日本職業・災害医学会会誌 第49巻 第3号
Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology
Vol.49 No.3 May 2001
教育講演3 |
中途障害勤労者の職業復帰
弘 昭博 吉備高原医療リハセンター
(平成12年11月30日受付)
|
中途障害者を職業の場に戻すことはリハ医療における勤労者医療の実践であるが,雇用関係があり原職復帰を目指す障害者の場合は職業リハのサービスは受けられないため,アプローチはリハ医療の中で行わなければならない.一方職業リハを経由する場合は離職し身体障害者の認定という条件が要求されるため実際の職業訓練に至るまでにはかなりの期間を要する.しかし医療情勢はこれらにアプローチし完結するまでかかわることを困難としている.また,職業リハは一般就労を目指すものであり,対象障害者には訓練終了後競争雇用に耐えることが要求され,日常生活自立と高度の知的能力を必要とする.職業リハの適応となる障害者は限られ,また中高年齢者にはきわめて厳しいのが現実である. 現状での職業復帰率の向上には,ゴールを設定して方向付けを行ってから次のリハ施設に引き継ぐ,退院後の職業復帰への窓口を示して方向付けをしてから社会復帰させるなどの取り組みが重要になってくる. このために医療者が知っておくべき障害者の職業復帰への流れ,窓口を示した. また,吉備高原総合リハセンターでは医療リハ側と職業リハ側の共同作業によって医療の期間内(医療リハセンター入院中)に職業リハを実施して早期の職業復帰を目指す取り組みを行っている.職業訓練課程・短期課程と職業適応課程・OA講習である.いずれも医療の期間に職業リハを実施するといういわば現行制度の枠を越える取り組みであり,早期に職業復帰を実現する効果を上げている. |
(日職災医誌,49:187─192,2001) |
─キーワード─
リハビリテーション・勤労者・障害者・職業リハビリテーション・職業復帰 | |
UP |
|
教育講演4 |
最近の塵肺症 岸本 卓巳 岡山労災病院内科部長
(平成12年11月30日受付)
|
目的:建設労働者あるいはい草関連作業者における塵肺症の有所見率を調査する目的で,これら粉塵作業者の胸部画像上の塵肺所見と胸膜病変の有無について検討した. 対象・方法:建設労働者2,951名とい草関連作業者600名を対象として,胸部レ線像を直接撮影するとともに一部症例では胸部CTを撮影した.い草関連作業者については有所見者では肺機能検査を行うとともに職場の作業環境測定(粉塵)を行った. 結果:建設労働者2,951名のうち168名に画像上石綿肺または胸膜プラークを認めた.大工あるいは左官における有所見者数が多かったが,有所見率では石綿吹き付け,コンクリートボード削り業者が多かった.石綿肺所見では典型的なhoney combingを認めた症例は29名とわずかであった.一方,胸部CT上subpleural dots等の早期病変を認めた症例が多かった.一方,い草関連作業者のうち,39%にあたる231名に塵肺所見を認め,作業年数が長くなるほど塵肺有所見者数が増加する傾向にあった.本作業においては女性の有所見率が男性より高く,他の塵肺症とは異なった傾向を示した.粉塵の作業環境測定においてはい草関連作業のすべての工程で第3管理区分であり,粉塵の濃厚な曝露が証明された.また,肺機能検査においても一部の症例で閉塞性肺機能障害が認められた. 結論:建設労働者あるいはい草関連作業者においてはかなりの濃度の粉塵吸入が行われており,新たなる塵肺患者の発生があることが判明した.しかし,粉塵吸入防止対策についてはあまり注意が払われていなかった.これら労働者の健康管理を行う上で,粉塵吸入を防止する適切なマスクの着用と粉塵によって発生する病気に対する衛生教育を行うことが急務であると思われた. |
(日職災医誌,49:193─197,2001) |
─キーワード─ 建設労働者,石綿粉塵曝露,い草染土塵肺 |
UP |
|
教育講演5 |
バングラディシュの砒素汚染 ─ナワブガンジ地域における医学生態学調査
大塚柳太郎1),渡辺 知保1),宮崎 香織1) 門野 岳史2)<,牛島 佳代3),稲岡 司4) 永野 恵4),中村 哲5),村山 伸子6)
東京大学大学院医学系研究科人類生態学1),東京大学医学部附属病院皮膚科2),熊本大学文学部社会学3),熊本大学医学部公衆衛生学4),国立国際医療センター5),新潟医療福祉大学健康栄養学科6) | (平成13年4月20日受付)
|
砒素汚染のリスク人口が3,500~4,500万と推定されるバングラディシュにおいて,砒素中毒患者が最初に発見されたナワブガンジ県の2村落(それぞれ約150世帯)の住民を対象に,井戸水および尿中の砒素濃度の測定と皮膚症状の視察,さらに住民の砒素中毒に関する意識調査を行った.全数の井戸(N=101)のうち,約30%がバングラディシュの基準値である0.05mg/l(WHOの基準値は0.01mg/l)を超えていた.対象とした成人(N=350)の尿中砒素濃度には大きなばらつきがあり,飲用している井戸水の砒素濃度と有意に相関した.また,同一の井戸を利用する男女では尿中砒素濃度が近似していた.皮膚症状を視察した成人(N=561)では,45%に砒素に起因する何らかの異常が観察され,有症率は男性で有意に高かった.同程度の曝露であっても男性のほうが皮膚症状を発現しやすいという本調査の結果は,今後さらに検討すべき重要な知見と考えられる.一方,住民の意識調査から,安全な井戸水を利用できるようにする対策だけでなく,砒素汚染の健康影響についての情報提供や予防行動の動機付けを高める必要性も明らかになった. |
(日職災医誌,49:198─202,2001) |
─キーワード─ 砒素汚染,尿中砒素濃度,バングラディシュ |
UP |
|
メインシンポジウム |
職業医学と災害医学 ─21世紀の職業・災害医学会─
座長 鎌田 武信1),高田 勗2) 大阪労災病院1),労働福祉事業団2)
(平成12年11月30日受付)
|
本学会は,「職業医学および災害医学の研究および教育ならびにこれに関する諸制度における医学的基準の研究により,医学・医療の発展に寄与することを目的とする」という会則を掲げ,これまで職業病や災害医療に貢献してきた.近年,産業構造,職業環境・疾病構造の変化に加え,情報技術の急速な普及,労働人口の高齢化等を包含した勤労者の健康環境を如何に保持するかという新しい命題に学会として取り組むという拡がりと総合化が要請されている.新しいミレニアムを迎え,日本災害医学会も日本職業・災害医学会と改名し,新たな発展を期することとなり本シンポジウムが企画された. 21世紀における本学会のあり方に対して労災病院は如何に貢献すべきかという観点に立って,労災病院の立場から吉永 馨先生(東北労災病院),内野純一先生(釧路労災病院)は,それぞれ勤労者医療,災害医学の課題と対応および将来展望ならびに本学会活動の活性化について提案された.産業医科大学の立場から大久保利晃先生(産業医実務研修センター)は,産業医ならびに産業保健職の養成について教育方針と現状および産業医養成の目標と将来計画を述べた.労災病院および産業保健推進センターを設置・運営している労働福祉事業団の立場から浦添 猛氏(医療事業担当理事)は勤労者医療の現状と展開および本学会への期待について考察された. 特別発言として本学会阿部 裕理事長より,科学技術の過去・現在・未来についてアービン・トフラーの第三の波を引用しつつ,勤労者の健康への包括的接近について示唆のある提言をされた.本学会を主宰した荒記俊一会長からも本学会の発展と今後への期待が述べられ,本シンポジウムが21世紀の日本職業・災害医学会の幕開けにふさわしい内容となり,本学会のあり方についての問題提起となれば幸甚である. |
UP |
|
職業医学と災害医学 21世紀の職業・災害医学会
吉永 馨 東北労災病院
(平成12年11月30日受付)
|
職業の実体が多様化し,急激に変化する時代を迎えて,疾病構造も著しく変わって来た.21世紀に突入すれば,これらの変化は一層加速するであろう.そのような事態に対して,本学会は如何に対応しなければならないか,何をどう研究し,如何に勤労者の健康増進に貢献すべきかを考えることが必要である. 私はその中で,労災病院の立場で検討するよう会長から指示を受け,次のように論じた. 1.勤労者の健康増進を図るに当たって狭義の職業病も大切であるが,生活習慣病を予防ないし管理する事が極めて重要である.予防には当事者の自覚と学習がもっとも基本となる.検診を通して早期発見に努め,発見者の徹底した管理に努めねばならない.これらをどう実現するかを研究することが大切な課題となる. 2.労災病院が長年にわたって蓄積した勤労者医療の技術と知識を途上国に移転する事もゆるがせにできない.これを如何に実現するかを研究しなければならない. 海外で働く勤労者の健康管理も研究課題である.従来の巡回健康相談を一歩進めて,医師常駐体制を実現できないものであろうか. 3.大災害,特に産業災害に備えることも重要である.さいわい産業災害は減ってきたが,化学薬品の漏出や原子力事故など,あり得ない事故が突発する事がある.これに対して備えを怠らないことも労災病院の使命であろう. |
(日職災医誌,49:204─206,2001) |
─キーワード─ 生活習慣病,技術移転,産業災害 |
UP |
|
21世紀における職業,災害医学会の発展に向けて
内野 純一 釧路労災病院
(平成12年11月30日受付)
|
日本職業,災害医学会の歴史的推移を文献的にたどり,さらに同じように保険制度を基盤としていると考えられる共済医学会,日本社会保険医学会と比較しながら本学会の現状を考察し,本学会が21世紀の発展に向けて何をなすべきか労災病院の立場から考えてみた. 結果:1.本学会は労災保健医療が適正,円滑に行われることを最初の使命としており,勤労者医療に携わる医師のみならずコメヂカル,看護婦(士),事務職員などの参加をも検討する.2.評議員の選任を地域単位だけでなく,各専門科からも選出する.3.日本産業衛生学会と緊密な連携をもつ.4.産業医の育成のみならず認定業務を行う施設に加わることを検討する.5.労災保険医療ひいては勤労者医療について積極的に関係機関に提言する. |
(日職災医誌,49:207─210,2001) |
─キーワード─
21世紀の日本職業,災害医学会,日本産業衛生学会との連携,産業医の育成と認定 | |
UP |
|
産業医科大学の立場から ─産業医科大学の現状と将来─
大久保利晃 産業医科大学産業医実務研修センター
(平成12年11月30日受付)
|
産業医科大学は,優れた産業保健専門家の養成と産業医学の振興を目的に,労働省が昭和53年に創設した医科大学である.開学以来の医学部卒業生は1,648名で,本年10月現在の就業先は,卒後教育・修練中のもの430名,産業医等330名,労災病院230名,本学教員155名で,修練修了者の59%が設立趣旨に沿う職種で活躍している. 他学と違う卒後進路へ誘導するため,産業医科大学には独特の卒後修練課程が設置されている.産業保健研修コース(Aコース)では,総括管理を中心に,マネジメントシステムの構築・維持や健康増進等を担当する産業医を,産業医研修コースI(Bコース)では,健康診断・個別指導など産業現場でプライマリ・ケアを中心とした活動をする産業医を,産業医研修コースII(Cコース)では,臨床各専門領域における産業医学を修得し,職業病をはじめ労働者の疾病予防,早期治療を担当する産業医を,それぞれ養成することを目的としている. 最近,大学として各コースの目標定員を,上記の順に,10~15,35~40,50と定め,計画的に特徴ある産業医の養成に取り組むこととした. このうち,労災病院で活躍中の医師はほとんどCコース修了者であり,今後も労働者の医療面で専門性を高め,産業医科大学設立の目的達成の一翼を担うことが期待されている. |
(日職災医誌,49:211─213,2001) |
─キーワード─ 産業医修練,産業医専門性,産業医科大学
|
UP |
|
「勤労者医療の推進について」
労働福祉事業団の立場から─日本職業・災害医学会に期待する─ | 浦添 猛 労働福祉事業団理事
(平成12年11月30日受付)
|
(日職災医誌,49:214─217,2001) |
─キーワード─ 勤労者医療,労働福祉事業団,日本職業・災害医学会 |
UP |
|
原 書 |
腰椎再手術症例の検討
染谷 幸男,小林 健一,岡本 弦,西垣 浩光 鹿島労災病院整形外科・勤労者脊椎腰痛センター
渡辺 淳也 結城病院整形外科
(平成12年4月4日受付)
|
目的:腰椎再手術症例において,それらの原因となった病態およびその対策について検討し,再手術予防の一助とすべく報告する. 対象:当院開院以来18年間に腰椎手術を施行した症例は488例であり,再手術例は全31例.このうち他院で初回手術を行った症例,他の椎間でのヘルニア発症例,および二期的手術を行った症例などを除いた14例の再手術症例について検討を行った. 結果:椎間板ヘルニア症例は,手術回数は2回が9例,3回が2例であり,全11例13手術であった.初回手術は全例Love氏法であり,再手術法および再々手術例はいずれも後方より手術を行なった.再手術の原因は,13手術中,ヘルニアの再発が9手術と多く,ほか,取り残し,瘢痕,癒着,脊柱管狭窄症を合併する症例に対して片側開窓とし術後馬尾障害が出現したものがそれぞれ1手術であった.脊柱管狭窄症症例は,手術回数は2回が2例,3回が1例であり,3例4再手術であった.それぞれの経過は,開窓術後,迷入脂肪摘出術としたもの.椎弓切除術および後側方固定術後,隣接する椎間に生じたヘルニアの摘出術としたもの.広範囲の椎弓切除術および硬膜移植術後,下関節突起骨折をきたし,前方固定術としたが,術後馬尾性麻痺を生じたためこれに対し,後方よりヘルニア摘出術を加えたものであった. 結論:椎間板ヘルニア症例では,初回手術として原則的にLove氏法を施行とし,概ね良好な成績を得られた.脊柱管狭窄症の合併例はヘルニア摘出術に加え,両側開窓による除圧が必要と考えられた.なお,ヘルニアの再発はprotrusion typeで髄核の摘出量が少ない症例に多く認める傾向にあった.脊柱管狭窄症例では,適切な除圧に加え,術後不安定性の出現を防ぐため,確実な固定が重要と考えられた. |
(日職災医誌,49:218─223,2001) |
─キーワード─ 腰椎再手術症例,腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症 |
UP |
|
慢性期脊髄損傷者の排便障害
吉村 理1),前島 洋1),小林 隆司1),峯松 亮1) 佐々木久登1),田中 幸子1),金村 尚彦1),白濱 勲二1) 大隈 秀信2),松尾 清美3),高柳 清美4)
広島大学医学部保健学科1),筑豊労災病院2),総合脊損センター3),札幌医科大学4) | (平成12年11月24日受付)
|
脊髄損傷者の排泄の問題,とくに神経因性膀胱にたいする研究の発展は目覚ましいものがある.しかし排便についての報告は必ずしも多くない.慢性期頸髄損傷者の排便後の体調不良の原因は,自律神経失調であることが知られているが,胸腰髄損傷者の排便のトラブルも少なくない.脊髄損傷者の排便の問題点の実態を調査し,慢性期頸髄損傷者の排便後の体調不良について検討する.頸髄損傷者は,排便後に倦怠感,めまい,脱力感を訴える者が多い.排便中は,交感神経の過度の緊張状態を示し,排便後の起立負荷試験では,血圧低下にたいする心拍数の増加が少ない.また指尖容積脈波の波高が低い.排便による交感神経の過緊張は,副交感神経優位にかたむいた自律神経失調を引き生ずると考えられる. |
(日職災医誌,49:224─227,2001) |
─キーワード─ 慢性期脊髄損傷,排便障害,自律神経 |
UP |
|
就労後に発症した腰痛の検討
萱岡 道泰,伊地知正光 東京労災病院整形外科
(平成12年11月27日受付)
|
目的:作業関連疾患としての腰痛の実態をより明確にするために,某企業関連施設での腰痛に関するアンケート調査の結果を再度詳細に検討した. 対象と方法:平成10年度に,関連企業の男性社員5,289名から質問紙法による有効アンケート結果を得て,このうちの就労後に腰痛を発症した2,785名を対象とした. 結果:初回の発症状況では,中腰やかがんだときと重量物挙上時で全体の約3分の2を占めていた.発生の頻度では,年1回以下と年2回から6回が各4割程度であった.症状の程度では,35.7%が病院に行く必要を感じていた.軽快するまでの期間では,難治性のものが約2割にみられた.自覚的な体型と腰痛の頻度・程度・軽快期間については,関連性は認められなかった.仕事との関係があると答えたのは57.2%で,腰痛対策をとったことがあるものは21.7%に過ぎなかった.腰痛と仕事が関係があると答えた1,593名について,作業環境と作業様式を検討した.事務職では仕事と関係づける割合が低かった.昼間のみ,快適な環境,腰かけ,重量物を取り扱わない,自覚的な肉体作業強度として楽あるいは普通であると答えた作業従事者では,腰痛を仕事と関連づける割合は明らかに少なかった. 結論:1.腰痛経験者のうち就労後の割合は75.9%で,そのうち57.2%は仕事に関連すると回答していた.2.自覚的な体型と腰痛の頻度・程度・軽快期間について関連性は認められなかった.3.事務職では作業関連疾患としての腰痛は起こりにくいと考えられた. |
(日職災医誌,49:228─231,2001) |
─キーワード─ 腰痛,作業関連疾患,疫学的検討 |
UP |
|
車両火災を伴う交通事故死剖検例の検討
一杉 正仁,高津 光洋 東京慈恵会医科大学法医学講座
(平成12年11月30日受付)
|
当講座で法医解剖された交通事故死例のうち,車両火災を伴う例についてその特徴を検討した.対象は普通乗用車による3事故,8剖検例で,概要は以下のとおりである. 症例1:時速60kmで道路脇の電柱に右側面から衝突した.直後に炎上し,車内から運転者が死体で発見された.死因は頭蓋内損傷で,事故直後に短時間で死亡していた. 症例2:停車中に後方から10tトラックに追突され,前方の2tトラックとの間に挟まれた.直後に炎上し車内から3名が死体で発見された.運転者および助手席乗員2名の死因は焼死であるが,火熱の影響がなくてもISSは21および34と重症多発外傷を有していた.後部座席乗員の死因は脳幹部損傷であり事故直後に短時間で死亡していた. 症例3:時速70kmで道路脇の崖に衝突し直後に炎上した.車内から4名が死体で発見されたが,死因はいずれも胸腹腔内臓器損傷であり,事故直後に短時間で死亡していた. 一般に自動車は,火災防止対策がとられているが,事故による車両破損が大きければ火災は発生し得る.そして,車両火災を伴うほどの交通事故例では,事故時の外力によって,乗員は重症損傷をうける. ひとたび,車両火災を伴う事故が発生すれば大型災害に発展する可能性があり,交通事故の予防は死亡者を軽減するとともに災害予防の観点からも重要な課題である. |
(日職災医誌,49:232─235,2001) |
─キーワード─ 交通事故,火災,剖検 |
UP |
|
労働災害による顎口腔領域外傷患者の咀嚼障害に 対する新しい評価法の提案
中島 博,松浦 正朗*>,岡田とし江,瀬戸 一**
労働福祉事業団関東労災病院歯科口腔外科(主任:岡田とし江部長), | *福岡歯科大学口腔インプラント科(主任:松浦正朗教授), **鶴見大学歯学部口腔外科学第一講座(主任:瀬戸一)
(平成12年12月13日受付)
|
現行法での咀嚼障害判定基準は,?咀嚼機能を廃したもの(第3級の2)?咀嚼機能に著しい障害を残すもの(第6級の2)?咀嚼機能に障害を残すもの(第10級の2)の3段階である.著者らの施設に労災の障害認定意見書作成を請求した133名について調査したところ,咀嚼障害が後遺したと判断した場合,すべて第10級の2に判定したが,障害の程度は一律でなかった.そこでより妥当性のある咀嚼障害判定法が必要であると考えた. そこで,著者らは,50食品について摂取可能状態を調査し,その結果から算出した咀嚼可能率と,(1)歯の所見,(2)顎顔面部損傷傷病数,(3)10秒間の最大タッピング回数,(4)デンタルプレスケールィによる咬合所見との関係について,多変量解析を行い,咀嚼可能率によった咀嚼障害の評価が可能であることを報告した. この結果をもとに,他覚的検査所見と50食品の問診調査から算出した咀嚼可能率を用いた労働災害により顎顔面外傷により後遺した咀嚼障害の新しい評価方法を案出した. 咀嚼障害の評価基準は,咀嚼障害第1度は,スープのみが摂食できるもの,咀嚼障害第2度はスープを含めた軟らかい4食品を摂食できるものとした.咀嚼障害3度以上は咀嚼可能率により,3度は,1,2を除外した50%未満,4度は,50%以上70%未満,5度は,70%以上90%未満,6度は,90%以上100%以下とした. |
(日職災医誌,49:236─241,2001) |
─キーワード─ 労働災害,咀嚼障害,顎顔面外傷 |
UP |
|
神奈川県における冬期の傷病休業統計
泊 利栄子1), 新津谷真人1), 佐藤 信一2),杉浦由美子1) 遠乗 陽子1),遠乗 秀樹1),田口 明子3),相澤 好治1)
1)北里大学医学部衛生学・公衆衛生学,2)神奈川労務安全衛生協会,3)北里大学医療衛生学部解剖学 | (平成12年12月21日受付)
|
神奈川労務安全衛生協会が過去に実施した傷病休業統計のうち,平成1~10年の2月の調査結果を再集計した.調査対象になった事業場数は毎年約1,340であり,製造業,建設業,運輸通信業で全体の80%近くを占めていた.傷病休業件数率と傷病休業日数率は,平成5年以降減少する傾向を示していた.ICD9の大分類を用いた疾病分類別の比較では,呼吸器疾患の傷病休業延件数および傷病休業延日数が最も多かった.呼吸器疾患を除いた疾病の中では,消化器疾患と筋骨格結合織疾患が上位を占めていた.多くの疾患が経年的には減少傾向,あるいは大きな変化を示さなかったのに対し,精神障害だけが増加傾向を示し,平均休業日数が一番長かった.今後の労働衛生管理の中では,呼吸器疾患の大部分を占める感冒対策の重要性を再認識する必要があると同時に,メンタルヘルスケアがますます重要になってくるものと思われる. |
(日職災医誌,49:242─245,2001) |
─キーワード─ 傷病休業統計,労働衛生,感冒性疾患 |
UP |
|
温水,セッケン洗浄による褥瘡の保存的治療
佐野 豊 たまなわクリニック・川崎幸病院形成外科
(平成13年1月4日受付)
|
従来から日常的に用いられている皮膚消毒剤(アルコール,過酸化水素水,5%,7.5%,10%ポビドンヨード液)が,極めて強い細胞毒であり,開放創面に有害であることを文献的に示した.そのかわりに通常のセッケンと暖めた水道水で患部を洗浄することが創を保護するうえで合理的かつ有効であることを示し,この方法で背部の褥瘡が保存的に治癒したと思われる症例を報告した. |
(日職災医誌,49:246─250,2001) |
─キーワード─ 消毒薬剤の不使用,セッケンと温めた水道水による洗浄 |
UP |
|
中永 士師明 秋田大学医学部救急医学
(平成13年1月15日受付)
|
秋田県内の風呂に関連する熱傷患者の現況を把握するために統計学的検討を行った.4年間に救急搬送された患者は24例(全搬送患者の7%),年齢層別では70歳代を中心とした高齢者が多かった(75%).平均熱傷面積は36.1±30.4%,平均熱傷指数は22.7±24.8,平均予後熱傷指数は84.8±27.8で,これらの値は風呂に関連しない熱傷例に比べて有意に高値を示した.季節別には冬季が41.7%を占めた.秋田県は寒冷地のため,高血圧症などの基礎疾患を有している高齢者では入浴前後の体温の変化が大きくなり,脳血管障害を発症しやすくなる.また,脳梗塞などの既往があると動作が緩慢になっているため,回避行動が遅れることがあり,熱傷増加の一因になっていると思われた. 風呂に関連する熱傷は小児や高齢者に多く見られるため,家族の細心の注意が予防に結びつくとともに,ヘリコプター搬送などの早期より専門的な治療が受けられる体制づくりの強化とスキンバンクの設立など受け入れ側でのさらなる医療レベルの向上が急務と考えられた. |
(日職災医誌,49:251─254,2001) |
─キーワード─ 熱傷統計,風呂,秋田県 |
UP |
|
自傷による頭頂部頭皮頭蓋骨欠損の治療経験
柴田 裕達*,肝付 康子** *横浜市立市民病院形成外科,**北里大学医学部形成外科
(平成13年1月31日受付)
|
自傷による頭頂部の頭皮および頭蓋骨欠損の症例を経験したので,報告する. 症例:62歳,うつ病の男性.自殺企図にて橋の上から川に飛び込むも未遂に終わり,その後数時間にわたり頭頂部を石で自ら殴打し続け受傷した.頭頂部に軟部組織と骨の欠損を伴う約5cm×8cm大の挫滅創を認めた.硬膜は露出しており土砂による汚染は高度であった.意識は清明で,頭部CT検査上明らかな脳実質の損傷は認めなかった. 手術と経過:受傷同日,全身麻酔下にて緊急手術を施行した.挫滅した軟部組織と骨のデブリードマンを行った.生じた欠損に対して,両側の皮膚―帽状腱膜による有茎の頭皮皮弁にて欠損部を被覆した.両側側頭部の皮弁移動部の欠損には,骨膜上に分層植皮を行った.骨の再建は行わなかった.術後は感染兆候もなく,皮弁と皮膚の生着は良好であった.術後約11カ月時,患者と家族の希望により硬性組織の再建を行った. 交通事故などの外傷や腫瘍切除などによる頭蓋欠損の症例は散見するが,自傷行為による症例はまれである.本症例は,創の挫滅汚染が非常に高度であったので,骨の再建は一期的には行わなかった.血流が良好で手術手技的にも容易で確実な帽上腱膜を含む頭皮皮弁による再建を選択し,良好な結果を得た. |
(日職災医誌,49:255─259,2001) |
─キーワード─ 自傷,頭蓋欠損,頭皮皮弁 |
UP |
|
Martin-Eckelt®ラグスクリューシステムによる 関節突起骨折の治療経験
中橋 一裕,松山 博道 松阪市民病院歯科口腔外科
(平成13年2月1日受付)
|
関節突起骨折の観血的処置には,種々の骨接合法が用いられ報告されている.1982年に,関節頭部の骨折片と,下顎枝に対して圧迫力を作用させることができ,また骨折治癒後の骨接合材の除去が容易なラグスクリューシステムがEckeltらにより報告され,このシステムに関する報告が本邦でも散見されるようになった. 今回われわれは,1995年9月から1999年12月までに松阪市民病院歯科口腔外科を受診した関節突起骨折症例5例に,Martin-Eckeltィラグスクリューシステムを用いて治療を行った. 対象症例の内訳は,年齢は21歳から68歳で,男性4名女性1名であった.骨折部位は下頸部2例,基底部3例で,骨折様式は,偏位骨折4例,転位骨折1例であった. 術後6カ月の開口量は全例とも40mm以上あったが,1例に顎関節雑音を認めた.その1例においても開口時に軽度の顎関節雑音を認めるのみで,日常生活に支障がない状態であった. 形態的には全ての症例において,十分な回復が認められた. 術後6カ月以降にスクリュー除去術を全例に施行したが,除去術後には顔面神経麻痺は全例に認められず,良好な治療成績が得られた.本システムはプレート固定と比較して骨片整復後の操作が煩雑であることや,下顎骨の解剖的形態つまり下顎枝の湾曲や骨の厚さなどの要因および骨折の状態により適応を考慮することが必要であるが,適応症例を選択すれば,本システムは,観血的処置に有用であると考えられた. |
(日職災医誌,49:260─264,2001) |
─キーワード─ 関節突起部骨折,ラグスクリュー,観血的整復固定術 |
UP |
|
外因性コレステロール摂取量の新しい評価方法
大屋 敏秀,岩本 慶子,小道 大輔 杉山真一郎,玉木 憲治,末永 敏彰 丸橋 暉,向田 富子*,山中 千恵**
労働福祉事業団中国労災病院内科,*栄養管理室,**脳神経外科 | (平成13年2月2日受付)
|
動脈硬化進展の危険因子の要因である高脂血症に対する治療の第一段階は,食事から摂取している外因性のコレステロールの制限であるが,現行の食事指導は,実際の摂取コレステロールの具体的な量を把握することなく行われており,満足な指導とはいえない.今回,コレステロール摂取量を評価するため,インスタントカメラとコンピューターソフトを用いて摂取コレステロールの絶対量を測定する方法を確立した.また同時に,この方法を用いて,実際に高脂血症患者19例の外因性コレステロールの摂取量を測定し,血清脂質の変動と対比検討した.その結果,調査期間中の平均コレステロール摂取量は,213mg/dayで,調査期間前後での血清総コレステロールの変化は,243から226mg/dlへと7%低下し,同様にLDL-cも10.2%の低下を示したが,中性脂肪,HDL-cにおいては,変動は認められなかった.実際の外因性コレステロール摂取量を指導する側とされる側が把握し合えるアドバンテージは,食事療法の限界の見極め,薬物療法の動機付け,外因性コレステロールの低下しない群に対するイオン交換樹脂の投与など高脂血症治療戦略を立てる上で,極めて重要な情報を提供することが可能となり,今後多いに利用されるべき方法と考えられる. |
(日職災医誌,49:265─269,2001) |
─キーワード─ 高脂血症,外因性コレステロール,インスタントカメラ |
UP |
|
前田 均, 姜 臣鎬*,木下 幸栄* 堂本 康治*,稲本 真也*,大西 一男* 神戸労災病院呼吸器内科,内科*
(平成13年3月12日受付)
|
各種呼吸器疾患でChlamydia pneumoniae肺炎による疾病の増悪あるいは病態への関与が注目されている.じん肺患者では既存の胸部レントゲン異常所見を有するため,非定型肺炎であるC. pneumoniae肺炎の診断が困難なことがある.今回C. pneumoniae抗体をELISA法によって測定し,抗体保有率を検討した.1999年じん肺定期健診の71名に,ヒタザイムィを用い,C. pneumoniae IgG抗体(C. Pn. IgG-Ab)およびC. pneumoniae IgA抗体(C. Pn. IgA-Ab)を測定した.C. Pn. IgG-Ab陽性者は70.4%,C. Pn. IgA-Ab陽性者は77.5%であった.一度は感染したと考えられるC. Pn. IgG-AbあるいはC. Pn. IgA-Ab陽性者は85.9%を占めていた.一方,慢性・持続感染の指標となるC. Pn. IgA-Ab陽性およびC. Pn. IgG-Ab強陽性者(I. D.≧3)は78.9%を占めた.以上,じん肺患者ではC. pneumoniae感染の頻度が高く,しかも慢性・持続感染の頻度が高かった. |
(日職災医誌,49:270─273,2001) |
─キーワード─ じん肺,クラミジア肺炎,慢性・持続感染,定期検診 |
UP |
|
ヒトの心の状態把握に関する定量法 ─ストレス度と尿中亜鉛の相関と生活活動─
井上 修,遊佐 敏春,管野 悦子,柿崎 正栄 東北労災病院・健康診断センター
(平成13年2月7日受付)
|
一日毎のヒトの心のリラックスおよび緊張状態を定量的に把握できる方法を検討した.ヒトが24時間中に排泄するスポット尿の一部を全て採取し,個々のサンプルで亜鉛,銅,マグネシウム,ノルエピネフィリンおよびエピネフィリン濃度を測定する.一方,当センターで確立した客観的ストレス度を求める重回帰式で,個人のストレス度を計算する.その後,尿中亜鉛濃度と客観的ストレス度から得られる相関係数を計算した.得られた相関係数を順位付けした後,データの3分割および度数分布解析を用い,相関係数に対応する生活活動と,その背景にある心のリラックス状態と緊張状態の調査結果より,相関係数と心の状態の関係を検討した.その結果,相関係数それ自体が,ヒトの生活活動と連動する心のリラックス状態と緊張状態を表す指標となることが明らかとなった.逆の意味で,本研究で確立した相関係数分析法は,その数値の大きさで,一日毎のヒトの心のリラックス,緊張状態を定量的に把握できる手法として有用と考える. |
(日職災医誌,49:274─279,2001) |
─キーワード─ 心の状態,ストレス度,尿中亜鉛 |
UP |
|
中高年層海外勤務者の上部消化管悪性疾患について
飯塚 孝,打越 暁,安部 慎治 氏田 由可,奥沢 英一,津久井 要 濱田 篤郎,西川 哲男,馬杉 則彦 海外勤務健康管理センター
大島 郁也,尾崎 正彦 横浜労災病院外科
(平成13年4月18日受付)
|
当センターは,海外勤務者のための専門機関として,平成4年設立された.長年つちかった経験を生かし,途上国への技術援助に出かける中高年層海外勤務者の占める比率は,年々増加してきている.当然,中高年層では若年者に比し,悪性疾患の発症頻度は高く,安全な海外勤務が可能となるためにも,悪性疾患の早期発見,治療は極めて重要である.今回,我々は,平成11年度,当センターを受診した海外勤務者1,809例(50歳以上の中高年層92例)中,3例の上部消化管悪性腫瘍を合併した中高年層海外勤務者を経験したので報告する. 症例1)64歳,男性:一時帰国健診.平成9年11月13日,赴任前健診で異常なく,平成10年3月よりインドネシア赴任勤務.症状なかったが,平成11年4月19日当センターにて一時帰国健診受診.胃X線にて胃体部上部に隆起性病変認め,上部内視鏡検査にて胃癌と診断,同6月3日外科入院,手術施行した. 症例2)55歳,男性:一時帰国健診.平成10年より天津赴任勤務.平成11年4月より37度台の微熱出現,同5月6日当センターにて一時帰国健診受診.胃内視鏡検査にて,食道下部に隆起性食道癌指摘,同6月25日外科入院,手術施行した. 症例3)62歳,男性:赴任前健診.症状なかったが,平成11年7月2日当センターにて赴任前健診受診.胃X線にて食道下部に隆起性病変認め,上部内視鏡検査にて食道癌と診断,同年8月8日外科入院,手術施行した.3症例とも,術後の経過は良好である. |
(日職災医誌,49:280─283,2001) |
─キーワード─
海外勤務者健康診断,中高年層海外勤務者,上部消化管悪性腫瘍 | |
UP |
|
高齢者の上腕骨下端骨折の治療経験
小田 聖人,田中 裕三,橋本 敏行 難波 良文,花川 志郎 岡山労災病院整形外科
(平成13年2月8日受付)
|
1990年1月より2000年3月まで当科で治療を行った高齢者の上腕骨下端骨折は8例8肘である.男性2例,女性6例で,年齢は66歳から95歳,平均78.6歳であった.AO分類による骨折型はA2型4肘,C1型3肘,C2型1肘であった.調査期間は5カ月から3年5カ月,平均1年1カ月であった.評価はJupiterの成績評価基準を使用した.手術法はA2型はsingle plate固定,Kirschner鋼線固定を,C1型はsingle plate,Kirschner鋼線固定,C2型はdual plate固定を行った.治療成績はGood 4例,Fair 2例,Poor 2例であった.経皮的Kirschner鋼線固定は固定期間を少し長くすることで骨癒合を得ることができ,低侵襲で有用であった. |
(日職災医誌,49:284─287,2001) |
─キーワード─ 上腕骨下端,骨折,高齢者 |
UP |
|
埋蔵文化財発掘作業者の作業姿勢および冬期の腰痛と それに関連する自覚症状
井奈波良一,井上 眞人,大野 義幸 岐阜大学医学部衛生学教室
森岡 郁晴,宮下 和久 和歌山県立医科大学衛生学教室
岩田 弘敏 岐阜産業保健推進センター
(平成13年2月9日受付)
|
埋蔵文化財発掘作業方法の改善を目的として,遺跡発掘作業者61名(男性31名,女性30名)を対象に発掘作業中の作業姿勢を調査した.また,大規模発掘現場の作業員150名(男性93名,女性57名)を対象に,冬期の全体的な腰痛をはじめとした自覚症状の有無,遺跡発掘作業を快適に行うための服装の工夫等について,自記式無記名のアンケート調査を行った.この調査の回答者の年齢は,男性が61.9±13.0歳,女性が50.3±12.2歳であった. 調査した4時点を平均して作業者の作業姿勢で最も割合が多かったのは「膝を地面につかずしゃがんだ姿勢」の27.4±6.0%であった.以下,「立ち姿勢」,「膝を伸ばした中腰で上体を前屈」,「膝を曲げた中腰で上体を前屈」,「膝を伸ばした中腰で上体を深く前屈」の順であり,筋負担が比較的大きい不自然な作業姿勢が多いことがわかった. 93名の男性作業者のうち冬期に腰痛が有ると回答した者が47名(50.5%),57名の女性作業者のうち冬期に腰痛が有ると回答した者が33名(57.9%)であり,有意な男女差はなかった.冬期の発掘作業を快適に行うために「何らかの服装の工夫をしている」と回答した者の割合は,腰痛の有る者と無い者の間で男女とも有意差はなかった.しかし,男性では「マフラー類の使用」者および「作業中・休憩中に身体の汗をふく」者の割合は,腰痛の有る者が無い者より有意に高率であった(P<0.05).女性では「防寒ズボン着用」者の割合は,腰痛の有る者が無い者より有意に高率であった(P<0.05).調査した44項目の自覚症状のうち男女とも共通して腰痛の有る者の「肩の痛み」,「首のこり,だるさ」,「腰のだるさ」,「腰の冷え」,「頭痛」の5項目の有症率は無い者より有意に高率であった. |
(日職災医誌,49:288─293,2001) |
─キーワード─ 埋蔵文化財発掘作業,作業姿勢,腰痛 |
UP |
|
森川 哲行1),武内浩一郎1),打越 暁1)2) 横浜労災病院呼吸器科1),海外勤務健康管理センター2)
(平成13年2月13日受付)
|
目的:就労者気管支喘息患者にとり新しい吸入ステロイド剤であるFluticasone propionate(商品名:フルタイドィ,以下FPとする)が有用であるかどうかをretrospectiveに検討した. 対象と方法:当科に1996年から1998年に喘息重積発作で入院した171例中,現在も当科に定期的に通院中で吸入ステロイド剤をBeclomethasone dipropionate(商品名:アルデシンィまたはベコタイドィ,以下BDPとする)からFPに変更した就労者気管支喘息患者33例を対象とした.吸入ステロイド剤変更前後での喘息発作のため入院した回数(以下発作入院回数とする),喘息発作のため外来あるいは救急外来で点滴した回数(以下発作点滴回数とする),呼吸機能等を検討した.またアンケートを郵送し,患者さんの自覚所見,使用の印象などについて回答をお願いした. 結果:発作入院回数はBDP吸入期間中は平均2.9回に対し,FP吸入期間中は平均0.7回であった.それぞれの吸入期間(年)でわった1年間あたりの発作入院回数(発作入院率)は0.61から0.41に減少していた.同様に1カ月あたりの発作点滴回数(発作点滴率)も減少しており,両者ともに減少した症例は33例中20例(61%)であった.また,アンケートは33例中23例(70%)より回答が得られ,過半数の患者がFPに変更してから発作は少なくなったと実感しており,88%が今後もFPの方がよいと回答した. 結論:吸入ステロイド剤をBDPからFPに変更した結果,過半数に他覚所見,自覚症状の改善が得られ,症例数の少ないretrospectiveな検討ではあるが就労者気管支喘息患者にとりFPは有用であると考えられた. |
(日職災医誌,49:294─298,2001) |
─キーワード─ 気管支喘息,吸入ステロイド,フルタイド |
UP |
|
症 例 |
海外赴任中に発症し緊急帰国後肺癌と診断された海外赴任者の1例 | 打越 暁,飯塚 孝,濱田 篤郎,馬杉 則彦 海外勤務健康管理センター
森川 哲行,武内浩一郎,三上理一郎 横浜労災病院呼吸器科
河村 俊治,角田 幸雄 同 病理部
(平成12年12月28日受付)
|
症例は58歳男性,国際協力団体職員,平成6年からスリランカへ年数回赴任しており,当センターでの一時帰国時健診にて間質性肺炎を指摘され横浜労災病院呼吸器科にて外来経過観察となっていた.平成11年5月スリランカにて発熱,胸痛出現,現地病院へ入院.諸検査の結果心筋梗塞,胸部異常陰影を認め,気管支鏡検査施行するも診断つかず,家族より当センターにFAX相談があり,6月緊急帰国にて横浜労災病院呼吸器科に入院となった.入院後気管支鏡下生検等の諸検査にて肺腺癌(Stage IIIB)の診断を受け,以後化学療法施行したが同年9月呼吸不全のため死亡した. 近年,海外勤務者の数は増加しており,特に社会情勢の変化に伴い中高年層の海外赴任も増えてきている.その結果,基礎疾患を有しながら海外に赴任する場合や海外にて重篤な疾患に罹患する場合も多くなってきた.日本と医療事情の異なる海外でこのような疾患に罹患した場合,当地での迅速な対応が望まれる. |
(日職災医誌,49:299─302,2001) |
─キーワード─ 海外赴任者健診,肺癌,CT検診 |
UP |
|