2001年 第4号

日本職業・災害医学会会誌  第49巻 第4号

Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology
Vol.49 No.4 July 2001



巻頭言
旗を高く掲げて,前へ

会長講演
職業医学から勤労者医学へ─勤労者医療と産業保健活動の一元化─

教育講演7
勤労者の腰痛─疫学,診断・治療,再発予防─
教育講演9
外傷性上肢切断者に対する義手の処方と問題点
 ─筋電義手実用普及化に関するアンケートを中心に─

シンポジウム1
司会のことば
職業・災害医学会と産業衛生学の連携─臨床医学と予防医学の総合化─
臨床と予防の統合化─産業中毒を中心に─
労災病院の今後のあり方─産業医支援の面から─
臨床予防医学のすすめ
21世紀の産業医学─職業・災害医学会への期待─

総 説
自動車事故率と運転実態

原 著
ニコチンTTS製剤(ニコチンパッチ)と呼気CO濃度検査を用いた当院禁煙外来の現状
管理3(イ)じん肺症例の離職後長期観察成績
特別養護老人施設における介護職の腰痛対策について
脳卒中片麻痺患者の内反尖足変形に対する足部矯正手術の検討
排尿筋収縮不全症例の検討
中高年耐糖能異常者における無症候性の脳血管障害と頸動脈硬化の危険性
外傷患者における感染性合併症の検討
舌と下口唇によるパソコン操作器具について
膝蓋骨骨折に対する最小侵襲手術─X線透視と関節鏡を用いて─
頭部外傷後遺症例の神経耳科学的検討
当科における脛骨高原骨折の手術成績

症 例
外頸動脈結紮に到った顔面外傷の1例
陳旧性第1楔状骨骨折の1例
上腕部切断に対し再接着術を施行した1症例


巻頭言
旗を高く掲げて,前へ

杉浦 和朗
東京労災病院副院長

 日本職業・災害医学会は,昭和28年の第一回大会以来,昨年の第48回大会に至るまで,わが国の職業医学に関する研究発表の場として重要な役割を果たしてきた.平成11年までは日本災害医学会と呼ばれ,労働災害(職場事故)に対応する外科系の医学研究発表が主体をなしていたが,時代の推移につれて,勤労者が有する生活習慣病や作業関連疾患などが重要なテーマとなり,内科系の研究発表の数も次第に増してきた.全国の労災病院はこの医学会の主要な構成メンバーである.例えば平成12年に日本職業・災害医学会で発表された演題の68パーセント,同年の本誌誌上発表の62パーセントは労災病院に勤務する学会員によるものであった.災害医学および勤労者医学推進の原動力は全国の39労災病院だったといっても過言ではない.
 ところが最近,行財政改革の一環としての特殊法人見直しの議論と共に,労災病院の経営母体である労働福祉事業団そのものが原則廃止ないし民営化を叫ばれる仕儀になっている.労災病院の全てが廃止されることは無いとしても,一部の統廃合,全体の経営方式の変更は避けて通れないような風向きである.しかし,仮に労災病院が民営化されたなら,現在われわれが行っている勤労者医療は誰が担っていくのであろうか.勤労者医療に関連する作業として当院が関与するものだけを列挙しても産業中毒センター・メンタルヘルス・労災認定業務などがあり,その業務量は相当なものである.しかもこれら業務の全てが現在の健康保険制度の元では不採算業務である以上,経営の健全性を至上命題とする民間医療機関では取り組んでいけないことは明らかである.勤労者医療を業務とする労災病院がなくなれば,われわれ医師が職業・災害医学の研究テーマから遠ざかることは間違いなく,興味はやがて失われ,症例にも恵まれなくなる以上,必ずやこれらに関する研究は停止ないしは停滞することになるであろう.
 特殊法人見直しの全体論の中では,全国の労災病院がこれまで社会の中で果たしてきた労災医療,勤労者医療,労働者行政への医療貢献や蓄積などはとるに足らないものと映るのかも知れない.しかしこれら勤労者の健康を守り,わが国の労働の質を守る医療は,地味ではあっても社会的共通資本(宇沢)に貢献するものであり,その価値を現状のままで否定し去るのは時期尚早ではないのか.労働災害はこれまでの努力の結果として減少しつつあるとはいえ,毎年なお数十万人の労働者が被災している.じん肺・振動病・腰痛症などの古典的な労災患者は後を絶たず,最近ではダイオキシンなどに代表される化学物質による障害・労働者のメンタルヘルス・自殺・過労死などの諸問題が新たに登場しつつある.女性労働者の増加に伴う働く女性の健康維持も大きな課題であるし,若年労働者の減少に伴う高齢労働者への依存と共に,一般的な定期健康診断で何らかの所見を有する労働者が40%を越えるという現状も医学的な対応策を早急に構ずべき大きな問題である.これらの諸問題は,市場原理や競争原理にゆだねておいて解決できるものとは到底思えない.
 現在の内閣が経済原則一辺倒の議論に終始し,勤労者の健康維持に不可欠な,問題解決に向けた努力を等閑視するのか,あるいは何らかの形で取り組もうとするのかは定かでない.とまれ,われわれ勤労者医療に携わる医師は,政治や社会情勢の推移に一喜一憂したり右顧左眄することなく,われわれ自身の人間的,職業的な矜持を保ち,災害医学と勤労者医学の旗を高く掲げてその重要性を社会に伝え,全国労働者の健康を守るべく愚直に前進する以外に道はないと考える.
UP

会長講演
職業医学から勤労者医学へ
─勤労者医療と産業保健活動の一元化─


荒記 俊一
東京大学大学院医学系研究科・医学部 教授(現,独立行政法人産業医学総合研究所 理事長)

(平成13年6月18日受付)

 私は1966年に医学部を卒業後,附属病院での2年間の臨床研修を経て,1968年より東京労災病院内科で6年8カ月お世話になった.この間はその後導入された「勤労者医療」(藤縄,1980)を実践したことになる.1981年にそれまでの労災病院,大学の公衆衛生学教室,およびロンドン大学(LSHTM)での経験をもとに「職業医学(Occupational Medicine)」の概念をまとめ,単行本「職業医学─理論と実践へのアプローチ」を刊行した.この書により「職業医学」を,“働く人々の健康を守り育てるために”,“環境を直接の対象とする職業衛生学(Occupational Hygiene)と補完し合って”,“予防医学的な目的論の下に職業による健康障害を人の側から把握し組織的な保健活動を目指す”学術と定義し,職業性の健康障害を有害環境因子の臓器影響の面から整理した.さらに,「職業医学」には臨床医学および疫学的方法論と,地域保健および人類生態学的視野が重要であることを指摘し,「職業医学」と「産業医学(Industrial Medicine)」との異同を論じた.
 その後20年の間に,勤労者医療の概念化と普及が進み,さらに労働省,労働福祉事業団,および日本医師会の努力で産業保健推進センターと地域産業保健センター(以上,産業保健センターと略)が全国的に配置されるに至っている.今回はこの状況をふまえて,勤労者医療(臨床医学)と産業保健(予防医学)活動を一元化しそれらの活動の効果と効率を向上させるための学際的学術として,これまでの「職業医学」の概念を発展させた「勤労者医学(Workersユ Medicine,英文仮訳)」の概念を提起した.この領域の今後の発展により,労災病院,産業保健推進センター/地域産業保健センター,および日本職業・災害医学会を中核として全国的に進行中の働く人々(勤労者)を対象とする医療,保健および福祉活動が進展することを期待する.
 以下の項目に従って論述した.(1)職業医学の概念,(2)勤労者医療の臨床経験,(3)産業保健の研究と現場経験,(4)勤労者医療と産業保健活動の一元化─「勤労者医学」の成立,および(5)労災病院/産業保健センター,産業医学総合研究所,および産業医科大学の役割─勤労者医学の実践,研究,および教育活動.
(日職災医誌,49:304─311,2001)
─キーワード─
職業医学,勤労者医療/勤労者医学,産業保健活動
UP

教育講演7
勤労者の腰痛
─疫学,診断・治療,再発予防─


木村  功,新宮 彦助,村田 雅明,橋口 浩一
山陰労災病院 勤労者脊椎・腰痛センター

池田  聡
産業医科大学整形外科

(平成13年1月11日受付)


 勤労者の腰痛については,まず職業性疾病か否かの鑑別が重要なことはいうまでもないが,作業環境・内容の問題,認定,障害評価が絡み,さらに疼痛に対する性格的・心理的要素の関与も指摘されており,その原因は複雑・多岐にわたっている.
 勤労者に腰痛が発生した場合,診断には通常の診察にはじまり明らかな脊椎・脊髄疾患の有無を一定の検査手段で科学的に診断する.そして,産業医・衛生管理者との協力のもとで作業環境・内容らと腰痛発性との因果関係の究明が行なわれる.腰痛に対する的確な疼痛,機能的,社会的・心理的評価が行なわれる.この評価なくして,良好な治療結果は期待できない.
 勤労者の腰痛者は急性腰痛症と慢性腰痛症の二つに診断され,治療が開始される.前者は通常の腰痛治療が行なわれる.後者は,作業環境・内容の他に労使関係などが複雑に絡んでおり,再発をくりかえし治療に難渋する場合がある.また心理的要素などが背景にある場合がみられるので,常にこれを念頭に置き産業医でも精神科医の協力のもとで治療にあたる必要がある.
 腰痛発症の予防措置・再発予防法として,腰椎ベルトの使用,種々の運動療法,腰痛教室での健康教育を行なわれているが,その効果は今後の検討課題である.
(日職災医誌,49:312─319,2001)
─キーワード─
勤労者の腰痛,作業環境・内容,腰椎ベルト
UP

教育講演9
外傷性上肢切断者に対する義手の処方と問題点
─筋電義手実用普及化に関するアンケートを中心に─


加倉井周一
北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科

(平成12年11月30日受付)


わが国における上肢切断者のプロフィルと基本的な義手の処方・装着訓練のあり方について述べるとともに,とりわけ一側切断と両側切断者の能力低下,社会的不利は根本的に異なることを強調した.現在国の公費支給に含まれていない筋電義手がなぜ諸外国のように実用普及化しないのかを探るために,上肢切断者のリハビリテーションに携わっている専門職種(手の外科学会評議員,義肢装具学会員,作業療法士)222名にアンケート調査を実施し,171名の回答を得た(回答率77.0%)筋電義手の認知度・有用性は義肢装具学会員・作業療法士が手の外科学会評議員に比べ有意に高かったが,これは後者の興味が義手よりもむしろ切断肢再接着にあることを示しているとも解釈される.諸外国に比べわが国の実用普及化が遅れている原因について,行政の対応不足とならんで筋電義手の処方や装着訓練ができる医師やセラピストの不足をあげるものが最も多かったことは,わが国の上肢切断者の訓練体制が未確立なことを物語っている.能動義手・装飾義手・筋電義手のいずれかを選択するのでなく,3者が合い補って上肢切断者の機能障害・能力低下を軽減するという発想が強く望まれる.
(日職災医誌,49:320─324,2001)
─キーワード─
上肢切断者,義手の処方と訓練,筋電義手のアンケート調査
UP

シンポジウム1
司会のことば
職業・災害医学会と産業衛生学の連携
─臨床医学と予防医学の総合化─


調所 廣之
関東労災病院副院長

影山  浩
香川産業保健推進センター所長

UP

臨床と予防の統合化
─産業中毒を中心に─


大菅 俊明
東京労災病院

(平成12年11月30日受付)


産業中毒の症例を例示して,その本質的な解決には,臨床医学と予防医学との連携,統合が必要であることを強調し,その実践例として,東京労災病院産業中毒センターと,そこから見た予防,健診のネットワークの現況を述べる.
(日職災医誌,49:326─329,2001)
UP

労災病院の今後のあり方
─産業医支援の面から─


馬杉 則彦
横浜労災病院

(平成13年2月20日受付)


 新しい世紀を迎えるにあたり労災病院も戦略を変更しなければならない.労働福祉事業団から再三にわたって提示される労災病院を取り巻く状況を勘案するに,“勤労者医療”を積極的に取り入れてゆくことが肝要と思われる.
 横浜労災病院は先に“勤労者メンタルヘルスセンター”を開設し1年を経た現在順調に推移し,好評である.これに続く二つ目の対策として“産業医支援センター”を開設した.
 認定産業医の制度が確立されて,認定産業医は急速に増加している.しかしながら,その周辺の状況は必ずしも整備されていない.我々はこれらの産業医を支援するために,○産業医の会員を募り,病診連携の産業医版ともいうべき“紹介システム”を構築し,周囲の産業医との緊密な連携を保つこと.○産業医の“卒後教育”を支援すること.○労災病院を取り巻く産業保健機構を円滑に動かすように働きかけること.
を目指している.
 最終的には,現在産業医大において夏期に行われている“認定産業医の集中講座”を,当センターで行うことを目標としている.
(日職災医誌,49:330─332,2001)
─キーワード─
勤労者医療,メンタルヘルス,産業医
UP

臨床予防医学のすすめ

圓藤 吟史
大阪市立大学大学院医学研究科産業医学分野

(平成13年7月26日受付)


 従来,定期健康診断の結果に対して,異常なし,軽度異常,要経過観察,要医療,要二次検査といった二次予防に重点を置いた健康管理基準を用いてきた.また,労働基準監督署に提出する定期健康診断結果報告書でも,二次予防を目的とした基準を有所見にしてきた.しかし,世界保健機関や国際高血圧学会を始めとする内外の学会は,フラミンガム研究などの疫学研究を根拠として,合併症を一次予防することを目的にした新しい高血圧,肥満,糖尿病などの診断基準を出してきた.高血圧,糖尿病やその合併症は,喫煙,飲酒,運動,食生活などの生活習慣と,職種,労働形態,労働時間,通勤といった労働環境が関係している.臨床予防医学とは,それら生活習慣や労働環境,さらにいくつかの疾病の中から,疾病やその合併症のより具体的なリスクファクターとその程度を明らかにする一次予防を目的とした臨床医学と定義する.そしてその医療は,産業医と労働者の主治医である臨床医とが連携して,飲酒,喫煙,運動などのハイリスクであることが証明された生活習慣,あるいは肥満,高血圧,糖尿病といった合併症のリスクの高い疾患に対して,変容を促す積極的な保健指導を行うことであり,運動処方や予防投薬を含む.
 わが国では,わが国での証拠でもって一次予防を目的とした基準を作成することが望まれるが,産業医学の分野で大阪ヘルスサーベイはその証拠をいくつか出してきた.産業医学は臨床予防医学を研究し実践する最適な分野であり,今後その発展が期待される.産業医学は臨床予防医学から,さらに証拠に基づいた快適職場づくりや,産業保健サービスを含め生涯を通じた健康支援のシステムづくりにまで活動を拡げて行くことが求められる.
(日職災医誌,49:333─336,2001)
─キーワード─
臨床予防医学,一次予防,産業医学
clinical preventive medicine, primary prevention, occupational medicine
UP

21世紀の産業医学
─職業・災害医学会への期待─


竹内 康浩
名古屋大学大学院医学研究科環境労働衛生学教室

(平成12年11月30日受付)


産業医学は臨床医学から出発した.鉱山労働者のじん肺に取り組んだアグリコラ,職業によって病気に特徴があることを明らかにしたラッマッチニ,煙突掃除人に陰がんが多発していることを発見したポット等,産業衛生学の先人達はいずれも臨床医であり,患者の疾病の診断治療から出発して,その原因の解明と予防対策にまで踏み込んだ医師たちである.しかし,問題解決のためには,因果関係の追及と,その結果に基づいた職業性要因の除去が必要である.また,労働者の健康は社会全体の重要問題である.わが国の人口約1億2,600万にうち,労働力人口は約6,800万人であり,約6,500万人が就業して(平成11年),経済や生活を支えている.従って,労働衛生の対象である労働者の健康保護は社会の最重要課題である.これらの課題の解決のためには産業衛生学と臨床医学の協力が重要性である.産業衛生学は健康障害の早期発見から出発し,その発生予防を目的としている.健康の変調を訴える労働者の多くは先ず臨床医を訪れ,その診断と治療を求める.従って,臨床医の協力とその情報が産業衛生学にとってきわめて重要である.さらに,労働条件と労働者の疾病との因果関係やその機序解明と問題解決には学際的な協力が不可欠である.平成8年には労働安全衛生法が改正され,産業医の専門性の確保がうたわれ,医師会の認定産業医等を得て,多くの臨床医が産業衛生分野で活躍するようになってきた.最近は,作業関連疾患,生活習慣病,メンタルヘルス等の比重が増大しており,これらの健康問題に対応するためには,産業衛生学会と職業・災害医学会の一層の連携が重要となっている.
(日職災医誌,49:337─340,2001)
─キーワード─
産業衛生,両学会の協力
UP

総 説
自動車事故率と運転実態

岡田 良知
日本文理大学工学部

(平成13年2月28日受付)


 人間行動と,精神活動の相互関係から,自動車事故の起りやすい状況が類推される.運転実態の実際から,事故を未然に防ぐ予防策について考察する.
 マイクロモーション分析では,対象行動に対して,その行動を記述する最小の意味行動単位を一つの固まりとして,対象行動の基本要素として扱い記述,分析することで,人間行動のありのままの姿を,その相互の意味の関連性を含めて分析できるようにする.
 普段の運転実態の観察にマイクロモーションの手法を応用することで,さまざまな状況を明らかにすることが出来,ここ10年,運転者の精神に余裕が失われて,無理な運転が目立つようになり,それが自動車事故に結びついてしまうと類推される.
 幹線道路は全般に1車線であることが多く,道路状況に応じて車間距離を維持することが前提となって,安全を確保することが出来る.横方向から進入する車に,車間を空けるゆとりがあれば,スムーズな道路全体の流れが得られる.
 悪意の運転を許さない運転ルールの構築が,これから必要である.
(日職災医誌,49:341─346,2001)
─キーワード─
マイクロモーション,交通事故,人間行動
UP

原 著
ニコチンTTS製剤(ニコチンパッチ)と呼気
CO濃度検査を用いた当院禁煙外来の現状


腹巻 久乃,寺尾 洋子,近藤 利美
紙本 貞子,前田  均
神戸労災病院看護部,呼吸器内科

(平成13年5月17日受付)


目的:禁煙指導を有効かつ有用に行うための患者背景を検討する目的で,ニコチンパッチを用いたニコチン代替療法と禁煙状況をフィードバックできる呼気CO濃度を測定を組み合わせ,個別禁煙指導を行った.
対象と方法:基礎疾患の有無にかかわらず,禁煙希望者に個別禁煙指導を行った.禁煙パンフレットの配付,ポスターの掲示および看護相談案内書作成などの院内公報活動を行った.禁煙指導は,1)喫煙状況のアンケート調査,2)禁煙目的の確認,3)禁煙の有害性の説明,4)呼気CO測定,5)習慣性喫煙のニコチン依存性と禁煙時のニコチン離脱症状の説明と対処法,および6)ニコチン代替療法の説明を行った.2週間ごとに8週間経過観察し,来院時ごとに禁煙状況,ニコチン離脱症状の有無及び副作用の有無をチェックし,呼気CO濃度を測定し禁煙状況の補助診断とした.
結果:禁煙指導が行えた希望者は48名で,男性38名,女性10名であった.完全禁煙成功者は18名(37.5%),50%以上の喫煙本数の減少を認めた減煙者は16名であった.完全禁煙及び減煙者を合わせると70.8%で有効であった.禁煙有効者の呼気CO濃度は低下した.禁煙指導の効率をみる指標の検討では,喫煙本数,喫煙年数,過去の禁煙歴,疾病の有無などは関係なく,FTQ指数の点数の低い者や呼気CO濃度が低い者で,禁煙成功者が多い傾向を示した.副作用としては,皮膚は発赤,かゆみなど局所症状を一部に認めた.
結論:本貼付剤と呼気CO濃度測定を併用した個別禁煙指導は有効な禁煙指導方法であった.今回の検討では禁煙導入に対する有用な予測指標は認められなかった.禁煙指導に対する有効かつ有用な方法の検討および禁煙維持に対する支援体制の導入及び確立が必要である.
(日職災医誌,49:347─350,2001)
─キーワード─
禁煙,患者指導,ニコチン貼付剤,呼気一酸化炭素
UP

管理3(イ)じん肺症例の離職後長期観察成績

木村 清延,酒井 一郎,三上  洋
中野 郁夫,大崎  饒
岩見沢労災病院内科

(平成13年2月15日受付)


粉じん職場離職後のじん肺例の進展の有無とその頻度や程度を明らかにする目的で,離職時管理2に相当した患者を10年から13年間経過観察した成績を,昨年の本誌に報告した.今回は同様の方法で,粉じん職場離職時に管理3(イ)であった例の,長期観察を行い以下の成績を得た.(1)胸部XP所見の進展例は103例中58例(56%)であった.この中大陰影の出現例は56例(54%)であった.(2)管理区分の進展のみられなかった例は38例(37%)であった.管理区分4に進展した例は25例(24%)であった.(3)合併症発症例は5例で,その内訳は,続発性気胸2例,肺結核と結核性胸膜炎が各1例,続発性気管支炎が1例であった.(4)観察開始時と最終観察時の呼吸機能を比較すると,管理区分の進展した群では最終観察時の%肺活量は有意に低下した.これに比して,管理区分に進展のみられなかった群では,%肺活量には,有意の変化はみられなかった.一方いずれの群とも,1秒率に有意の変化は無かった.離職時に管理3(イ)に相当するじん肺例を10~13年間の観察した結果,管理区分で63%の進展の見られた今回の成績から,これらの症例に対する定期的経過観察の重要性が示唆された.
(日職災医誌,49:351─354,2001)
─キーワード─
じん肺,長期観察成績
UP

特別養護老人施設における介護職の腰痛対策について

住田 幹男
関西労災病院リハ科

(平成13年2月22日受付)


老人介護の負担は高齢化社会とともに増加傾向にあり,施設介護は重度の障害老人を取り扱うことが多く,介護者の腰痛も多発している.今回は問診結果を中心に検討した.
方法:特別養護老人ホーム施設に勤務する介護職勤労者39名(男11名女28名)に対して事前に施設の看護婦を中心とした労働安全委員会と打ち合わせを行い,腰痛教室(リハ医による),理学療法士により腰痛体操の実技指導,腰痛健診を行った.
結果:1.腰痛の発生は66%にみられ,腰部の痛みが中心であった.腰痛発生の時間帯はいつとは言えないが圧倒的に多く,夜勤時や入浴介助時は少なく,慢性化していた.しかし起きやすい業務内容では入浴介助時が最も多くみられた.所見有りおよび精密健診要は39名中6名(女6名)であった.2.要精密健診者5名の症状は客観的な所見有り,作業管理が必要の程度であった.職業性腰痛での作業管理が必要とされたのは5名であった.3.勤務年数では3年以内が過半数を占めており,1年以内が最も多く,続いて3年,4年であった.年齢分布は2相性の分布を示していた.勤労年数と腰痛の発生は,圧倒的に2年以内の若年群に多く(p=0.089),就労時に集中して早期における作業に対する体力作りや介護技術の改善指導徹底の重要性が示唆された.
(日職災医誌,49:355─360,2001)
─キーワード─
職業性腰痛,介護職,腰痛体操
UP

脳卒中片麻痺患者の内反尖足変形に対する足部矯正手術の検討

赤城 哲哉
水俣市立湯之児病院リハビリテーションセンター整形外科

(平成13年2月28日受付)


脳卒中片麻痺患者の内反尖足変形に対する観血療法として,種々の矯正術が報告されている.当院では1985年以来,Vulpius変法に,長母趾屈筋腱(FHL)及び長趾屈筋腱(FDL)の腱延長術を組み合わせた矯正術を実施してきた.ここ3年間の治療成績について評価,検討した.症例は1997年から1999年に矯正術を施行した31人31足,男20例女11例,手術時平均年齢61.1歳,経過観察期間は平均1年11カ月であった.手術方法は,内反・尖足の矯正術としてアキレス腱延長術(Vulpius変法)を,また槌趾変形の矯正術としてFHLとFDLの腱延長術を併用した.術後の歩行状態,ADL動作,本人の満足度を総合して評価した.すべての症例で尖足・槌趾変形に改善があり,短下肢装具着用で歩行が容易となった.しかし,内反の強い症例では矯正が十分でなく,本人の満足度も低かった.
(日職災医誌,49:361─364,2001)
─キーワード─
内反尖足変形,Vulpius変法,(湯之児式)短下肢装具
UP

排尿筋収縮不全症例の検討

高木 隆治
新潟労災病院泌尿器科

(平成13年2月28日受付)


目的:排尿機能の老化現象の1つとされる排尿筋収縮不全による排尿障害が最近注目されている.今回その原因を臨床的に検討したので報告する.
対象と方法:対象は1999年1月以降当科通院の排尿筋収縮不全患者60例である.性別は女性34例,男性26例,年齢は50歳以上が59例と大多数を占めた.自覚症状は排尿困難が44例と多いのは当然として,頻尿を主とする蓄尿障害も多かった.既往としての関連手術ではTUR-Pが22例ともっとも多かった.他覚所見;尿所見では血膿尿が13例に,膿尿が10例に,血尿が8例にそれぞれ認められた.44例に50ml以上の残尿が認められた.1例に軽度の水腎水尿管を,1例に軽度の水尿管を認めた.膀胱鏡検査では肉柱形成が22例に,その他,慢性膀胱炎の所見が認められた.膀胱内圧検査は12例に施行され,11例が低活動型であった.治療はα遮断剤を主とする薬物療法がおこなわれたが,CICも11例に施行されている.
結論:高齢者で通院期間の長い症例が多かった.治療は薬物療法とCICが主であった.
(日職災医誌,49:365─367,2001)
─キーワード─
排尿筋収縮不全,排尿困難,前立腺肥大症
UP

中高年耐糖能異常者における無症候性の脳血管障害と
頸動脈硬化の危険性


竹内 直秀1),河村 孝彦2),佐野 隆久1)
1)中部労災病院代謝内分泌内科,2)同 一般内科

(平成13年2月28日受付)


目的:中高年の耐糖能異常者を対象に動脈硬化の進展と血管内皮障害との関連につき検討を行った.
対象と方法:40歳から69歳の中高年者に75gOGTTを施行し,30名の境界型(IGT群)と35名の糖尿病型を示すが細小血管合併症がなく食事療法のみの群(DIET群)に分類.また対照は50名の非糖尿病者(NDM群)と50名の血糖降下剤を服用中で合併症のない糖尿病患者(OHA群)とした.これらを対象に臨床的及び生化学的検査を行い,超音波装置を用いて総頸動脈の内膜中膜複合体(IMT)を測定し,総頸動脈分岐部及び内頸動脈のプラークの合計をプラークスコアとした.またMRIを用いて無症候性脳梗塞(SCI)の診断を行い,可溶性接着分子─sVCAM-1,sICAM-1,sE-selectinを測定した.インスリン抵抗性の指標はHOMA-Rを用いた.
結果:4群間では血糖を除く背景因子に差を認めなかったが,HOMA-Rは病型とともに上昇していた.しかしIGT群とDM群では有意差はなかった.頸動脈硬化は病型の進行とともに増加したが,IGT群とDIET群間には有意差が認められず,またSCIの合併も病型とともに増加したが,統計学的有意差はなかった.可溶性接着分子レベルsVCAM-1,sICAM-1,sE-Selectinは病型の進行とともに増加した.しかしIGT群とDIET群間でsICAM-1及びsE-Selectinに差を認めなかった.IMTはsICAM-1やsVCAM-1と有意に相関しsICAM-1はSCIを有する対象で有意に増加していた.
考察:IGTでは,軽症糖尿病患者と同程度の頸動硬化や血管内皮障害が存在し,これはインスリン抵抗性を基盤としている可能性が示唆された.以上よりこの様な病態の持続が虚血性脳血管障害の発症に結びつく可能性があり,早期における生活習慣の改善が必要と思われる.
(日職災医誌,49:368─372,2001)
─キーワード─
耐糖能異常,動脈硬化,接着分子
UP

外傷患者における感染性合併症の検討

吉池 昭一1),杉本 勝彦1),小関 一英2)
秋田  泰3),有賀  徹3)
昭和大学横浜市北部病院救急センター1),川口市立医療センター救命救急センター2),昭和大学医学部救急医学講座3)

(平成13年2月28日受付)

 外傷の重症度や治療内容などの因子が感染性合併症に関与しているのかを明らかにするために,鈍的外傷患者を感染群と非感染群との2群に,また感染群をMethicillin-Resistant-Staphylococcus Aureus(MRSA)感染群と非MRSA感染群との2群に分け,年齢,性別,重症度,受傷部位,入院期間,集中治療室入院期間,合併症(中枢神経系障害,呼吸機能障害,肝機能障害,腎機能障害),外科的手技,輸血量,予防的抗生物質,感染部位,転帰の各項目につきretrospectiveに比較検討した.
 感染症発症について統計学的に有意な危険因子は予防的抗生剤の有無,輸血量,性別,外傷重症度(ISS>25),頭部外傷であった.MRSAに関しては危険因子を同定することはできなかった.
 これらの危険因子を早期に取り除くことにより,感染による死亡率,予後を改善し得ると推定される.
(日職災医誌,49:373─379,2001)
─キーワード─
感染症,MRSA,危険因子,外傷
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舌と下口唇によるパソコン操作器具について

早川 泰詞
山陰労災病院リハビリテーション科OT

田中 芳則
労災リハビリテーション工学センターRE

新宮 彦助
山陰労災病院整形外科MD

(平成13年4月18日受付)


 障害を持つ方々にとって,パソコン操作の獲得は,自己表現や就労のために重要である.我々は発声と頚部運動がともに困難な高位頚髄損傷者(Pentaplegia)が,舌や下口唇(以下:下唇)を使うことによってパソコン操作が可能となる器具を考案した.
 操作は外付のタッチパッドを口の前に固定し,その表面を舌でなぞり,下唇でクリックボタンを押すことによって行なう.
 この器具を使用した結果,2名の高位頚髄損傷者がパソコン操作を獲得した.症例1:57歳の男性(Pentaplegia)は,お孫さんへ手紙や日記の記述ができるようになった.症例2:49歳の男性(C4)は,受傷前に仕事で用いていたコンピュータ設計ソフトが使えるようになり,在宅就労可能な見込みとなった.
 この器具は以下の5つの特徴を持つ.?高位頚髄損傷者(Pentaplegia)が舌や下口唇を用いて,パソコン操作を実現できる.?汎用のタッチパッドを使っているため,安価に作成できる.?作図の際に両クリック操作を行なう設計ソフトが使用できる.?この器具を使用するために,特別なソフトウエアを必要としない.?駆動部品が無いため,本体の整備が不要である.
 なお,頚部運動が可能な頚髄損傷四肢麻痺者にこの器具を適用する場合,キーを押すため棒を頭に付加すれば,より容易にパソコン操作を行なうことができる.
(日職災医誌,49:380─384,2001)
─キーワード─
頚髄損傷者,舌,入力器具
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膝蓋骨骨折に対する最小侵襲手術
─X線透視と関節鏡を用いて─


長野 博志,守都 義明
岡山済生会総合病院整形外科

(平成13年5月16日受付)


 膝蓋骨骨折に対し,X線透視と関節鏡を用い,経皮的に内固定を行った最小侵襲手術症例を検討した.
 対象症例は7例で男性3例,女性4例.年齢は平均49歳.交通事故が3例,転倒が3例,労災事故が1例.骨折型は横骨折1例,横骨折に粉砕を伴うもの3例,縦骨折1例,縦骨折に粉砕を伴うもの2例であった.
 全例小切開のみで行い,内固定法はtension band wring,cerclage wiring,cannulated cancellous screwを組み合わせて行った.レ線透視のみを用いた症例が3例,透視と関節鏡を用いた症例が4例であった.全荷重歩行は平均6日,可動域訓練は平均6日より開始した.入院期間は平均20日であった.治療成績はOA膝治療成績判定基準(日本整形外科学会)で,平均97点(90~100点).X線学的には早期骨癒合が得られ,遷延治癒や偽関節はなく,合併症もなかった.
 この方法を用いる場合,術前診断が重要であり,関節面の陥没や粉砕の評価に断層撮影は有効である.固定法はtension band wiringとcircumferential cerclage wiringとを用いるPyrford techniqueを基本として,回旋や側方への不安定性のある症例では,その固定性を確実とするためcannulated cancellous screwを追加している.
 粉砕が強く遊離した関節面を含む骨片が存在する症例はこの手技では整復不能である.経皮的方法は低侵襲であり,後療法もスムーズに行える利点はあるが,関節面の正確な整復,強固な内固定が困難であれば,観血的に行えばよいと考えている.膝蓋骨の最小侵襲手術は軟部組織の損傷が少ない治療法である.
(日職災医誌,49:385─389,2001)
─キーワード─
最小侵襲整形手術,膝蓋骨骨折,関節鏡
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頭部外傷後遺症例の神経耳科学的検討

正木 道熹,福岡  敏
中部労災病院耳鼻咽喉科

(平成13年2月26日受付)


目的:頭部外傷による聴覚・平衡障害は受傷時の様々な状況とそれに対する個体の反応の差でその程度が異なると考えられる.そこで,頭部外傷後遺症として残存する聴覚・平衡障害がどの程度かを検討したので報告した.
方法:主なる受傷部位の明らかな症例を対象とし,外力の種類,意識障害の重症度,難聴型,平均聴力レベル,平衡障害並びに随伴障害を検討した.
対象:1987年より1997年まで主なる受傷部位として前頭部・顔面は48例,側頭部は51例,後頭部は47例,頭頂部は9例で総数155例を対象とした.症例は事故後1年から10年に受診した.
結果:c5dip型感音難聴例(61耳)では平均聴力レベル(6分法)で40dB以内は86%であった.高音障害型感音難聴例(71耳)では40dB以内は65%であった.平衡障害を伴った前頭部・顔面受傷例は21例(44%),後頭部は18例(35%)側頭部は29例(62%),頭頂部は7例(78%)であった.水平型で80dB以上の聾型では転落事故(13耳)で後頭部(54%),側頭部(31%),頭頂部(15%),受傷例順に多く,交通事故(7耳),後頭部(51%),側頭部(29%),前頭部・顔面(14%)受傷例の順に多い.
まとめ:c5dip型,高音障害型感音難聴例では平均聴力レベルはほとんどが40dB以内であった.頭部外傷による聴力の悪化は受傷部位と外力の種類が関与し,転落事故で後頭部,側頭部に受傷し,直達外力が聴器に強く及ぶ場合に高度難聴となる.意識障害の重症度が増すほど第8以外の脳神経障害例(57例)がI度(18%),II度(26%),III度(56%)と,ABR異常例(13耳)がI度(31%),II度(31%),III度(38%)と増した.平衡障害を伴うc5dip型,高音障害型感音難聴例は聾型例と同等に視性眼運動系の異常を示した.
(日職災医誌,49:390─396,2001)
─キーワード─
頭部外傷後遺症,聴覚障害,平衡障害,意識障害重症度
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当科における脛骨高原骨折の手術成績

三浦  亮,三上 容司,三好 光太
横浜労災病院整形外科

岩野 孝彦
横浜労災病院スポーツ整形外科

(平成13年2月28日受付)


 当科で手術治療した脛骨高原骨折の治療成績を検討した.
 対象は平成3年9月から平成12年1月までに当院にて手術治療した患者61名中,X線検査等で手術後6カ月以上の経過観察の可能であった43名43例(女性11例,男性32例)で,受傷原因は交通事故が23例と半数を占めていた.
 骨折型はHohlの分類を用い,術後成績の評価には,X線評価としてRasmussenの評価基準を,機能評価として日整会OA膝治療判定基準(JOAスコア)を用いた.術後経過観察期間は平均18カ月であった.
 最終観察時のX線評価は平均12.7点(18点満点),JOAスコアは平均93.6点(100点満点)であった.関節破壊の強いType C,FでX線評価が劣っていたが,JOAスコアでは全体的に良好であった.
 荷重を支える支持性と運動のための可動性という二つの機能を温存,再建するために,関節面の整復および骨欠損部への骨移植ならびに強固な内固定を行ってきた.また術後長期の外固定は行わず,早期からCPMを行うことにより,軟骨再生がはかられ,良好な可動域が得られたことが良好な術後成績につながったと考えられた.
(日職災医誌,49:397─400,2001)
─キーワード─
脛骨高原骨折,手術治療
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症 例
外頸動脈結紮に到った顔面外傷の1例

野口 和広1),佐久間貴章1),松本  学2)
奥野敬一郎1),渡辺 尚彦1),調所 廣之1)
関東労災病院耳鼻咽喉科1),昭和大学病院耳鼻咽喉科2)

(平成13年2月28日受付)

顔面外傷例で,鼻および口腔からの出血の止血が困難な場合,気道確保のため,気管切開や血管結紮などの処置が必要となるが,その頻度は稀である.今回,スポーツによる顔面外傷で遅発性に大量の鼻出血をきたし,外頸動脈結紮術を施行した症例を経験したので報告する.出血の責任血管は2本あり,後鼻腔タンポンや塞栓術による止血が困難であった.骨折の偏位や機能障害が軽微でも,顔面の腫脹が激しい場合,入院治療が必要であると考えた.特に上顎骨後壁骨折例では,顎動脈本幹周囲に血管損傷の可能性が高く,注意が必要と考えられた.外頸動脈結紮術の有用性を確認した.
(日職災医誌,49:401─404,2001)
─キーワード─
顔面外傷,外頸動脈結紮,鼻出血
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陳旧性第1楔状骨骨折の1例

平本 貴義,野村 茂治,白仁田 厚
九州労災病院整形外科

岡田 貴充
九州大学整形外科

(平成13年5月17日受付)


 第1楔状骨の骨折は比較的稀な骨折とされている.今回我々は陳旧性第1楔状骨骨折のため第1趾の短縮をきたした症例を経験したので受傷機転,診断,治療法について若干の文献的考察を加え報告する.
 70歳男性.約1mの高さから転落し,左足関節が背屈強制されて受傷した.近医整形外科を受診し第4中足骨骨折の診断にて,1カ月間の免荷・短下肢ギプス,その後足底挿板装着による歩行を行っていたが疼痛による歩行困難のため,受傷後23週で当科紹介受診となった.
 左母趾リスフラン関節に圧痛と,骨性の突出・腫脹を認めた.健側と比較して左母趾は約1cm短縮していた.また前足部外転変形・縦アーチの減少を認めた.
 単純X線前後像で第一楔状骨遠位3分の1は圧潰し,第1,第2中足骨間には若干の離開を認めた.
 単純CT像では第1楔状骨底側は粉砕し一部に変形癒合を認めた.第1楔状骨第2中足骨間は離開していた.
 術中所見では,第1楔状骨・第1中足骨間は底側部で不整になっており,両関節面の骨切りを行い,自家腸骨移植を行った.第1楔状骨第2中足骨間の関節面も不整であった為,海綿骨移植による固定を行った.また第1・第2中足骨基部では変形癒合による離開が認められたため第1第2中足骨間を引き寄せmini screwによる固定を行った.
 楔状骨は多数の小靭帯により強固に固定されているため,脱臼・骨折は起こしにくい.この部の骨折の受傷機転として,足関節完全背屈時に足関節の安定性が低下し,内外反力がかかりやすくなることが考えられる.治療においては,足部アーチの破綻による疼痛の発生を防ぐため,足部の縦アーチと横アーチの整復が大切である.
(日職災医誌,49:405─408,2001)
─キーワード─
第1楔状骨,観血的治療
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上腕部切断に対し再接着術を施行した1症例

薗田 恭輔,稗田  寛,金崎 克也,玉木  隆
西田 俊晴,平井 良昌,井上 貴司,山田 康人
門司労災病院整形外科,済生会二日市病院整形外科

(平成13年4月25日受付)


 上腕部切断に対し再接着術を経験したので報告する.
 36歳,男性.1999年9月28日,仕事中ベルトコンベアーに左上肢を巻き込まれ受傷.来院時,左上腕は中下1/3でほぼ完全に切断されており,中枢と連続する組織は上腕三頭筋の一部と尺骨神経,伸長された正中神経のみであった.単純X線写真では上腕骨の離断に加え,尺骨骨幹部の開放骨折と橈骨頭の脱臼も認めた.直ちに全身麻酔下に再接着術を施行した.上腕骨は2cm短縮しプレートにて固定し,上腕動脈をマイクロ下に縫合した後,上腕静脈,肘正中皮静脈,橈骨神経の順に縫合した.正中神経は伸長された状態であり,internal neurolysisを施行した.阻血時間は6時間であった.尺骨骨幹部はプレートで固定した.橈骨頭は整復されるも易脱臼性でありKirschner鋼線で固定した.術後血行状態は良好であり,3週目に遊離皮膚移植術を施行し,5週目より装具装着し可動域訓練を開始した.
 術後1年の現在,外見上左上肢の若干の短縮を認めるが,美容上の問題は特に認めない.肘関節伸展-10度,屈曲90度であり,MMTは屈曲,伸展共に4 である.日常生活でもボタンをかけたりは出来ないが,コップをつかんだり,小さな物をつまんだりは可能である.Chenの評価基準では,Grade IIであった.
(日職災医誌,49:409─412,2001)
─キーワード─
上腕部切断,再接着術,機能的予後
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