅又  章1),茂原  健2)
1)東京医科大学八王子医療センター形成外科,2)東京医科大学形成外科

(平成14年3月5日受付)

眼窩内側壁骨折により眼窩先端症候群を生じた1例を経験した.症例は73歳の女性で,転倒による左眼窩内側壁骨折を受傷後,遅発性に眼瞼下垂,眼球運動障害,散瞳,視力障害が生じた.受傷後7日目よりステロイド,浸透圧利尿剤を投与し,星状神経節ブロックを行うことにより,眼瞼下垂,眼球運動障害は改善したが視力障害は改善しなかった.本症候群の発生が予見される骨折では慎重な経過観察と適切な対処が必要であると思われた.
(日職災医誌,50:361―364,2002)
─キーワード─
眼窩内側壁骨折,眼窩先端症候群,顔面骨骨折
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「職場血圧測定監視システム」の開発と評価

加藤 俊夫1),奥田 武正1),佐藤 弘昭1),柳浦真美子2)
三菱電機(株)系統変電・交通システム事業所健康増進センター1),三菱電機(株)先端技術総合研究所ヒューマンライフ部2)

(平成14年5月13日受付)

 高齢化社会における健康維持対策として重要な生活習慣病の予防を目的とし,企業や健保組合などの組織内で利用し,個人の健康管理に役立てるシステムのひとつとして「職場血圧測定監視システム」を開発しその評価を試みた.
 このシステムは,2,400人が勤務する著者らの事業所内に56台の自動血圧計を設置してこれを通信線で接続,4台のクライアント端末にそのデータのトレンドを表示するものである.医師などの管理者は,社員各自が測定した血圧値が表示された末端からの情報に基づいて,社員個人へコメントするだけでなく,社員全体の血圧値に対するデータを得ることが出来る.このシステムは,事業所社員に週1回から7回の頻度で利用されており,各自の血圧の値は利用頻度と無関係であった.システムの障害状況はコンピュータのトラブルが最多で半数を占め,ハードとソフトが同頻度であった.
 このシステムの効果については,システム導入後の高血圧率などの変化を捉えて評価することが望ましいが,未だデータを得るにはいたっていない.ただ,システム利用者へのアンケート調査によって,社員の血圧に対する意識の向上が明らかであった.
 このシステムの費用対便益については,マルコフモデルによるシミュレーションの結果ではプラスとなったが,通院医療費,労働損失費の設定はかなり希望的要素が強く,このプラス値は必ずしも確固としたものではない.今後さらに実際のデータに基づいた計算が必要である.
 職場測定血圧の評価については,職場測定血圧と医療機関測定血圧および24時間血圧を比較したが,いずれの場合も職場測定血圧は各自の血圧値をフォローアップするための指標として充分使用しうるものと考えられた.
(日職災医誌,50:365―373,2002)
─キーワード─
血圧,ネットワークシステム,マルコフモデル
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胸骨骨折高度転位例の治療経験

簗瀬  誠,東倉  萃,岡  義春
中部労災病院整形外科

(平成14年3月10日受付)

 我々は高度に転位した胸骨骨折を2例経験した.1例は胸椎と肋骨の骨折を合併し,胸骨骨折部痛が著しいため手術治療を行った.もう1例は合併損傷を認めず,骨折部痛は軽度であったため保存療法を行った.2例とも胸骨骨折は同程度に転位短縮を認めたが,骨折部痛の程度は異なった.手術例では胸部の前後を損傷したため,胸骨骨折部の不安定性が増し,痛みが強かったと考えた.また逆に前後のどちらかを安定化させることは他方の痛みをも改善させると考えた.本手術例では胸骨骨接合術後,背部痛も改善していた.
 2例とも経過良好であったことから,胸骨骨折は転位が高度であることのみではなく,胸郭後方の損傷などによる骨折部の不安定性を考慮し手術の適応を決めるべきだと考えた.
(日職災医誌,50:374―377,2002)
─キーワード─
胸骨骨折,手術
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避難時の医療の現状と問題点
―2000年有珠山噴火―


後藤 義朗1),中谷 玲二2),宮崎  悦3)
1)洞爺協会病院,2)洞爺温泉病院,3)とうや協会診療所

(平成14年3月10日受付)

2000年有珠山噴火前の避難指示が功を奏し人的被害は認めなかった.被災後の医療体制は,救護班が中心だったが,避難所は豊浦町,長万部町,洞爺村,伊達市など計30カ所以上に分散,さらに避難は長期化した.昨秋,避難時の医療状況や問題点について,地元医療機関を対象にアンケート調査を行ったので,その結果を報告する.〔結果〕回収率は16/33件(被災医療機関4/6件も含む),48.5%であった.医療人との使命感のもと,救護班を派遣した病院は7件.その規模は,数日・数カ所単位から延べ245日,11カ月まで.費用は2.6万から520万.診療内容は,外傷より風邪,不眠,便秘などが多く,慢性疾患が主体であった.避難生活が長期化したことに由来した.なお,急性病変やSAHなど死亡例も報告された.発災二週目から慢性疾患治療薬が不足したが,地元医療機関の避難中のため,救護班が対応した.一方,地元医療機関も避難所に自院患者を尋ねたが,管理事務所で拒否された例があった.
〔考察,結論〕避難所医療体制の問題として,1)救護班相互や同じ避難所で,申し送りも含め,連携不足していたこと.管理事務所に不適切な介在があった.救護班には,その選定基準が不明確 2)被災患者受け入れ病院での負担(患者の急増に対するスタッフ確保費用等)に対する弁償はなかった.3)「災害拠点病院」は,発災前の避難で機能しなかった.その役割については,災害の内容や状況に備えるため,見直しのため活動している.4)被災病院入院患者も「災害弱者」であるが,災害で受傷しないかぎり,一般住民と同じ扱いである.避難となる受け入れ病院の確保のため,相互のネットワーク形成が必要である.
(日職災医誌,50:378―384,2002)
─キーワード─
有珠山噴火,避難所医療,災害弱者
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産業中毒領域における労災病院専門センターとしての
産業中毒センターと産業保健推進センターおよび
地域産業保健センターとの連携活動について


坂井  公,大菅 俊明,森田 陽子
東京労災病院産業中毒センター

(平成14年6月25日受付)

産業中毒センターが全国の産業保健推進センターや地域産業保健センターに理解され容易に活用されることを目指すとともに相互の連携した活動の推進を図ることを目的とし,推進センターの活動状況や中毒センター利用状況についてアンケートを行った.このアンケート調査の中で,中毒センターの周知がはかられるとともにその役割も明らかとなり,共同した産業保健推進活動が開始されることとなった.
(日職災医誌,50:385―391,2002)
─キーワード─
産業中毒,産業保健,アンケート調査
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症  例
限局性悪性胸膜中皮腫の1例

西  英行1),岸本 卓巳1),間野 正之2),福田 和馬2),小松原正吉2)
1)岡山労災病院勤労者呼吸器センター,2)岡山労災病院外科

(平成14年5月7日)

症例53歳,男性.健診の胸部X線にて異常陰影を指摘され,精査目的にて入院となる.画像上閉塞性気管支炎―器質化肺炎(BOOP)等を疑われた.また,精査中に発熱,炎症反応の上昇もあり,肺膿瘍の可能性も考えられたが,生検にても確定診断得られず,抗生剤にて経過観察中,MRIにて浸潤像を認め,悪性の腫瘍を考え手術施行し,限局性悪性胸膜中皮腫の診断となる.術後1カ月目のCTにて肝,筋肉に転移を認め,全身化学療法施行したが,効果得られず,術後6カ月目に呼吸不全にて死亡した.
(日職災医誌,50:392―395,2002)
─キーワード─
限局性胸膜中皮腫,閉塞性気管支炎―器質化肺炎
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骨盤骨折を合併した多発外傷患者の集中治療

西山 芳憲
愛媛労災病院集中治療部

(平成14年5月27日受付)

 骨盤骨折を合併した多発外傷患者6例の全身管理を行った.合併損傷としては胸部外傷が多く,4例に人工呼吸を施行した.いずれの症例も急速輸血,輸液に反応せず,動脈性出血と考えられた.5例に対してはすみやかに骨盤動脈造影および塞栓術を行った.1例はやむをえぬ事情により,急性期に塞栓術ができず,輸血など対症的治療のみを施行したが,第5病日に再度出血性ショックとなり,この時点で塞栓術を行った.しかし,急性呼吸促迫症候群(ARDS),急性腎不全,肝障害をきたし,多臓器障害のため死亡した.
 骨盤骨折を合併した多発外傷患者の管理においては,出血対策が最も重要であり,動脈性出血が疑われる場合は,すみやかに骨盤動脈造影,塞栓術を行う必要があると考えられる.
(日職災医誌,50:396―399,2002)
─キーワード─
骨盤骨折,出血性ショック,塞栓術
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