日本職業・災害医学会会誌 第49巻 第2号
Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology
Vol.49 No.2 March 2001
招待講演 |
PESTICIDES AND POLYCHLORINATED BIPHENYLS (PCBs) :
AN ANALYSIS OF THE EVIDENCE THAT THEY IMPAIR CHILDREN'S NEUROBEHAVIORAL DEVELOPMENT |
Philip J. LANDRIGAN, MD, MSc, FAAP
Phofessor of Pediatrics Director, Center for Childrenユs Health and the Environment Chair,
Department of Community and Preventive Medicine Mount Sinai School of Medicine New York,
NY 10029
(Received: November 30, 2000)
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─Key words─
Pesticide, Polychlorinated biphenyls (PCBs), Neurodevelopment |
UP |
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基調講演 |
産業保健活動の新しい展開
小泉 明
日本医師会副会長
(平成12年11月30日受付)
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産業保健活動の新しい展開を論じるにあたって,先ず産業保健活動のこれまでの推移をふり返った.その結果,それが問題解決の連続であること,しかもその問題が多彩であって,次々と新しい課題に直面してその解決にあたってきたことがわかった.
産業保健を支えてきたものとして,労働基準法ならびに労働安全衛生法を中軸とした,法規による安全衛生基準の設定と,行政によるその実施管理を指摘した.
産業保健関連分野にはいくつかの名称が用いられているが,それぞれの存在理由と相互の関連ならびに特色を論じた.
さらに新しい展開として,労働安全衛生マネジメントシステムをとり上げ,事業者にも,また労働者にとっても,産業保健活動が“自主性”の時代に入ったとの見解を述べた. |
(日職災医誌,49:98─102,2001) |
─キーワード─
規正,自主的活動,マネジメント・システム |
UP |
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特別講演 |
自殺の労災認定をめぐって
原田 憲一
元 東京大学精神科教授
(平成12年11月30日受付)
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労働災害補償の対象としての労働省の自殺について考察した.これまでわが国では労働者が業務上のストレスによって器質性精神病に陥り,あるいは心因性精神障害に陥ってその結果の病的心理のもとで自殺した場合には労災認定された.
今回労災認定対象がICD-10のF「精神および行動の障害」に拡げられた.労働者の精神障害が業務上の著しく強度の心理的ストレスによると判断された場合,その精神障害は労災補償の対象になる.そしてその精神障害の結果自殺が行われた場合,その死亡は業務上とされることになった.その際,心神喪失状態という概念から離れて,「正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺を思い止まる精神的抑制力が著しく阻害された状態」が認められれば,それでよいとした.
精神障害によらない,すなわち宗教的,政治的,哲学的信念にもとづく冷静な覚悟の自殺でも,業務上を検討してよい場合もあろうが,精神障害に関わる労災を問題にした今回の検討会では,あえてとりあげなかった.
さらにnondisordered mental problemを原因とする自殺,たとえば正常の心理的苦悩としての病苦による自殺をどこまで精神障害と診断すべきか,議論し考察した.
社会保障の基本的な考え方が問い直されねばならない.原因の如何を問わず,生じた生活上の困難,所得の減少に対して,同じような援助を社会が保障するとする理念を基本とすべきであろう. |
日職災医誌,49:103─106,2001) |
─キーワード─
労災補償,自殺,精神障害 |
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教育講演 |
労災病院の医療機能評価について
戸部 隆吉
浜松労災病院
(平成12年11月30日受付)
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医療の質を改善し,向上させることは,労災病院群だけではなく,どのような時代,どのような国,どのような形態──国立,公立,私立を問わず──の病院にとっても,永遠の課題である.
医療の質とは,具体的には,何を指すのか,どのようにして,どのような基準で医療の質を評価するのか.
自己評価がよいのか,第三者評価がよいのか,評価の目標はどこにおくべきか等について検討を重ね,明快な方向性を指示している日本医療機能評価機構の評価基準評価項目を紹介し,その問題点も指摘し,評価,主要項目に対する労災病院のアンケート調査結果も紹介した.
日本医療機能評価機構の現行の評価項目は必ずしも医療の質,水準の結果(out come)を直接評価するものではなく,医療を生み出す構造,組織を間接的に評価する項目が多いが,評価の目的が改善(KAIZEN)であり,機構の評価を受けることにより,医療の質が改善されることは事実である.
労災病院群は,全て,優秀な病院であり,十分に評価に耐える病院であるので,諸条件を整備し,改善を目標に受審する事をすすめたい. |
(日職災医誌,49:107─109,2001) |
─キーワード─
医療機能評価,労災病院群,日本医療機能評価機構 |
UP |
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地域産業保健センター,産業保健推進センターと
労災病院専門センターとの連携
北條 稔
東京都大森医師会理事
(平成12年11月30日受付)
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地域産業保健センターは産業医選任義務の課せられない労働者50人未満の小規模事業場に於ける産業保健サービスの充実を目的として設立されました.小規模事業場は大企業に比して労働者の高齢化,労働災害の多発傾向,定期健康診断や特殊健康診断の実施率,受診率が低い上に有所見率の高率なこと等,概して労働衛生水準が低いことは周知されているところであります.事業場規模により産業保健サービスの享受に差が無いように配慮されなければいけないという趣旨で活動をすすめてまいりました.全労働者の6割以上が所属している小規模事業場は経済基盤の脆弱性,安全衛生スタッフの不足等の問題があり労働衛生活動を推進していく上での支障となっています.労働災害を一層減少させ労働者の健康を維持して,わが国の産業を健全にしていくには小規模事業場の安全衛生水準の向上こそが最重要課題だと考えます.東京産業保健推進センター,東京労災病院専門センターの支援を受けて大田地域産業保健センターが実施した事業内容を報告し今後の活動に対する御指導をお願い申し上げます. |
(日職災医誌,49:110─113,2001) |
─キーワード─
小規模事業場,産業中毒センター,産業医(実地)研修,メンタルヘルス(小規模事業場) |
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シンポジウム3 |
大規模災害時の自衛隊の医療活動について
後藤 達彦
防衛庁陸上幕僚監部衛生部保健班長
(平成12年11月30日受付)
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近年の大規模災害において,自衛隊の医療活動の役割は増加している.災害時においては,地方自治体が災害対処の主体であり,自衛隊はその要請を受けて地方自治体等を支援する立場である.災害派遣は,地方自治体等の要請があって,公共性,緊急性,非代替性の3条件がある時実施できる.自衛隊の特徴は,自ら独立して行動できる自己完結性を有していることである.阪神大地震以降,自衛隊に人命救助セット等の器材が充実し,逐次災害派遣の態勢が整備されている.しかし,自衛隊の本来任務は国の防衛であり,この厳しい訓練が災害派遣時に活躍する能力の基礎となる.本来任務とのバランスをとりつつ,地方自治体や,医師会,ボランティア等との連携・協力を強化して災害時に活躍できる態勢を整備してゆくことが重要である. |
(日職災医誌,49:115─117,2001) |
─Key words─
災害派遣,災害医療,陸上自衛隊
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大規模災害医療の取り組みと問題点
─阪神・淡路大震災の医療活動を振り返って─
栗原 章
神戸労災病院
(平成12年11月30日受付)
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当院は激震帯から50m北方の震度6地域であったため建物の被害は軽微であったが,屋上タンクと送水管が破損した.自家発電は稼働したが,200Vの検査機器は機能しなかった.震災当日,DOA 1名,Crush syndrome 3名を含む170名の患者が受診し,35名が入院した.この体験と医師会等の報告書を基に都市型大規模震災の医療上の問題点と対応策について述べる.
問題点として,?ライフラインの途絶による検査機器の機能停止による診療障害,エレベーター停止による水,物資,患者の運搬障害,透析不能など,?通信手段の機能停止のために必要物品要求,患者搬送の要請ができず,情報交換が不能,?交通網の寸断と渋滞で必要物資の補給停止,人員不足,患者搬送の支障,?医療従事者とその家族の被災による出務不能,?医療機関の被災で医療活動の制限と設備,薬品等の整理の必要性,?警察,消防,行政の被災と過剰な業務量のための機能不全があげられる.
対応策として?被災地域内の医療機関では,1)院内被害状況の把握と対処,2)余震への対応,3)指揮者の選定,4)診療体制の立ち上げ(トリアージの実施,特殊治療体系の徹底),5)情報収集,残存機能の把握,6)医師,医療従事者は勤務先,近隣機関へ赴く,?被災外医療機関では,1)医療チームの結成と派遣(初動は早期に,自己解決型援助で.当初は整形外科医,外科医を,その後は内科医,精神科医を),2)転送患者の受入れ体制作りと交替医療チーム派遣,?施設,設備等の対応策として,1)テレビ,ラジオの活用,2)耐震性の建造物,水槽は地上・地下に,空調は電気にする.3)医療機器・設備は床・壁に固定し,浸水・防水対策を,4)医療材料,薬品,非常食の備蓄,?医師・医療従事者の災害医療の訓練・研修,?医師には災害時の診断法・対処策の習得と災害医療統率者の育成,?被災地外の病院への搬送・受入れシステムの確立を提案した.
未曾有の大規模な都市型地震災害であった阪神・淡路大震災も,満5年を経過した.当時指摘された問題点,提言は,十分には解決,あるいは,生かされずに過去のものと形骸化してきている.一方,この間,火山噴火や想定されていなかった震度6強の鳥取県西部地震による被害が発生し,我々に注意,対処策の再検討を喚起しているようである.したがって,当時,指摘,提言された大規模都市型地震災害の医療上の問題点を再度,顧みることは有意義であると思われる.
本シンポジウムでは,まず,阪神・淡路大震災の被害状況,震災直後の医療活動の状態を報告し,次いで,大規模震災での医療上の問題点を提示した.最後に,阪神・淡路大震災の報告書と演者の体験から大規模震災時の対応策について述べた. |
(日職災医誌,49:118─124,2001) |
─キーワード─
阪神・淡路大震災,医療活動,問題点
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戦傷外科の経験
─スーダン内戦救援活動に参加して─
山崎 隆志
武蔵野赤十字病院整形外科
(平成12年11月30日受付)
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赤十字国際委員会はスーダン内戦被災者救援のため,1987年国境から20kmのケニア領内に戦傷外科病院を設立した.私は日本赤十字社から派遣され,そこで3カ月間戦傷医療を経験した.本論文では戦時と日常における医療の違いから大規模災害時の医療における取り組みと問題点を考察する.
病棟の多くはテントで被災者数により病床数を変える事が可能で,私の滞在時は約500床であった.3名の外科医のうち1名は管理者で,外科医2名で受け持ちとなるので一人250人を担当し,患者にとっての病棟回診は週に1回であった.手術は1日20件程度あり,多くはケタミン麻酔で行うデブリドマンや切断で数十分で終えることができた.症例は銃創が多く,爆弾,地雷によるものもあった.戦地からの搬送に数日かかるため,胸部や腹部の重傷者は時間によりトリアージされており,9割が四肢外傷患者であった.治療は赤十字国際委員会によりマニュアル化された方法で行った.脳に及ぶ頭部外傷は表層の処置のみ行い経過観察,胸部外傷は胸腔ドレーンの刺入,腹部外像(腸管損傷が大部分)は人工肛門が基本方針であった.四肢外傷治療の要点は徹底的なデブリドマンで,軟部組織と連続しない骨や,感染原因となる腱性組織も全部切除した.その後創は開放とし,4~5日後に閉創とした(delayed primary closure).十分なデブリドマンの場合は4~5日後に閉創可能で,不十分な場合は再デブリドマンを行った.骨折に対して,感染防止のため内固定は禁忌で牽引,ギプスで固定された.偽関節,変形治癒もあったが,装具を装着し杖歩行で退院した.
戦傷以外にマラリア,ヘビなどの動物咬傷などの患者も受け入れており災害時にも一般医療は重要であった.
以上の経験より,戦傷外科においては,経済,人的資源,医療結果の効率を重視した標準化された医療が必要と思われた. |
(日職災医誌,49:125─129,2001) |
─キーワード─
戦傷外科,スーダン内戦救援活動,赤十字国際委員会 |
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国際災害救援医療への取り組みと問題点
─台湾地震災害における国際緊急援助隊の医療活動を通して─ |
小井土雄一1),近藤 久禎1),多田 章美2),宮崎 朋子3)
嶋田 英子4),毛塚 良江5),山岸 勉6),中田 敬司7)
三浦喜美男8),伏見 勝利8),藤谷 浩至8),山本 保博1)
日本医科大学救急医学教室1),豊中渡辺病院2),JMTDR登録看護婦3),北里大学病院4),済生会宇都宮病院5),JMTDR登録調整員6),広島文教女子大学生活科学科7),国際協力事業団8) |
(平成12年11月30日受付)
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1999年9月21日に台湾に発災した地震災害に対して,国際緊急援助隊医療チームが派遣され医療活動を行ったので報告する.医療チームは9月23日発災後48時間で被災地入りした.23日未明に南投県救災指揮センターに出向き,災害状況の把握とJDRの活動の打ち合わせを行った.診療活動は初日より開始できたが,救済指揮センターの情報の混乱,及び現場での交渉に時間を要し,最終的な活動場所が決まるまで,3日間を要し3カ所の活動場所を移動した.急性期に活動を開始したため,救急医療を要する症例を想定していたが,症例は軽症が大部分を占め,緊急搬送を要する症例は認められなかった.実質11日間の診療活動で計1,041名(内新患746名)の患者を診察した.前半は創処置等の外科治療が中心であり,後半は呼吸器感染症,慢性疾患,精神疾患等の内科治療が中心となった.発災直後,指揮センターも混乱する状況下,内外の政府組織(GO),非政府組織(NGO)の多くの医療チームが集結する中で,活動場所選定は重要で且つストレスのかかった仕事であった.今回はニーズが高い活動場所を確保できたことが,効果的な医療活動を展開できた最も大きな理由であった. |
(日職災医誌,49:130─135,2001) |
─キーワード─
国際緊急援助隊,台湾地震災害,国際災害救援医療 |
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原 書 |
慢性リンパ性白血病の経過中に尿崩症を合併して発症した染色体異常 |
monosomy7を呈した治療関連骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病:症例報告と二次発がんに対する文献的考察 |
宮城島拓人,工藤 峰生,Gong Heum Choi,岡部 實裕
労働福祉事業団釧路労災病院内科
(平成12年10月5日受付)
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化学療法や放射線療法の進歩に伴い,担がん患者の生存の延長がもたらされてきている反面,一次がんに次いで新たに生じた二次がんの増加が指摘されている.今回,我々は8年間にわたりアルキル化剤cyclophosphamideにて治療されていた慢性リンパ性白血病(CLL)症例において,尿崩症の発症を契機として診断された7番染色体欠失monosomy7を伴う治療関連骨髄異形成症候群(MDS)/急性骨髄性白血病(AML)を経験した.症例は,72歳,男性であり,平成2年6月,CLLの診断にて,8年間にわたりcyclophosphamideの経口投与を受けていた.その総量は約100g以上に及んだ.平成10年6月,突然の多飲多尿と腹痛をきたし来院し,当科に緊急入院となった.一日尿量は6,000ml以上に及ぶ低張尿(尿比重1.006,尿浸透圧189mOsm /kgH2O)であり,血清浸透圧は315mOsm/kgH2O,血清Na値も155mEq/lと上昇していた.MRIでは,腫瘍性病変や梗塞,出血の所見は明らかではなく,T1強調画像にて下垂体後葉の高信号の消失がみられた.末梢血所見では,単球増多と,骨髄球系芽球が4%認められた.骨髄穿刺所見は,著明な異形成性がみられ,芽球が10.5%認められた.芽球は骨髄単球性の性格を示し,加えて,成熟単球増加,血清リゾチーム上昇の所見より,MDS,慢性骨髄単球性白血病,それも急性骨髄単球性白血病への移行に極めて近い病態であり,白血病細胞浸潤による中枢性尿崩症を併発したものと考えられた.染色体分析では,アルキル化剤により誘発される治療関連MDS/AMLにみられることが多い7番染色体欠失monosomy7を示した.デスモプレシン点鼻による尿量の調節を図っていたが,芽球の増加と汎血球減少が進行した.キロサイドとVP-16による化学療法を試みたが,治療抵抗性であり,入院後約3カ月で死亡した.
CLLは二次がんが高頻度に生じることが報告されているが,本例のような二次性AMLの発症は極めて稀であり,文献的考察を加えて報告する. |
(日職災医誌,49:136─141,2001) |
─キーワード─
慢性リンパ性白血病,アルキル化剤,治療関連二次性骨髄異形成症候群(MDS)/急性骨髄性白血病(AML) |
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中橋 一裕,松山 博道
松阪市民病院歯科口腔外科
(平成12年10月10日受付)
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口腔外科顎顔面外科領域において骨接合ミニプレート・スクリューシステムが1980年代に広く用いられるようになり,その後,生体材料の進歩に伴い,チタンなどの生体親和性に富んだ材料が使用されるようになってきた.しかし,金属元素の溶出や,機械的刺激の持続などの問題があり,多くの施設においては可及的早期にプレート除去術が行われている.また,口腔外に切開を行って整復固定術を施行した除去術の場合には,瘢痕が目立ってしまうこともすくなからず認められる. 近年,これらの問題を解決するため,生体内吸収性材料を用いた研究が進んできた.我々はポリ-L-乳酸製の骨接合ミニプレート・スクリューシステムを用いて,顎顔面骨折の整復固定術を試みて,良好な結果を得たので報告する.
対象症例は,当院歯科口腔外科において,平成10年11月から平成11年11月に本システムを用いた頬骨上顎骨骨折患者13例で,年齢は16~68歳の男性9例,女性4例であった.手術前には必ず患者および家族に本システムについて十分説明し,承諾を得たうえで使用した.
臨床成績は,手術中の所見,術後の局所所見,X線所見および,合併症により評価した.
結果として,13例全てにおいて,術中の固定性,局所の炎症反応,骨片の偏位および副作用については,特に異常を認めなかった.
以上より,PLLA製ミニプレート・スクリューシステムは,顎顔面骨折の固定に対して有用であると考えられる. |
(日職災医誌,49:142─145,2001) |
─キーワード─
顎顔面骨折,生体内吸収性,骨接合 |
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浄化槽法定検査業務従事者の腰痛発生状況調査
井奈波良一1),大野 義幸1),岩田 弘敏1)2)
岐阜大学医学部衛生学教室1),岐阜産業保健推進センター2) |
(平成12年10月10日受付)
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浄化槽法定検査従事者の間で腰痛が多発し,問題化している.そこで,その実態を明らかする目的で,浄化槽法定検査業務従事者の腰痛発生状況調査を行った.
対象と方法:20人用以下の家庭用浄化槽の水質検査を行っている浄化槽法定検査業務センターの職員のうち実際に検査業務に従事している男性56名〔平均年齢33.2±5.6歳(23~51歳)〕全員を対象に,腰痛の発生状況に関する自記式のアンケートを実施した.
結果:対象者56名のうち腰痛経験者は,67.9%であった.40歳以上の者では全員が腰痛を経験していた.過去1年間の腰痛経験者は60.7%であり,8日以上腰痛があった者は30.4%であった.また,最近1カ月間に腰痛があった者は,42.9%であった.調査時点で腰痛のあった者は35.7%であり,腰痛治療中の者は7.1%であった.腰痛経験者のうち,初めて腰痛になった場所が「浄化槽法定検査業務中」である者が42.1%おり,浄化槽法定検査業務中に腰痛が発生したことがある者が76.3%いた.また,「現在の浄化槽法定検査業務に就いてから腰痛が激しくなった」と回答した者が39.5%いた.浄化槽法定検査業務中の腰痛発生時の状況として最も多かったのは「浄化槽の蓋をはずした時」であり,以下,「物を持ち上げた時」,「中腰で仕事をしていた時」,「自動車運転作業中」,「かがんで仕事をしていた時」,「寒冷な場所にいた時」の順であった.対象者のうち,腰痛予防のために何かしている者の割合は23.2%にすぎず,作業前体操をしている者の割合は10.7%であった.また,腰痛防止用のベルトをしている者はわずか3.6%であった.
結論:浄化槽法定検査業務従事者ではかなり高率に腰痛が発生しているにもかかわらず,職場の腰痛予防の取り組みがあまり進んでいないことが明らかになった. |
(日職災医誌,49:146─150,2001) |
─キーワード─
腰痛,疫学,予防 |
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鶴川 俊洋
熊本託麻台病院リハビリテーション科
(平成12年10月11日受付)
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近年病院の機能分担がすすめられ,熊本市では病病診連携に基づき,脳卒中患者を発症から約2~3週間という短期間で,当院のようなリハ専門病院が急性期病院から受け入れている.脳梗塞は主な臨床病型として,ラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症の3つに分類され,急性期病院では主にこの病型別分類により治療方針の決定・治療成績の検討が行われている.今回,リハ専門病院の立場から,初回脳梗塞患者について病型別分類に基づいてリハ状況・成績を調査・検討した.対象は平成7年1月から11年4月までに,連携急性期病院から転院となり入院リハを行った脳梗塞初回発作患者全70例とした.男性42例,女性28例,平均年齢71.1歳,右片麻痺47例・左片麻痺23例,発症より当院入院までの平均期間35.2日,当院平均入院期間77.9日であった.対象を前述の3病型群に分類し,病巣・基礎疾患・発症時及び入退院時の下肢Brunnstrom stage・装具処方の有無・最終移動能力・Barthel Index・転帰を調査項目とした.ラクナ群24例(34.3%)は麻痺が軽度な症例が多く,独歩を獲得し,自宅復帰につながる症例が多かった.アテローム群17例(24.3%)は全体的に重度障害例が多く,最終移動能力も低かった.心原性群29例(41.4%)は軽度麻痺群と重度麻痺群の2群に分かれ,後者は回復が難しく,自宅復帰は困難であった.リハ医は脳梗塞患者のリハプログラムやその成績評価において,従来の運動機能障害レベル・日常生活能力障害レベル別だけでなく,今後は病型別評価も加え,責任病巣・病態を把握した上での機能的回復及び転帰を考慮する必要があると考える.今回の検討を基に脳梗塞病型別のクリニカルパス作成を行い,リハがより円滑に行われるための検討を更に行う必要がある. |
(日職災医誌,49:151─155,2001) |
─キーワード─
脳梗塞,病型別分類,病病診連携 |
UP |
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Yoshiyuki HOTTA1), Shunichi ARAKI1)2), Hajime SATO1) and Kazuhito YOKOYAMA1) |
1) Department of Public Health and Occupational Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan 2) National Institute of Industrial Health, Kawasaki, Kanagawa, Japan
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(Received: November 29, 2000)
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To clarify major social life factor affecting the mortality from non-motor-vehicle accident (NMA) , we analyzed the effects of wide variety of social life indicators (20 variables) on age-specific and age-adjusted mortality rate from NMA in 47 prefectures in Japan. The analysis was conducted three times at 5 years interval (i.e. in 1980, 1985 and 1990) by stepwise regression analysis after classification of the indicators by factor analysis. The major social risk factors identified were as follows: (1) urbanization/high income inversely related to mortality from NMA for persons, 5-14 and 25-64 years men, and all men (standard population); (2) young population inversely related to that for men aged 45 years and above and women aged 65 years and above, and all men and women (standard population). Both for males and females, the mortality was higher in 0-4 and 65-years. The mortality of males approximately reached twice of females. |
(日職災医誌,49:156─163,2001) |
─Key words─
non-motor-vehicle accident ; mortality ; social life factor |
UP |
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鉛曝露作業者における尿中インターロイキン─6レベル
佐藤 敏彦1),鞠 超英1),野原 理子1)
武林 亨2),大前 和幸2),香川 順1)
1)東京女子医科大学衛生学公衆衛生学教室,2)慶応義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 |
(平成12年11月20日受付)
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鉛曝露による腎障害の早期のマーカーとしては,尿細管から分泌される酵素であるN-acetyl-β-D-glucosaminidase(NAG)が現在広く用いられている.炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン-6(IL-6)は炎症を伴う各種病態でその上昇が認められ,いくつかの腎疾患でその尿中レベルの上昇が報告されている.我々は尿中IL-6が鉛曝露による早期影響マーカーとしての可能性を有するのではないかと考え,断面調査を行った.比較的高濃度の鉛職業曝露者38名とコントロール群44名の尿中IL-6を比較した結果,鉛曝露者の尿中IL-6が有意に上昇していることが認められた.この尿中IL-6は,血中鉛濃度とは相関しないものの,尿中NAGとは相関することから,腎由来のものであり,鉛曝露が腎尿細管においてIL-6の産生や分泌に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された. |
(日職災医誌,49:164─167,2001) |
─キーワード─
鉛,尿,インターロイキン-6 |
UP |
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症 例 |
HETEROTOPIC OSSIFICATION IN ISCHIUM DECUBITUS
(IN BURSITIS)
Osamu YOSHIMURA1), Hiroshi MAEJIMA1), Ryuji KOBAYASHI1), Akira MINEMATSU1), Hisato SASAKI1), Naohiko KANEMURA1), Sachiko TANAKA1), Kunji SHIRAHAMA1) and Kiyomi TAKAYANAGI2) |
1) Institute of Health Sciences, Faculty of Medicine, Hiroshima University, 2) Sapporo Medical College
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(Received: December 15, 2000)
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─Key words─
decubitus, bursitis, heterotopic ossification |
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坐骨部褥瘡(滑液包炎内)に発生した異所性骨化:症例報告
吉村 理1),前島 洋1),小林 隆司1)
峯松 亮1),佐々木久登1),金村 尚彦1)
田中 幸子1),白濱 勲二1),高柳 清美2)
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─キーワード─
褥瘡,滑液包炎,異所性骨化
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異所性骨化は脊髄損傷の10~52%に合併するが,発生部位は麻痺域の大関節であり股・膝関節が多く,手関節などの小関節周囲の発生は希である.今回第12胸髄完全損傷者の坐骨部褥瘡に発生した異所性骨化を経験した.異所性骨化の成因は明らかではないが,脊髄損傷・脳損傷などの中枢神経疾患,外傷,酸素供給不足,手術侵襲などの基礎疾患に合併することから,血流うっ滞,浮腫,低酸素状態などの骨化に有利な局所環境に,強制的な運動による小出血が加わり,骨形成が発生すると考えられる. 本例は,マットの上に長座位となり室内をいざる動作を続けており,座骨部への圧迫と剪断力が常に働き滑液包を生じ,さらなる圧とズレの力が滑液包内に索状の滑膜を生じ,この索状滑膜内に小出血を起こし,異所性骨化を発生したと考えられる. |
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UP |
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グルコン酸カルシウム動脈内注入療法が著効した
フッ化水素酸による化学熱傷の2症例
戸田 成志,吉田 修,佐藤 健治
金居 義純,北浦 道夫,西本 雅彦
香川労災病院麻酔科
(平成12年10月10日受付)
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症例は,21歳男性と24歳男性.95%フッ化水素酸(HF)を3倍に希釈した溶液を用いて建材の漂白作業中に,ゴム手袋の破損部位から両手をHFに暴露し手指の化学熱傷を生じた.まず両手指にグルコン酸カルシウム(CG)軟膏の塗布およびCG皮下注を行ったが,被爆部の疼痛は軽減されなかった.作業中の疼痛出現から来院までに約2.5時間が経過しており,HFはすでに深部皮下組織にまで浸透していると考えられた.組織障害の進行の抑制および疼痛の緩和のために両側橈骨動脈にカニュレーションを行いCGの持続動脈内投与を開始した.これにより手指の疼痛は徐々に軽減した.HF中毒急性期には低Ca血症による心室細動から突然死をきたすことがあるため,頻回に血中Caイオン濃度を測定しながら約13時間CGの持続投与を行った.CGの持続動脈内投与がHF被爆部の疼痛の緩和および組織障害の軽減に非常に有効であった.HFによる化学熱傷では初期治療が重要であり,使用者はHFの危険性を認識するとともに,医療者もHF熱傷に対して迅速かつ適切な処置の重要性を認識すべきである. |
(日職災医誌,49:170─173,2001) |
─キーワード─
フッ化水素酸,グルコン酸カルシウム,動脈内注入療法 |
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下腿切断を免れた糖尿病性壊疽の2例
大林 武治,井手 睦,赤津 嘉樹
渡邉 哲郎,豊永 敏宏
九州労災病院リハビリテーション科,同 勤労者リハビリセンター |
(平成12年10月25日受付)
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今回我々は下腿切断の目的で入院した糖尿病性壊疽患者に対し,患肢温存で完治した2症例を経験した.
症例1は48歳男性,労働災害で第1趾熱傷となるも放置し,右第1・2趾が壊死に陥った.入院後糖尿病と診断され治療を開始した.症例2は63歳女性,糖尿病歴は20年.左足底部に熱傷受傷,その後左下腿から足底部にかけての壊死と潰瘍形成を認めた.2症例とも糖尿病性神経障害のために自覚症状に乏しく治療開始が遅れていた.この2症例に対し,プロスタグランディン製剤・高圧酸素療法といった保存的治療,局所の外科的治療を実施し患肢温存できた.一例は足袋型装具の使用,一例は杖・装具なしで歩行が可能である.中高年の糖尿病性壊疽患者において患肢温存できたことは,歩行のエネルギー効率の面からも有用であったと考えられた. |
(日職災医誌,49:174─176,2001) |
─キーワード─
糖尿病性壊疽,下肢切断 |
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破砕した木質系合成繊維板による穿孔性眼外傷
永井祐喜子,西尾 佳晃,北原 健二
東京慈恵会医科大学眼科学講座
(平成13年1月12日受付)
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一般に,穿孔性眼外傷は重篤な経過をたどることが多い.今回我々は,木質系合成繊維板であるMDFの飛入により穿孔性眼外傷を生じた1例を経験したので報告する.
症例は15歳の男児で,中学校技術科授業中に破砕したMDFにより右眼を受傷し来院した.受診時右眼視力は光覚弁(矯正不能)で,右強角膜裂傷,虹彩脱出および水晶体脱出を認めた.同日,強角膜縫合術を施行し,6日後に右経毛様体扁平部水晶体摘出術および硝子体手術を施行した.受傷15カ月後,虹彩付コンタクトレンズ装用にて矯正視力は(1.5)に回復した.
MDFは,木工製品の材料として,近年使用が増加している.一方で,その材質的特徴より,天然木材と比較し,外力を受けた場合,折れやすく,破砕断面は比較的鋭利となるものと思われ,重篤な穿孔性眼外傷の原因となる危険性がある.本例のような受傷を防ぐために,MDFの使用の際には防護眼鏡の使用等,十分な注意が必要と思われた. |
(日職災医誌,49:177─180,2001) |
─キーワード─
木質系合成繊維板,mid-density-fiberboard(MDF),穿孔性眼外傷 |
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視野障害の自動車運転におよぼす影響
小泉 健一,植田 俊彦,杉本 佳世
高橋 浩基,岡村 和子*
昭和大学医学部眼科学教室,科学警察研究所交通安全研究室* |
(平成13年2月14日受付)
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視野障害者と健常者を比較したシュミレーション実験より,視野障害が自動車運転に障害をおよぼす影響を調べた.5名の視野障害者は緑内障,脳血管障,糖尿病網膜症だった.自己申告によると,少なくとも過去10年間,事故歴がなかった.馴れた道を運転するとか夜間は運転しないなどの注意していた.シュミレーション実験法は運転適性検査の側方警戒検査を基にした.プロジェクターでスクリーンに映すことにより測定画角を60度または90度にした.映された指標に対し,電鍵式手足用反応器で,誤反応率,反応速度を測定した.3群を比較した.それぞれ,1群:特に異常のない健常者,2群:1群に右眼の耳側半盲視野障害を擬似させるコンタクトレンズを装用させた群,3群:前述の5名視野障害者である.2群では画角が90度に広がると誤反応率が3群よりも増加した.2群は視野狭窄状態に馴れていないため,この実験には適さない.3群では誤反応率が1群のそれより悪かった.3群では0.1から0.2秒くらいの反応時間の低下がみられたため,運転速度を落としたり,周囲を充分確認するなどが必要である.視野障害者は種々の注意を払いながら事故歴なく運転していたが,今回の実験から視野障害は運転に影響をおよぼす可能性があり視野障害者の運転資格については今後検討する必要がある. |
(日職災医誌,49:181─185,2001) |
─キーワード─
視野,運転,シュミレーション実験 |
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