2002年 第2号

 

日本職業・災害医学会会誌  第50巻 第2号

Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology
Vol.50 No.2 March 2002




巻頭言
本誌の将来に関する一私見

会長講演
21世紀の職業・災害医学指針─災害医学会の歴史を顧みて─

特別講演
労働様態の変遷とその健康影響─機械化労働からIT化労働へ─

教育講演
作業環境と皮膚障害
わが国におけるスキンバンクの現状
外傷と形成外科

原  著
振動障害患者の神経学的検査結果の経過
西日本におけるイ草染土じん肺の臨床的検討
看護学生のリハビリテーション教育に対する意識調査
高齢大腿骨頸部骨折患者の中殿筋筋電図周波数特性に関する検討
夏期の冷蔵商品仕分け作業快適化のための実態調査
Rehabilitation of dysphagia: Risk of aspiration in stroke patients with dysarthria
有害試薬を用いない簡易前処理による鉛影響指標測定

症  例
観血的治療を行ったChance骨折の1例
下直筋完全断裂を伴った眼窩底骨折症例の検討
外傷を契機として発生した頬部孤立性線維性腫瘍の1例

特急掲載
筋放電休止期と反応時間およびバランス能力との関係─切断者と健常者の比較─



巻頭言
本誌の将来に関する一私見

大庭 雄三
愛媛労災病院

 主題自由でeditorialの執筆依頼を受けて以後,一つの大きな公事と一つのささやかな私事があった.前者は,特殊法人等の事業見直しに関し,行政改革推進事務局案と所管省庁意見とが対照表の形で公開されたことである.後者は日本医師会認定産業医基礎研修夏期集中講座を受講したことで,前者は後者の期間中に行われた.それまで散々迷っていた本稿の主題のことを,これらの出来事の影響下に決めることができた.
 新参者ゆえに,先ず2000年1年分の本誌を通覧し,この学会の性格と機関誌の傾向を知ろうとした.総会の一般講演演者も会誌の原著および症例報告の筆頭著者も,約70%が労災病院職員であった.行政改革推進事務局案は「研究機能を有する中核病院と,労災特有の疾患を専門的に取り扱う病院以外は労災病院としては廃止する」と主張している.このことはごく少数の,大都市またはその近郊に立地する大規模病院と,他の病院の追随を許さない特徴を備えた施設のみが,政策的投資に値する労災病院として,存続を許されることを意味するように思われる.つまり日本職業・災害医学会は多数の,その他大勢的会員を失うことになるのではあるまいか.
 これまで(労働)災害医療を主題としてきた本誌は,臨床医学のあらゆる専門分野を含み,勤労者医療・労働/産業衛生/保健等も加味して,全体としてボーダーレス・スペシャルティー的な(矛盾する造語!)紀要らしく見える.もし事務局案寄りに行政改革が断行されたら,学会の財政的基盤は揺らぎ,本誌の性格も,比較的限定された執筆者による研究報告書に傾くのではなかろうか.このことが本誌の価値を損なうものではなく,逆にその優れた内容によって,本邦における労災医療と職業医学および関連領域における有力な参照雑誌であり続けることを期待したい.
 産業医研修では,病院の診療が患者待ちの受動的姿勢で行われるのに対し,産業医活動は能動的に,見方によってはお節介的に,現場に出向して行われるべきことが繰り返し強調されたように思う.しかし5万人の日本医師会認定産業医のうち,このような積極的姿勢の産業医の比率は低いに違いない.病院診療と産業医活動とは相互にかなり異質な業務であり,一人の医師が同時に両方を兼務するよりも,通常の診療医と産業医とは分業ないし協業関係を形成するのが望ましいと思われる.日本災害医学会から日本職業・災害医学会への名義変更は,診療専従医師,産業医,職業/産業/労働医学/衛生/保健の専従者,およびどちらか一方に重心を置きながら異質な仕事を兼務する人々が混ざり合う場を提供する意義が大きいのではあるまいか.しかしながら,専従産業医や産業医活動に熱心な医師達が参集する学会は日本産業衛生学会らしいことも,この研修中に印象づけられた.
 日本職業・災害医学会に参画している労災病院医師の大部分は傷病の治療に従事し,また労災病院職員の義務として,労災その他の災害の犠牲者の治療と職場復帰について関心が深い.例えば脊髄損傷など,かつては労災特有とさえ思われた外傷の原因は,現在ではむしろ勤労以外の日常生活において多数見られるようになった.医療技術に関する限り,労災とその他の事故および一般的傷病の境界はますます曖昧になりつつある.むしろそれゆえに,今や総合病院化した労災病院の診療能力への期待はかえって高まるばかりである.また,人口の高齢化により,内科的疾患を有する勤労者や,感覚機能・神経反射・運動能力の低下した勤労者が増加し,職業適性を考慮した診療,個人の人生観や価値観に対応した診療が求められよう.
 もとより傷病は予防が最も望ましく,まして人災である労働災害の犠牲についてはいうまでもない.しかし災害予防,傷病予防,健康増進等は病院の外で,勤労や娯楽や日常生活や非日常的出来事の現場で実践されるフィールド・アクティビティーのことであり,労災病院も含め,一般病院の勤務医に多くを期待することは無理であろう.また,いわゆる特殊健診および特に一般健診とそれらの事後処置の技術と効果について,未だ充分なevidenceが乏しく,今後の研究に待つところが大きい.予防医学や健康増進の技術は,現代においても,実践先行,事後評価・研究後続の世界のことかもしれない.日本職業・災害医学会が一輪車から二輪車への変貌を遂げるためには,診療専従以外の医師からも強い関心を持たれること,さらにはその他の医療職や医療職以外の関係者の関心を呼ぶことも必要であろう.
 日本職業・災害医学会および本誌は,現時点でその運命を見通し難いが,間もなく行政改革の大波に揺られるに違いあるまい.筆者の心配が大部分杞憂に終われば幸いである.
UP

会長講演
21世紀の職業・災害医学指針
─災害医学会の歴史を顧みて─


鎌田 武信
大阪労災病院

(平成14年1月17日受付)

 21世紀の本学会の進むべき方向を模索するため,第1回よりこれまでに発表された演題内容の推移を検討した.
 50年代は整形外科関連演題(59%),職業病関連(21%)が圧倒的多数をしめたが,職業病関連演題の減少,生活習慣病関連演題が増加し,90年代には整形外科関連(骨折,外傷,脊損,関節障害など,46%),生活習慣病関連(15%),職業病関連(11%)となっており,これらの課題に今後とも取り組んでいくことが重要と思われた.
(日職災医誌,50:67─70,2002)
─キーワード─
職業・災害医学会,演題推移,外傷,職業病,生活習慣病,ストレス,メンタルヘルス
UP

特別講演
労働様態の変遷とその健康影響
─機械化労働からIT化労働へ─


神代 雅晴
産業医科大学人間工学研究室

(平成14年1月31日受付)

二十一世紀を迎えた今日,様々な場面でIT革命と言う語が使われている.人類が20世紀初頭に成し得たConveyor system─所謂大量生産方式─の誕生以来の大きな変革である.そこで本報告は,IT化労働とその生体影響を議論する前に,20世紀初頭からの技術革新によって随時変貌させられて来た労働様態とそれに伴う健康影響との関係について産業保健人間工学の視点からメスを入れた.次いで,工業化社会とIT化社会との狭間で誕生した人間─コンピュータ系労働(VDT労働)について展開した.そして最後に,近未来の代表的IT労働の一つになると考えられる大画面使用コンピュータ作業及びVE(Virtual Environment;仮想環境)下労働における各種生体反応を取り上げて,IT化労働とその健康影響に関するこれからの産業保健活動の一つの考え方を模索した.
(日職災医誌,50:71─75,2002)
─キーワード─
人間工学,VE(仮想環境),疲労,テクノストレス
UP

教育講演
作業環境と皮膚障害

庄司 昭伸
大阪回生病院皮膚科部長

(平成14年1月31日受付)

職業病の中では職業性皮膚障害の占める割合は非常に高い.そこで,高頻度に発生する職業性皮膚障害が作業環境とどのような関係があるのか検討した.作業環境が屋外の場合,作業現場は自然環境による影響を受け易いが,屋内の場合は取り扱うものによる皮膚障害が多く,アレルギー機序による接触皮膚炎が多い様に思われた.しかし,職業性皮膚障害の内,皮膚の外傷を除くと80%は一次刺激性接触皮膚炎とされ矛盾する.この矛盾は,最近,作業環境の改善が著しいこと,またアレルギーの検査が進歩し,普及してきたことによると推測した.作業環境により異なった皮膚障害の具体例を示し,最近問題になっている職業性皮膚障害について簡単にのべた.
(日職災医誌,50:76─81,2002)
─キーワード─
作業環境,皮膚障害,職業,アレルギー
UP

わが国におけるスキンバンクの現状

鵜飼  卓
兵庫県立西宮病院院長

(平成14年1月31日受付)

熱傷予後指数(PBI)が100を超えるような重症熱傷は,受傷後初期のショック期,呼吸不全期を乗り切っても,創感染から敗血症を合併し死に至ることが少なくない.創早期閉鎖のために皮膚移植が欠かせないが,自家植皮だけで創面をカバーできないことが多く,同種皮膚移植の価値が高い.大量のallograftを採取するには遺体からの提供が不可欠である.従来,いくつかの医療機関で重症熱傷患者の入院中に偶然皮膚提供者が現れた場合に,新鮮同種皮膚移植手術が行われてきたが,9~10年前から大阪と東京で熱傷治療に熱心な医師たちを中心としてスキンバンクが開設され,運営委員会の下でスキンバンクマニュアルを作成し,そのマニュアルに則って品質のよいallograftを入手し,また提供するべく運営されてきた.いずれも多くの医療機関をむすぶ協力ネットワークができており,貴重な同種皮膚片の有効利用に努力している.このようにして用いられた同種皮膚移植の救命効果はとくにPBI 100以上の最重症例で顕著である.しかし,皮膚提供者の数は年間30例以下で,より多くのdonor獲得が今後の課題である.また,これらのスキンバンクは,なんらの公的資金援助も得ることなく,善意の医師たちの努力のみによって運営されているので,今後の安定的な発展のためには財政基盤の確立も急務である.
(日職災医誌,50:82─86,2002)
─キーワード─
同種皮膚移植,スキンバンク
UP

外傷と形成外科

田原 真也
神戸大学医学部形成外科

(平成14年1月31日受付)

外傷治療における形成外科の役割は,より良い社会復帰の実現である.歴史的に外傷の治療は,救命や感染防御が第一義であり,そのための創処理が主体であった.近年,個人の生活が重要視されるようになり,“けが”から復帰後の生活の質(QOL)も医療に求められるようになった.より良い社会復帰のために,変形,欠損,機能不全をより正常に近く修復するのが,形成外科治療の目的である.言い換えれば,QOLの外科ということができる.本論分では形成外科医が上記目的のため,日ごろ行っている,外傷の処置法,縫合法について解説するとともに,外傷性刺青,顔面外傷,眼窩ブローアウト骨折,頬骨・上顎骨骨折,母指再建術など代表的症例を提示した.
(日職災医誌,50:87─92,2002)
─キーワード─
外傷,形成外科,再建
UP

原  著
振動障害患者の神経学的検査結果の経過

黒沢 洋一1),須賀 吉郎2),石垣 宏之2)
篠原 泰司2),細田 武伸1)
1鳥取大学医学部公衆衛生,2山陰労災病院振動障害センター

(平成13年9月17日受付)

振動障害患者の神経学的検査結果の15年間の経過について分析した.1972年から1994年まで山陰労災病院を受診した振動障害患者で,15年以上末梢神経症状の経過を観察できた88人を対象とした.このうち14人は,肘部管症候群による尺骨神経麻痺を有していた.この14名を除いた74名の対象者を分析した.対象者は全員,初回受診後振動工具使用を中止した.診療録に記載された情報をもとに,初回受診時から15年間の神経学的検査,振動覚検査,神経伝達速度,握力検査の経過をまとめた.神経伝達速度では,15年間に有意の変化はなかった.振動覚閾値も10年以上有意の上昇はなかった.これらの検査結果は比較的安定していた.握力は10年間で有意の低下が観察されたが,この低下は加齢によるものであると推測された.
(日職災医誌,50:93─96,2002)
─キーワード─
神経伝達速度,振動覚,振動障害
UP

西日本におけるイ草染土じん肺の臨床的検討

岸本 卓巳1),名部  誠2),伊藤 清隆3)
森永 謙二4),山脇 靖弘5),神山 宣彦6)
1)岡山労災病院内科,2)吉備高原医療リハビリセンター内科,3)熊本労災病院内科,4)大阪成人病センター調査課,5)中国労働衛生協会, 6)独立行政法人産業医学研究所

(平成13年11月8日受付)

 西日本におけるイ草染土じん肺の現状を把握する目的で,岡山県以西のイ草関連作業者600人に対して胸部レントゲンによるじん肺検診を行うとともに作業環境測定とともに使用されているイ草染土の鉱物分析を行った.
 その結果231人(38%)が有所見者であった.性別では女性が170人(43%)で,男性の61人(24%)に比較して多かった.年齢別では60歳以上の高齢者に多い傾向を示した.一方,作業年数が増加するにつれて有所見率が増加し,40年以上になれば70%以上,50年以上では100%にじん肺所見を認めた.40年以上の作業歴を有する例では大陰影を認める場合が7例あった.その中には珪肺症と同様に大陰影の周囲に気腫化を認め,肺機能の著しい障害を来たす例もあった.イ草関連作業場においてはいずれの作業工程においても,作業環境測定あるいは個人曝露のデータでも許容濃度を大きく上回る高濃度の粉塵曝露が存在することが判明したため,今後ともイ草染土じん肺が発生することが示唆された.一方,イ草染土は石英のほか,雲母,長石,緑泥石から成り立っているが,現在使用されているイ草染土のうち吸入粉塵中の石英の含有率は15~44%であった.このうち最も汎用されている組合染土では,吸入粉塵中の石英の含有率は15%であるが,石綿の1種のトレモライトが混じっていることが判明した.そのため,我々はイ草関連作業者における石綿関連疾患についても検討する必要が生じたと考えている.
(日職災医誌,50:97─101,2002)
─キーワード─
い草染土じん肺,大陰影,石綿
UP

看護学生のリハビリテーション教育に対する意識調査

峯松  亮1),吉村  理2)
1)老人保険施設「平和の里」,2)広島大学医学部保健学科教授

(平成13年11月9日受付)

 準看護師資格を有する81名の専門学校看護学生を対象に,リハビリテーション(リハ)教育に対する意識調査を行った.実際に講義を行い,アンケート調査を行ったところ,有効回答率は97.5%,その平均年齢は23.8歳であった.
 講義前よりリハの実施及び知識・技術の必要性を感じているものは多く,講義によりこれらに対し再認識できたように思われた.特に,リハに興味を持ったものは講義により有意に増加し,リハの知識・技術を学ぶ必要性を感じたものは約20%増加した.また,自分がリハを実施するかどうかについては,講義前後で差は認められなかったが,実施しないとしたものはいなかった.
 講義内容に関しては,実技に興味を持ったものが8割以上に達し,技術の習得を望むものが半数以上を占めた.講義の必要性を感じたものは7割弱であったが,必要と感じないものは皆無であった.
 以上のことから,看護学生に対してリハ教育は重要な位置を占めると考えられ,リハ知識に加え,技術をも学びたいとするものが多いことが認められた.看護教育の中にリハ教育がどの程度必要かは多くの議論があるだろうが,リハ教育を行うことにより学生がリハに興味を持ち,実際に行おうとする意欲を高めることは事実である.可能な範囲で,知識と技術を組み合わせて教育することが重要ではないかと考える.
(日職災医誌,50:102─106,2002)
─キーワード─
リハビリテーション,看護学生,アンケート調査
UP

高齢大腿骨頸部骨折患者の中殿筋筋電図周波数特性に関する検討

前島  洋1),佐々木久登1),田中 幸子1),金村 尚彦1)
森山 英樹1),白濱 勲二1),宮本 英高1),吉村  理1)
1)広島大学医学部保健学科

(平成13年11月14日受付)

高齢大腿骨頸部骨折患者において,中殿筋活動の障害は立位・歩行時の骨盤固定性の低下,患肢支持性の低下を生じさせ,再転倒,再骨折の要因として重視されている.本研究では大腿骨頸部骨折修復術後の高齢患者における中殿筋活動特性の検討を目的に,最大等尺性収縮時および100%体重荷重時における中殿筋表面筋電図を計測し,周波数解析を行った.対象は高齢大腿骨頸部骨折修復術後の歩行可能な高齢者6名(84.2±4.3歳)であった.周波数解析の結果,100%体重荷重時,最大等尺性収縮時のいずれにおいても患側の平均周波数は健側よりも低下していた.その要因として,100%体重荷重時においては高周波数帯域パワースペクトル成分の動員率の減少,または低周波数域帯成分による代償が生じていた.一方,最大等尺性収縮時の患側平均周波数低下の要因として,更に,高周波数域帯内においても特に高い周波数成分の動員も低下していた.本研究で提示した100%体重荷重における患側―健側間の周波数特性の違いから,リハビリテーションにおいて単に筋力の改善に終始せず,筋収縮の機能性に応じた効率的な運動単位の動員が必要であることが示唆された.日常生活において中殿筋が最大収縮を要する機会は乏しく,通常,100%体重荷重時の収縮を効率的に行うことが,安全な歩行・転倒防止の面から高齢者にとって重要と考えられる.このため,荷重時における患側─健側間の周波数特性の評価は,効率的な筋活動の効果判定評価法として位置付けることができる.
(日職災医誌,50:107─112,2002)
─キーワード─
大腿骨頸部骨折,中殿筋,筋電図
UP

夏期の冷蔵商品仕分け作業快適化のための実態調査

井奈波良一1),井上 眞人1),黒川 淳一2),岩田 弘敏3)
1)岐阜大学医学部衛生学教室,2)岐阜大学医学部スポーツ医・科学教室,3)岐阜産業保健推進センター

(平成13年11月16日受付)

夏期の冷蔵商品仕分け作業の快適化のための基礎資料を得ることを目的に,女性の冷蔵商品仕分け作業従事者の夏期の自覚症状調査を行った.
対象と方法:夏期室温18℃以下の冷房下で働く,女性の冷蔵商品仕分け作業従事者(以下,仕分け作業者)45名〔平均年齢49.8±4.8歳(36~57歳)〕を対象に,夏期の作業を快適に行うための防寒対策と夏期の自覚症状に関する自記式のアンケート調査を行った.
結果:何らかの冷房対策を行っている仕分け作業者の割合は88.9%であった.仕分け作業者の冷房対策として最も多かった項目は,「防寒ズボン」の84.4%であり,以下,「防寒靴」(68.9%),「手袋」(64.4%)の順であった.しかし,仕分け作業者の「防寒服」の着用率は28.9%にすぎなかった.仕分け作業者の自覚症状で最も多かった項目は,「肩のこり・だるさ」(86.7%)であり,以下,「首のこり・だるさ」(82.2%),「疲れやすい」(82.2%),「体のだるさ」(82.2%),「腰痛」(75.6%),「腰のだるさ」(75.6%)の順であった.また,仕分け作業者の60.0%が「足の冷え」を訴えていた.
結論:冷蔵商品仕分け作業者は,夏期には手と下半身を中心に冷房対策を行っていたが,冷房病に関連する自覚症状を高率に訴えていた.
(日職災医誌,50:113─120,2002)
─キーワード─
冷房,冷蔵商品仕分け作業,女性
UP

Rehabilitation of dysphagia:
Risk of aspiration in stroke patients with dysarthria


Hiromi CHISAKA, Mari UETA, Satoru SAEKI and Kenji HACHISUKA
Department of Rehabilitation Medicine, School of Medicine, University of Occupational and Environmental Health

(Received: December 3, 2001)

Abstract
  Objective: To reveal risk of aspiration in stroke patients with dysarthria who were admitted to our rehabilitation department.
  Design: Cross-sectional study.
  Setting: University hospital.
  Patients: 53 stroke inpatients.
  Methods: Subjects' profiles and clinical findings, consisting of age, sex, dysarthria, aphasia, severity of hemiplegia and Barthel index score, were obtained, and videofluoroscopic swallow studies (VSS) for the subjects were performed by physiatrists. The logistic regression analysis was applied to reveal the relationship between aspiration and the profiles and findings.
  Result: The presence of dysarthria had an aspiration risk of 15.0.
  Conclusion: Because stroke patients with dysarthria were 15 times as risky of aspiration as those without dysarthria, dysarthria is a good indicator for screening risk of aspiration in stroke patients.
(日職災医誌,50:121─124,2002)
─キーワード─
stroke, aspiration, dysarthria
嚥下のリハビリテーション:構音障害のある脳卒中患者の誤嚥のリスク

千坂 洋巳,上田 まり,佐伯  覚,蜂須賀研二
産業医科大学リハビリテーション医学講座

─キーワード─
脳卒中,嚥下障害,構音障害

目的:介助者や看護婦などのパラメディカルスタッフが,脳血管障害患者の誤嚥のリスクを認識する因子として,構音障害が簡便なスクリーニングとなりうる因子であるかどうかを調べる.
対象:1998年1月~2000年3月までに当科に入院したクモ膜下出血を除く脳血管障害患者で摂食・嚥下障害が存在する者およびそのリスクがあると考えられる者とした.対象者は53名(平均年齢63.0±13.3歳,平均罹病期間21.4±41.9ケ月)であった.
方法:videofluoroscopic swallow study(以下,VSS)と臨床的所見から,藤島の誤嚥に関するGrade IV正常群とGrade IからIIIの誤嚥あり群の2群に分け,ロジスティック回帰分析で,年齢・性・構音障害の有無・失語の有無・運動麻痺の軽重・Barthel Indexを独立因子とし,誤嚥の有無を従属因子として解析を行った.
結果:各群の平均年齢および発症からVSS施行までの期間は有意差を認めなかった(t検定,p>0.05).構音障害の有無は,誤嚥の有無と有意な関連があり(P=0.009),構音障害の有る者は,無い者に対して,15.0倍のリスクがあった.失語の有無,運動麻痺の軽重,Barthel Index値でみたADLと誤嚥の有無は関連を認めなかった(カイ二乗検定,p>0.05).
結論:構音障害合併者は誤嚥のリスクが15.0倍と高率でありパラメディカルスタッフが脳血管障害患者の誤嚥のリスクを認識する因子として有用である.
UP

有害試薬を用いない簡易前処理による鉛影響指標測定

井上  修1),遊佐 敏春1),管野 悦子1)
柿崎 正栄1),寺内 篤子2)
1)東北労災病院・健康診断センター,2)珪肺労災病院・職業病検診センター

(平成14年1月8日受付)

 簡易前処理の導入と有害試薬の除去で測定される鉛曝露の影響指標としての赤血球遊離プロトポルフィリンと尿中δ-アミノレブリン酸,および赤血球δ-アミノレブリン酸脱水酵素活性の増加減少に関する血中鉛濃度を統計学的手法で解析した.その結果,鉛濃度を低い順でみた場合,赤血球δ-アミノレブリン酸脱水酵素活性は,血中鉛濃度が15μg/dl,赤血球遊離プロトポルフィリンは32μg/dl,尿中δ-アミノレブリン酸は,比重(1.016)補正で44μg/dl,クレアチニン補正で47μg/dl,測定値では60μg/dlで統計学的な増減が確認された.鉛影響指標が増加または減少する血中鉛濃度の値を過去のデータと比較した場合,ほぼ同程度の値を示すことが分かった.
 なお簡易前処理の導入や測定精度の保持に必要な有害試薬の排除にもかかわらず当センターで確立した測定法は,従来法との比較において,血中鉛濃度に対応する増減値から見ても,鉛曝露の影響指標として,ルーチンに利用可能と考えられる.
(日職災医誌,50:125─130,2002)
─キーワード─
有害試薬の排除,簡易前処理,鉛影響指標
UP

症  例
観血的治療を行ったChance骨折の1例

中永士師明1),遠藤 重厚2),山田 裕彦3)
佐藤光太郎3),赤坂 俊樹3),吉村 文孝3)
1)秋田大学医学部救急医学,2)岩手医科大学医学部救急医学,3)同 高次救急センター

(平成13年6月20日受付)

椎体から棘突起にかけての水平骨折で後方要素の離開を伴うChance骨折は比較的稀な外傷で,安定型損傷のため,保存的治療が行われることが多い.我々は観血的治療を行った第2腰椎Chance骨折の1例を経験した.患者は20歳,女性で乗用車後部座席乗車中に受傷した.神経学的に異常は認めなかったが,椎体の楔状変形が強かったため,Harrington instrumentationによる整復固定を施行した.確実に強固な固定を得るためにdistraction rodにcompression rodを併用し,良好な整復を得ることができた.
(日職災医誌,50:131─134,2002)
─キーワード─
Chance骨折,腰椎,内固定
UP

下直筋完全断裂を伴った眼窩底骨折症例の検討

山内 康照,大野  淳**,泉 幸子***,小出 良平***
町立信越病院眼科,**町立浜岡総合病院眼科,***昭和大学眼科

(平成13年12月27日受付)

 今回我々は,単一の鈍的打撲により多彩な臨床症状を呈した症例を経験したので報告する.
 症例は22歳の男性で,サーフボードのフィンにより右眼打撲し受診した.受診時眼瞼裂傷を認め自発開瞼不能,MRIにて右眼窩底ならびに内側壁骨折を認めた.同日局所麻酔下に眼瞼裂傷縫合術を施行,術中に下直筋の完全断裂を認めた.そこで,受傷翌日全身麻痺下にて下直筋断裂縫合術を施行した.受傷14日目に局所麻酔下において右眼窩底骨折整復術および内側壁骨折整復術さらに眼窩底骨折部に対して上顎洞内バルーン挿入術を施行した.術後6カ月後,隅角離断による外傷性散瞳が残存,また三叉神経第2枝領域の知覚鈍麻が残存しているが眼球運動は下転障害が残存するも改善した.このような症例では何を優先に治療するのかを考え,治療時期を逸さない適切な対応が必要と思われる.
(日職災医誌,50:135─140,2002)
─キーワード─
鈍的眼外傷,下直筋断裂,眼窩底骨折
UP

外傷を契機として発生した頬部孤立性線維性腫瘍の1例

奥野敬一郎,野口 和広,徳丸 岳志
佐久間貴章,渡辺 尚彦,調所 廣之
関東労災病院耳鼻咽喉科

(平成13年12月21日受付)

 孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor)は,通常,胸膜に関連した胸腔内病変として発生する比較的稀な疾患である.最近になり胸腔外の部位での報告が増加している.今回,われわれは,外傷を契機として頬部に発生した孤立性線維性腫瘍の1例を経験したので報告する.
 症例は50歳,女性.20歳時,事故で,顔面を強打した.その直後より,右頬部に米粒大の腫瘤に気づいたが放置していた.47歳頃から腫瘤増大し,顔貌の変形をきたした.そのため,腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は35×30×20mm,単発性,表面平滑,硬で周囲組織への癒着はなかった.
 病理組織学的所見では,紡錘形の腫瘍細胞がある程度一定の方向性はあるものの規則的とはいえない配列で増生するpatternless patternであった.免疫組織学的所見では,CD34,NSE陽性,actin,S-100,HHF35陰性であった.
 治療は完全摘出が原則で,予後は比較的良好である.本症例は完全摘出できたと考えている.
(日職災医誌,50:141─144,2002)
─キーワード─
孤立性線維性腫瘍,外傷,頬部腫瘍
UP

特急掲載
筋放電休止期と反応時間およびバランス能力との関係
─切断者と健常者の比較─


佐々木久登1),荒井 隆志1),金村 尚彦2)
田中 幸子2),白濱 勲二2),宮本 英高2)
森山 英樹2),吉村  理3),前島  洋3)
広島鉄道病院リハビリテーション科1),広島大学大学院医学系研究科2),広島大学医学部保健学科3)

(平成14年2月4日受付)

目的:バランス能力の低下は転倒の内的要因の一つであり,外部刺激に対する生体の応答能力とバランス能力の関係を解析し,それらの相互関係を明らかにすることは,転倒に対する予防対策の立案にとって重要な情報が得られると考えられる.そこで,本研究では下肢切断者と健常者の主動筋と拮抗筋間の「切り換え動作時」に出現する筋放電休止期(SSP)と反応時間を測定し,バランス能力との関連を検討した.
対象と方法:被験者は男性下肢切断者7名(27~73歳,平均47.6歳)と,切断者群とほぼ同年齢の健康男性7名の計14名を対象とした.重心動揺測定器を使用して30秒間の重心動揺と8方向課題遂行時間を測定した.そして,つま先立ち動作時の筋放電休止期と反応時間を測定した.
結果および考察:1.切断者群で重心動揺距離・8方向課題遂行時間及びSSPの持続時間が有意に延長していた.2.切断者群においては,前脛骨筋の筋活動開始時とヒラメ筋の筋活動消失時の間に有意な相関は認められなかったが,健常者群では非常に強い有意な相関が認められた.3.切断者群の,バランス能力の低下要因の一つに,運動の切り替え機能の低下があり,その為にSSPの持続時間が延長したと考えられる.以上の結果から切り換え動作に伴う筋放電休止期の持続時間は,バランス能力の一つの指標になりうる可能性が示唆された.
(日職災医誌,50:145─151,2002)
─キーワード─
下肢切断,Silent Period,バランス
UP

BACK NEXT

【全:LHW】フッターメニュー

PAGE TOP