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勤労者医療とは
「労働災害」、「職業病」から「勤労者医療」へ
労働災害や職業病への対応を直接の役割としてきた労災病院が地域の中核病院として発展し、また、産業構造や就業構造の変化が進む中で、その新たな役割を示す概念として、より膨らみを持った、「勤労者医療」という考えが登場しました。
「勤労者医療」とは、勤労者の健康と職業生活を守ることを目的として行う医療及びそれに関連する行為の総称である。 具体的には、疾病と作業・職業環境等との関係を把握し、そこからもたらされる情報をもとに、働く人々の疾病の予防、早期発見、治療、リハビリテーションを適切に行い、職場と連携して職場復帰、及び疾病と職業生活の両立を促進することはもとより、 疾病と職業の関係についての研究成果及び豊富なデータの蓄積の上に、その全段階を通して、働く人々の健康の保持・増進から職場復帰に伴う就労に対する医学的支援に至る総合的な医療を実践することをいう。 (勤労者医療のあり方検討会報告書〔平成21年3月〕より)
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「勤労者医療」の登場が意味するもの
勤労者医療という概念の登場は、①勤労者の健康をめぐる環境の変化は、もはや、「労働災害」、「職業病」という概念のみでは捉え切れない、不十分であるという時代認識を意味し、②職業生活を守るという目的に照らせば、おのずと、予防重視の方向性が内包されていることを意味します。
「作業関連疾患」という考え方
「勤労者医療」の理解を助ける考え方として、「作業関連疾患」があります。
これはWHOで提唱されたもので、1982年のWHO専門委員会報告では「疾病の発症、増悪に関与する数多くの要因の一つとして、作業(作用態様、作業環境、作業条件など)に関連した要因が考えられる疾患の総称」と定義されています。
その類型としては、大きく次の三つに分けられています。
① |
発症の主な要因が一つであり、その要因が作業過程で労働者に作用して発症した疾患
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② |
発症の主な原因が複数あり、作業とは関係のない要因でも発症することがある疾患ではあるが、作業条件中の要因が関与して発症した疾患
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③ |
作業とはまったく無関係に発症した疾患ではあるが、増悪要因の一つとして、作業に伴う何らかの要因が関与した疾患すべて
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①に当たるものは、いわゆる職業病です。
②と③の類型の具体例としては、高血圧症・虚血性心疾患などの心血管疾患、慢性気管支炎・肺気腫・気管支喘息などの慢性非特異性呼吸器疾患、腰痛症・頚肩腕症候群・骨関節症などの筋骨格系疾患、感染症、悪性腫瘍、胃・十二指腸潰瘍などがあります。
この「作業関連疾患」という考え方は、現在の勤労者の健康問題を把握するのにふさわしいものだと思います。定期健康診断の有所見率が50%に達しようとしており、労災保険の適用範囲が予防的分野にまで拡大されることとなった現在にあっては、「労働災害」や「職業病」という概念では、勤労者の健康問題を捉えるには狭すぎます。その意味で、「勤労者医療」は「作業関連疾患」を対象としている、と言うことができます。
「勤労者医療」にとって大切なこと
イタリアのラマッツィーニ(Bernardino Ramazzini)はその著書「働く人々の病気」の序文でこう述べています。
「病人のそばにいるときには、病人の具合はどうか、原因は何か、いつからか、通じはどうか、どんな食物を食べているか、を聞かなければならない」とヒッポクラテスはその『疾病論』という本の中で述べているが、この質問にもう一つ、すなわち「職業は何か」という質問を私は付け加えたい。それは主な原因と関係あるのではないが、庶民を治療する医師にとって、適切であるというよりも必要な質問であると、私は考えている。
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このように患者さんの背後に職業的な要素を見ていく姿勢こそ、「勤労者医療」の基本的なあり方だと考えています。
独立行政法人への移行と勤労者医療
独立行政法人への移行に当たって、労災病院には、勤労者医療の実践にとどまらず、今まで培った豊富な知見や臨床研究(労災疾病13分野)などの医療資源を活用して、地域の医療機関や産業医を支援していく、つまり、勤労者医療の中核的役割を果たすことが求められています。
勤労者医療のこれから -人口減少化の勤労者医療-
わが国は、少子高齢化という問題を抱えつつ、本格的な人口の減少の時代に入っています。勤労者の就業率を高めるための政策が功を奏さなければ、2015年までに、労働力人口が410万人も減少するとの試算もあり、経済社会の停滞はもとより、社会保障制度の持続性を揺るがす大問題となっています。
勤労者一人一人が、生き生きと健康で社会を支える側に回らなければなりません。それを支える基盤は、予防を重視し、不幸にして病気になったとしても、可能な限り、職業生活を継続させ、放棄させない治療体系の研究・開発など勤労者医療の一層の充実であると考えています。
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勤労者の健康問題についての変遷 |
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昭和20~30年代 |
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じん肺・重金属中毒など典型的職業病が多く見られる
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昭和40年代 |
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産業活動の拡大に伴う低濃度の有害物質に長期間さらされることによる慢性的職業病、作業の機械化による振動障害、腰痛、頚肩腕障害が多く発生
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昭和50年代 |
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化学物質による新しい職業がんが社会問題化
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昭和60年代 |
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勤労者の脳血管疾患・心疾患が社会的な注目を集め、女性の職場進出に伴う母性を含めた健康管理の問題も増加
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現在(平成) |
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一般の定期健康診断での有所見率、仕事や職場生活で悩みやストレスを感じる労働者の増加
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生活習慣病、メンタルヘルス対策の重要性が高まる
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アスベストによる健康被害の顕在化
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治療の医療から予防重視の医療へ
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○ 労災疾病等医学研究・開発 |
○ 治療就労両立支援センター・治療就労両立支援部ご案内 |
○ 専門センターのご紹介 |
○ 働く女性専門外来について |
○ アスベスト問題への対応について |
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○ 出版物 「勤労者医療」(広報誌)
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① 疾病分類別業務上疾病者数(平成19年)
平成19年には、業務上の負傷に起因する疾病が6,252人で、業務上疾病全体の72.0%を占めており、この中でも腰痛(災害性腰痛)が5、230人で、業務上の負傷に起因する疾病のうち83.7%を占めています。また、じん肺およびじん肺合併症の発生件数は、640人となり、業務上疾病のうちの7.4%を占めています。
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② 年別業務上疾病者数
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③ 年別健康診断結果
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④ 「労働者災害補償保険法」に基づく石綿による肺がんおよび
中皮腫の労災保険給付支給決定状況
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⑤ 新規化学物質製造・輸入届出状況 年別(製造・輸入)
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⑥ 脳・心臓疾患、過労死および精神障害等に係る労災認定件数の推移
脳・心臓疾患(うち過労死含む。)に係る労災認定件数は平成14年度にそれまでの2倍以上と急激に増加し、その後も増加傾向にあります。また精神障害等に係る労災認定件数は平成18年、19年は200件を超え、高水準で推移しています。
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⑦ 強い不安、悩み、ストレスがある労働者の推移
強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者は昭和57年には約5割でしたが、平成9年以降は6割に達しています。
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⑧ 自殺者数の推移
自殺者数は、平成10年以降10年連続で3万人を超えています。
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