勤労者の心のセーフティネット

メンタルヘルスの全国ネットの活動から
事例1 私は、10年前に現在の会社に営業職として就職しました。はじめは仕事が楽しく、すべてが新鮮で一生懸命働き、いろいろな企画を立案して大きな成果を上げました。その間、ストレスや疲労を感じることはありませんでした。
上司に認められ、ほどなく最大手の得意先をまかされました。異例の大抜擢です。何とか成果を上げるために寝る間を惜しんで仕事をし、この頃から残業は80時間/月に達していたと思います。
数年で、全社で一番若いチーフに大抜擢されました。数人の部下を抱え、他のねたみもあり、かなりのストレスと疲労を感じるようになりました。そして、1年を過ぎたころから「どこかに消えてなくなりたい」と思うことが多くなり、妻の前で涙ぐむこともありました。今思い返すと、この頃には軽いうつ状態だったように思います。
こんな状況になんとか耐えていた頃、幸か不幸か社内のプロジェクトの委員長になり、自分が改善したかったことができると張り切り、寝る間も惜しんで仕事に没頭し、100時間/月の残業もいといませんでした。
数年して体調の異変に気づいたので、「今の職を退きたい」と上司に訴えましたが、今の地位を失うのが怖くなり「最後までやり遂げたい」と再度お願いしました。様子がおかしいと心配した上司に連れられて、精神科を受診したところ、「うつ病」と診断されました。上司から「プロジェクトは他の人にやらせるから、もっと気楽な仕事をしなさい」と言われ、重責からはずれた虚しさと悔しさから症状が悪化し、休職しました。その後、復職と休職を繰り返し、今では30代で窓際族です。
次の疑問点を教えてください。
1.うつ病は、遺伝的要素があるのでしょうか。
2.うつ病は、何度も再発するのでしょうか。
3.死ぬまで薬を飲み続けなければならないのでしょうか。

返事 メールを拝見しました。うつは、誰にでも起こり得るものです。けっして、遺伝病ではありません。薬には、効果と副作用がありますが、素人判断で薬の中断をしないことが大切です。けっして、どうにもならない病気ではありません。主治医に相談しましょう。"一病息災"というように、病気とうまくつきあうことが大切ですね。家族との時間を大切にして、仕事の上で支え合う人間関係を築くことができればいいですね。 (勤労者メンタルヘルスセンター担当医)

I 勤労者の"心の健康"をめぐる状況

 「リストラ」「成果主義」「年俸制」等々の言葉がマスコミをにぎわせ、日本的経営の特徴といわれてきた終身雇用制、年功序列制がゆらいでいます。このことで、多くの勤労者に今までにないストレスがかかっていることは、容易に想像されます。
 心の健康(メンタルヘルス)というとき、自分自身が、あるいは不調を来した部下や同僚を持った者として"当事者"にならない限り、あまりピンとこないのではないでしょうか。
 それでも、ある労災病院のメンタルヘルスセンターによせられた左のような企業戦士の切実な声は、人ごとではない迫力をもって読む者の心を打ちます。
1 自殺者が3年連続3万人を突破
 先般、警察庁より平成12年の自殺者数が発表されました。総数は31,957人で、平成10年以降、3年連続の3万人台となりました(図1)
 平成10年以降と石油危機後の昭和57(1982)年とを比べてみると、自殺の理由として、経済生活問題(2,377人→6,500人)や勤務問題(901人→1,800人)が急増しており、厳しい社会状況を反映していることがわかります。
 また、全体の7割を占める男性(22,727人)を年代別でみると、「50歳代」が6,454人(28.4%)、「40歳代」が3,796人(16.7%)で、いわゆる働き盛りの「40~50歳代」が全体の45%を占めています。

 

図1 年次別 自殺者数
(単位:人)
図1 年次別 自殺者数

 

2 精神障害等の労災請求事案の急増
 業務に起因した精神障害として労災請求する事案が急増しています。平成5年度まではほぼ一桁の件数でしたが、平成6年度以降二桁になり、平成9年度には前年比2倍の41件、平成11年度には155件と、一気に三桁に達しています。
 認定件数も同様で、平成11年度には前年比3倍強の14件、平成12年度は、請求212件、認定36件と大幅増となり、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が策定された平成11年を境に急増しています。

3 従業員の精神障害に対する事業主の健康配慮義務
 一方、精神障害や自殺と業務との因果関係に関する判例も出始めています。中でも、日本の企業にインパクトを与えたのが、記憶に新しい「電通事件」です。
 本件は、入社して1年5か月後に自殺した広告代理店社員Aの両親が会社を相手取り、長時間労働を強いられたがゆえに「うつ病」に陥り、その結果自殺に追い込まれたとして、損害賠償を請求した事案で、最高裁まで争われました。
 裁判所は、過労自殺に対する企業責任を認め、Aの長時間労働の実態と健康状態の悪化を知りながら、適切な管理をしなかった点を指摘しました。
 なお、高裁ではAの責任も認めて一部過失相殺を行いましたが、最高裁は平成12年3月、これを認めずに高裁に差し戻し、その後、会社側が全面的に責任を認める形で和解しています。
 こうした中で、厚生労働省では、平成12年8月に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を策定し、労働者自身によるセルフケア、管理監督者のラインによるケア、産業医・保健婦などの産業保健スタッフによるケア、そして労災病院勤労者メンタルヘルスセンターや産業保健推進センターなどの事業場外資源によるケアと4つのケアによる労働者の心の健康づくり対策を進めています。

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I 勤労者の心の健康を守るために

 このような状況のもとで、勤労者の健康を守るための医療=勤労者医療を旗印として活動している労働者健康福祉機構では、勤労者の"心の健康"を守るために、勤労者本人ばかりでなく、その家族、そして、事業場の管理者や産業医などの専門家を対象に、幅広くネットワークを構築し、支援活動を行っています。

1 "心身の不調"とストレス
 "心身の不調"とは、精神的なストレスが身体に影響を与えることに注目した、うつ病や神経症のほか、胃潰瘍、高血圧、不眠などの心身症を総括した、ストレス関連疾患を背景にしています。
 最近の厚生労働省の調査(平成9年、労働者健康状況調査)では、心身の疲労を感じている勤労者の割合は7割を超えています。労災病院の神経科、心療内科などに新規に受診された患者数(新患数)の推移を見ても年々増加しています。

2 勤労者の心身の不調に対して
 勤労者メンタルヘルスセンターは、労災病院に設置され、勤労者をはじめ事業場の産業医や衛生担当者を対象に次のような活動を行っています。

(1)カウンセリング
 勤労者の身心不調の原因となった心の問題に応じて、医師や心理判定員によるカウンセリングを行います。また、各種心理テストを用いた心理判定も行っています。さらに、相談内容によっては、相談者の会社の産業医と連携して、職場適応についての指導も行っています。
 横浜労災病院の勤労者メンタルヘルスセンターでは、電子メールで寄せられた相談の内容に応じて、直接会話ができる「勤労者 心の電話相談」に紹介したり、逆に、電話相談において、専門医によるメール相談もあることを紹介するなどして、利用者が抱える状況にあわせた対応を行っています。

(2)精神科デイケア
 関東労災病院の勤労者メンタルヘルスセンターで行っている集団療法です。
具体的には、症状が軽快して社会復帰しても、「仕事に行きたいが自信がない」「人づきあいがうまくいかない」などと、再発して入院することが非常に多い重症例から回復途上にある人々に対して、精神科医療の専門家による次のようなデイケア・プログラムを実施して、グループ活動を行いながら、病状の安定と自信の回復を促すものです。
①日常プログラム(1日6時間)
  ・グループミーティング ・対人関係、日常会話等の回復訓練、スポーツ、レクリエーションほか
②随時プログラム(月1~2回)
  ・スポーツ大会など
③臨時プログラム(季節毎に1回)
 ・野外活動など

(3)セルフケアのための情報提供
 ストレス耐性の強化、ストレス対処法やリラックス法を紹介します。

(4)ストレスドック
 横浜や九州労災病院の勤労者メンタルヘルスセンターでは、各種心理テストや小面接によるストレス度の評価を行い、ストレスの早期発見と健康指導を行っています。

(5)事業場との連携、情報提供
 産業医や保健婦、衛生担当者の相談を受けて、職場におけるストレス要因の軽減などを図っています。また、必要に応じて、職場環境や業務における心理的負荷強度などの評価をして、関係者の対応について助言をしたり、症例検討会や講習会などを開催するなど情報提供を行っています。

(6)ストレス関連疾患の研究
 ストレス関連疾患に関する効果的な治療方法の研究・開発のほか、職種とストレス要因の関係、職場不適応の要因と類型化など、複数の診療科による共同研究を進めています。
 労災病院では、勤労者メンタルヘルスセンターのほか、神経科、心療内科や精神科にて、メンタルヘルスに関わる診療を行っています。
 たとえば、山口労災病院の神経科では、「我々が問題にするのは、人の『行動』や人と人との『関係』です。自分あるいは他人の行動に対して困っていると感じている方、対人関係について問題解決できない方はお気軽にご相談ください」と話しており、勤労者の方を対象にした夜間外来(予約制)を開設しています。
 横浜労災病院の心療内科では、「各種心身症を中心に、ストレス関連疾患の診療を行っています。産業現場の産業医にも、心療内科研修の場として活用されています。また、居住地が遠方の場合など必要に応じて他院を紹介しています。そのため、近隣地域の心療内科・精神科の先生方とは定期的な研究会を開催するなど連携を深めています」と、それぞれに特徴を持った診療を行っています。

3 働く方々の心のセーフティネット
事例2 お久しぶりです。
 以前、「課長に昇進したものの、仕事がわからず自信がない」と相談した者です。先生からのお返事のメールを印刷して、お守りのようにバッグに入れて持ち歩いていました。それを持っているというだけで、だいぶ気持ちが楽になりました。いまでは、仕事に対する意欲に溢れ、力不足ながらも課長の仕事をがんばっております。
 誰にも相談できず悶々としていたところ、先生にお話しさせていただいて気分がスッキリしました。何かと落ち込みやすい私ですので、また何かありましたら相談にのってください。本当にどうもありがとうございました。

 これは、ある労災病院の「勤労者 心の電話相談」での相談者からの感謝の手紙です。担当者がもっとも喜びを感じるときです。
 勤労者 心の電話相談(無料):働く方々の心のセーフティネットを労災病院が開設し、産業カウンセラーなどの専門カウンセラーを配置しています。安心して相談できるように、相談料は無料とし、また、プライバシーに十分配慮しています。
 "心の健康"の注意信号というべき、職場不適応を起こしている人の発するサイン(表1)を見落とさないことが大切です。「このごろ変だな」と感じたら、勤労者ご本人はもとより、ご家族や職場の方もぜひご利用ください。

表1 不適応状態ではないかと考えてみる徴候(サイン)
I 身体的な症状
身体の不調の訴えが多い。
不眠の訴えが続く。
II 精神的な症状
仕事に対する責任感の低下。
仕事能率の明らかな低下。
細かいことにクヨクヨする。
考え事をしていることが多い。
著しく口数が少ない。
表情が乏しく、生気がない。
イライラ、セカセカしすぎる。
気が大きくなり、よくしゃべり、自分の能力や権限以上のことを実行しようとする。
III 行動面での徴候
遅刻、欠勤、早退などの勤怠状況が平均値より多い。
早出、残業、休日出勤が平均値よりはるかに多い。
ケガをすることが多い。
不平不満が多く、しばしば上司に反抗する。
不機嫌になるとごく細かいことに怒りやすく、乱暴をはたらくことがある。
さしたる理由もなく、職場転換を希望したり、会社を辞めたいと訴える。
金使いが荒くなり、借金をよくするようになる。
服装が極端にだらしなくなったり、目立つようになる。
「職場における心の健康づくり」 (産業医学振興財団)より

 「勤労者 心の電話相談」で、平成12年4月から翌年3月までの1年間に受けた相談のうち、勤労者に関するものが延べ3,721件ありました。年代は20代から50代までそれぞれ15%前後で、全体の6割が女性でした(図2)。

 

図2 平成12年度「心の電話相談」の年代別相談者の割合
図2 平成12年度「心の電話相談」の年代別相談者の割合

 

 相談者の抱えている心身の問題として多いのが、「落ち着かない、イライラする」(1,453人)、「将来に対する不安」(1,074人)でした。また、「自殺念慮(自殺を考えている)」が198人と意外に多く、この電話相談で思いとどまったという例も報告されています(図3)

図3 相談時の心身の状態 上位15
(単位:人)
図3 相談時の心身の状態 上位15

 勤労者が抱えている職場の問題(複数選択3,309件)では、上司、同僚、部下その他の人間関係や社内いじめの問題を挙げた人が、1,276人と群を抜いています(図4)

 

図4 職場の問題 上位10
(単位:人)
図4 職場の問題 上位10

 

 横浜労災病院の「勤労者 心の電話相談」を担当する産業カウンセラーは、「電話相談は1日に10~20件で、増加傾向にあります。電話相談の利点は、①かけるも切るも相談者の自由が保証されていて敷居が低いこと、②距離に関係なく気軽に相談できること、③匿名であること、の3点です」と話し、「ストレスを抱え込んで大きくしてしまう前に、すぐにお電話を!」と呼びかけています。
4 よりよい海外生活のために  (※海外勤務健康管理センター(JOHAC)は平成22年3月に廃止されました。)
 海外勤務の場合には、生活環境の変化も加わり、国内とは違ったストレスがあるようです。
 海外勤務健康管理センター(JOHAC)では、海外巡回健康相談(別記事参照)時に現地でご協力をいただいたメンタルヘルスに関するアンケート調査について分析した結果、約4割にストレス状態が認められ、2割が抑うつ状態に近いと推察しています(コラム参照)。
 海外赴任に際して、その時の精神・身体の健康状態、楽観・悲観の性格傾向、生活習慣、ストレス対処行動といった多くの要因が、海外での勤務生活の適応条件に複雑微妙に影響しあっています。
 JOHACでは、数種類の心理テストを組み合せ、多種の要因を分析することで、受検者のメンタルヘルスを検討し、よりよい海外生活のための個別指導を行っています。さらに、海外でメンタルヘルス上の問題が生じた場合、FAXによる相談を受け付けて、専門家によるメンタル・サポートシステムを提供しています。
   FAX番号 [81]45-474-6098


コラム

海外勤務者のメンタルヘルス

<アンケート調査の概要>
  開発途上国を中心として、1998年度2,284名(38か国)、1999年度2,182名(37か国)の回答を得て分析した。
<結論>
 回答者の約4割にストレス状態が認められ、約2割が抑うつ状態に近い状態にあると推察された。
<メンタルヘルスに大切なこと>
 調査から、海外生活のメンタルヘルスに次のことが大切であると考えられた。
I 特に大切なこと

仕事にそれなりの満足感があること。

プライベートな生活でも、それなりに満足感があること。 

楽観的に物事を考えられること。

薬の定期服用が必要な慢性疾患を抱えていないこと。
II 大切なこと

ストレスに直面した際に、問題解決に向けて現実的・積極的に対応したり、懇談やスポーツなどで気分転換が上手にできること。

現地で、職場の上司・同僚・配偶者などが、業務や生活を実質的に支援する「ソーシャル・サポーター」となっていること。

海外赴任に対して何らかの「積極的モチベーション」を見つけられること。

5 事業場の"心の健康づくり"を支援するために
事例3 産業医:「入社2~4年あたりの若い社員に『自律神経失調症』や『うつ状態』などで休業するケースが最近目立つ。精神科医や心療内科医に受診することにあまり抵抗はなく、むしろ安易に休んでしまい、病気への逃避傾向が感じられる。何かよい対策はないか」
相談員:「入社直後の安全衛生のカリキュラムのほかに、入社後数年して行われる研修に先生の時間をとってもらい、産業医の存在をアピールしてはどうでしょうか。人事労務担当者からは「仕事の厳しさ」を、また先生からは「サポートシステム」としての産業医の存在をアピールすることが必要でしょう」

 これは、産業医から産業保健推進センターの窓口に寄せられた相談と、メンタルヘルス担当相談員(医師)の回答です。
 産業保健推進センター(以下、産保センター)は、事業場の産業保健活動を支援するため、平成5年度から労働者健康福祉機構が設置を進め運営している施設です。
 平成13年度現在、全国42の都道府県に設置され、メンタルヘルスに関して次のような事業を進めています。

(1)窓口相談
 産保センターの主要業務である、事業場などを対象とした相談窓口では、メンタルヘルスに関する相談が増加しています。平成12年度の産保センター全体の相談件数12,264件のうち、トップがメンタルヘルスに関すること(1,591件)でした。その相談者の割合は図5のとおりです。

 

図5 平成12年度 メンタルヘルス相談者の内訳(全産保センター)
図5 平成12年度 メンタルヘルス相談者の内訳(全産保センター)

 


(2)セミナー・研修
 また、事業主や労務管理者を対象としたセミナーや、産業医や保健婦等を対象とした専門的・実践的な研修でも、メンタルヘルスやカウンセリングに関するものへのニーズが高まっています。
 特に、事業主のメンタルヘルスへの理解が、事業場における労働者の心の健康づくりのキーポイントとなります。平成12年度の事業主向けのセミナーには全国で年間2万人、産業医などの研修には年間8,000人が参加しました。

(3)図書・ビデオ等の貸し出し
 さらに、産保センターでは、産業保健に関する各種の図書やビデオを貸し出しており、メンタルヘルスに関するものの利用が伸びています。貸出中のことが多く利用者に不便をかけているため、買い足したセンターもあります。

(4)産業保健の調査研究
 このほか、産保センターでは、地域における産業保健の問題に関する調査研究を行っており、「事業場におけるメンタルヘルスケアの取り組み」「事業場におけるストレスの実態とその要因」など、メンタルヘルスに関するテーマも多数取り上げています。
 愛知産業保健推進センターでは、メンタルヘルスに関する相談が全相談件数の約4分の1を占めています。「会社でメンタルヘルスの教育を行いたいがどうすればいいのか」「メンタルヘルス専門の医療機関を知りたい」、また「精神的に落ち込んでいる社員がいる」といった相談が事業場から寄せられています。
 こうした現状を受け、同センターでは、メンタルヘルスやカウンセリングのセミナーを開催したり、中部労災病院や旭労災病院で行っている「心の電話相談」のリーフレットを配布したりと、積極的に対応しています。
 最近の例では、日本労働組合総連合会愛知県連合会・安全衛生センターから、「心の相談室」(仮称)の設置の検討にあたり、メンタルヘルスの実態と対策を勉強したいと講師の依頼が寄せられたりしています。
 埼玉産業保健推進センターでは、企業におけるメンタルヘルス・システム構築に関するセミナー、カウンセリングのためのリスナー研修、管理職研修などを数多く行っており、どれも定員いっぱいの状況が続いています。研修は好評で多くの方が繰り返し参加しています。
 また、毎月1回午後6時から、産業医、保健婦、管理者などの産業保健を担当されている方々を対象にメンタルヘルス事例研究会を開催し、それぞれが抱える問題事例を持ち寄って今後の方針や解決方法を探っています。
 全国の産保センターの研修・セミナーのご案内は、直接センターにお問い合わせいただくか、ホームページや各センター機関誌でもご覧になれます。(http://www.johas.go.jp/sanpo/
 産保センターの専門相談員には、多くの労災病院の医師が務めており、臨床を背景にした豊富な知見やノウハウが相談業務や研修、セミナーに生かされています。

 全国にネットワークを形成する「労災病院」「勤労者メンタルヘルスセンター」「海外勤務健康管理センター」「勤労者 心の電話相談」そして「産業保健推進センター」。
 心身に不調をきたした勤労者や職場の関係者の相談に、セミナーや研修によるメンタルヘルス対策の啓発・推進に、そして、症例研究、調査研究などの地道な研究活動の積み重ねにより、全国ネットで勤労者の心の健康を守っています。
 最後に、ある電話相談員の言葉をもう一度記します。
「ストレスを抱え込んで大きくしてしまう前に、すぐにお電話(相談)を!」

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コラム

人の心を癒すもの


岡山労災病院 神経科部長
岡山産業保健推進センター
メンタルヘルス担当相談員
下山 敦士

 晩秋の頃より春先にかけて、庭には落ち葉がしっかり落ちています。それを熊手でカリカリと音を立てて集め、焚き火をするのが、私の楽しみのひとつです。煙にいぶされながら体の前面で火のぬくもりを、背中では寒さを感じるとき、春の訪れを切望します。
 昨年の暮、10年間使ってきた竹製の熊手の歯先が3分の2ほど折れて歯抜けとなったため、新しい熊手を求めて店へ行きましたが、竹製の適当なものがありません。仕方なくプラスチック製の熊手を買い求め、庭で使ってみましたが、前夜の雨で濡れている枯葉はぜんぜん集まってくれません。プラスチックの歯先は、地面をガリガリとひっかくだけで、落ち葉の上を素通りするか、細かく刻むばかりです。
仕方なくボロボロの竹の熊手を再び持ち出して使ってみますと、歯先がうまくたわみ、葉っぱに上手にからんで、軽くなでるようにしても枯葉が瞬く間に集まり、実に気持ちのよいものでした。改めて自然のものを扱うには、自然のものがいちばんよいのだと実感しました。
 この体験と心の問題がぴったりと関連しているように思われます。プラスチックや鉄のような硬いものや器械(考え方や対応)では、人間の心は癒されません。スローガンやマニュアルだけで心の問題がうまくいくと考える人は幸せな人だと思います。人の悩みや問題を解決するには、人間らしい柔軟性のある発想や対応でなければうまくいきません。人の心は人の心によって癒されるものだということを申し上げたいと思います。
 若いころ、精神科医として仕事のやり方に少々自信がありましたが、正直に申しまして、治療成績はあまりよくありませんでした。その後、交通事故に遭ったり胃の病気になるなど、死の淵を見ることが何回か重なり、さらに中年以降も、さまざまな人生の試練に遭い、何から何まで思い通りにならないことの連続で、追いつめられました。
 ところが、不思議なことに、「人間は救われにくいものだ」と思うようになったころから、患者さんの心の苦しみが汲み取りやすくなったのです。思いのほか、患者さんがよく治るようになりました。
 少数の幸せな人を除き、人は、不安でつらく、さみしく、孤独なのです。他人の目や思惑を気にしながら暮らし、時に賞賛を求めています。だから確かなもの、頼れるもの、楽しいもの、救われるものを求めています。
 現実にそれが見つからず、救いがないとき、どうしたらよいでしょうか。「心の健康マニュアル」があれば、それでよくなると思われますか。それを皆様と一緒に考えていくのがメンタルヘルスの課題のひとつと思います。
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